5.最初から分かってたんだ二人一緒に終わるしかない

そしていよいよ、両者一定の準備期間を経て、ついに戦争が始まろうとしていた。

蔓延りだした当時は悪魔の数は数千にも及んでいたが、今は凄腕の人間達が狩りに狩ったお陰で数百にまで減っている。

だがそれでも、人間達の応戦できる人数も僅か数十という少なさだった。

戦えぬ人々を洞窟内へ匿い、数十という人間軍成る者達が銀次を中心として洞窟を守るように配備され佇んでいる。

一方、アカギが率いる悪魔軍はその身を宙に停止させ、彼の指示が出るのを只ひっそりと待ち続けていた。

両者しばしの沈黙は、激しい嵐が巻き起こる前触れのよう。

人間達は迂闊に手を出せないことは分かっているので、只静かに息を呑んでその瞬間を待っていた。

すると、アカギが右腕を掲げ、手首を前に倒す。

それを合図に一斉に人間達へと向かっていく悪魔達。

一方、人間達はそんな彼らを待ち受け、真っ向から勝負を試みる。

そんな中、カイジはゆっくりとアカギの元へと向かっていった。

その様子を銀次は横目で安全を確認しながら応戦している。

だが一行に彼が襲われる気配は無く、一匹たりとも彼に目を止める奴も居なかった。

それは一体何故なのか、森田と天もそれは思うところだった。

しかし、その疑問を持っているのは人間だけでは無い。

悪魔達も同じで、王であるアカギを誰一人狙わぬ事に疑問を感じていた。

すると宙に身を留めていたアカギが、大きな翼をはためかせてゆっくりと下降を始める。

二人が互いの元へ到着するのはほぼ同時で、崖先の地でそれぞれ向かい合った。

それは両者の軍が驚くほど近く、どちらが命を取っても可笑しくはない距離だった。

互いに彼らの争いの手は止まり、二人の様子を見守るようにその場に留まっている。

「カイジさん…久しぶり」

笑顔で言うアカギに、カイジも笑みを返しながら、初めて見る彼の大きく立派な黒翼、悪魔としての姿に恐れ戦く所か、美しささえ感じた。

「あぁ…一つめの約束は守ったぜ?アカギ」

「そうだね…」

静かに語らう二人の姿は、まるで旧友のような落ち着き払った者。

「ところで、誰もオレを狙ってこねぇな…」

「ククッ…二人で同じ事を考えていたらしいね」

「お前、他の奴等に何て言ったんだよ」

「オレ以外がアンタを狙うなら消す、それを条件に戦争へ付いてきただけ…そう言うカイジさんは?」

「オレも同じ様なもん…お前の相手はオレだけに任せてくれって頼んだ」

互いの言葉を聞いて、二人は同時に笑った。

周りから見れば、二人の周りだけ戦争とは全く別の空気が漂っている。

まるで元から、戦争をする予定では無かったかの様な。

「その翼、スゲェな…立派だ」

「ククッ…ありがとう、所でお友達との約束は果たさなくて良いのか?」

「ああ、良い…きっとあの人達が果たしてくれるだろ」

そう言って今は休戦中の彼らに視線を向けたカイジに続いて、アカギも人間達や手を止め見守っている悪魔達に視線を向けた。

「そう…なぁ、カイジさん」

「…ん?」

視線を戻し、俯いたアカギは少し悲しげな表情だ。

「人間になるには…アンタとこのまま一緒に居るためには、どうしたらいい?」

カイジは困ったような笑みを浮かべた。

「オレだって同じだよ、お前と一緒に居るための、悪魔になる方法が知りてぇ」

お互いに視線を合わせ、また微笑み合う。

それは何処までも考えが一緒だという安心感から来る、笑顔だった。

互いに最期はどうするべきか、頭の中で自然と答えを導き出している。

だからこそ、安心していられた。

悪魔が人間になる術は無く、同じように人間が悪魔になる術も無い。

棲む世界がかけ離れ、惹かれあう事さえも許されない二人が最期にすべきこと、それはたった一つだ。

「なぁ、アカギ…」

「なに?カイジさん…」

運命が全てを拒むのならば、神が全てを許さぬならば、それを捨て去るのみ。

「一緒に行く≠ゥ?」

「決まってる、勿論行く≠諱cアンタとなら」

「アカギ…」

「カイジさん…」

身を寄せ合い、その唇が触れ合う頃には…二人の脚は地を離れていた。

ゆっくりと断崖へ身を投げるその姿は、麗しく孔を描く。

敵対していた両者達はみな、目を見開いてその光景を目の当たりにする事しか出来ないでいた。

二人にとっては、まるで永遠にも感じられる時間。

目も眩むような高度にも関わらず、二人は恍惚な笑みを浮かべて抱き合ったまま、見詰め合いながら下降するその時間さえも、楽しむかのように落ちてゆく。

今や戦争をしに来たと言うことさえ忘れて、両者は断崖絶壁へと脚や翼を動かしていた。

瞬く間だった…二人以外の者達が感じた体感時間は。

「…アカギさん、何てことを…」

「魔王たるアカギさんが死んだ今…俺たちは終わりだ」

零と涯が崖下を見下ろしながら、悲痛に顔を歪めている。

魔王が死ねば、他の悪魔達は大幅に力も生命力も下がってしまうのだ。

「カイジ…全く、とんでもねぇ奴だな」

「銀さん、彼等の顔…」

「ああ…なんとも幸せそうだ…」

地に落ちた悪魔と血に染まった救世主、共にとても綺麗な笑顔で死んでいた。

遠目から観れば、まるで…日光浴をしながら眠っているように見えるくらいに。



二人が出した決断は、死合わせ。

そうする事で全てのしがらみから、二人は開放された。

死して初めて、神は二人を赦したのだ。

神は二人を人間として生きることを与えたのだ。

現代を生きる二人は、当時の記憶も無く互いに別々の生き方をしている。

一方は組に雇われる代打ちとして。

一方は借金を肩にギャンブラーとして。

しかし、生まれ変わっても尚、運命は巡り続けるのだ。

「…あ、ヤベェ…」

真夜中午前0時、町の一角にある喫煙所にてカイジがタバコを吸おうとしていたが、ライターを忘れて来て零した言葉が、これだった。

「…どうぞ、あげますよ、コレ…」

そう言って隣ですでにタバコを吸っていたアカギが、百円ライターを取り出して緩やかに微笑んだ。

「あ、すいません…どうも」

軽く会釈をしたカイジは笑顔で受け取ったライターで火をつけた。

紫煙を吐き出した後、カイジは言う。

「オレ、伊藤カイジ…ライターの礼だ、コレくらいしか出来ねぇから…」

驚いて目を見開いているアカギだが、次にクスッと笑って返した。

「どうも…オレはアカギ、赤木しげる…」



運命に導かれて、新たな二人の物語が始まる…。


THE END



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確かに恋だった様よりお借りしました。

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