2.眠るきみに秘密の愛を
命をも賭けるほどのスリリングでハイレートな麻雀勝負を終えて、明け方に帰宅してくると部屋には寝息だけが響いている。
オレはいつも、この時間が大好きだ。
子供のように無邪気な、カイジさんの寝顔をじっくり見る事が出来るから。
「ただいま…カイジさん」
小さく言って、ベッドの脇に腰掛ける。
普段のギャンブル狂とはほど遠い、オレしか知らない彼の寝顔。
黙って静かにじっと眺めていたら、急にカイジさんが寝言を言い始めた。
「…むにゃ…ぁカギ…」
「ん?…どうしたの?」
「…あい…たい…」
あい、たい?逢いたい?誰に?オレに?
そのまま黙って聞いていると、突然大きな声でハッキリとカイジさんは言った。
「アイス食べたい!…むにゃ…」
思わず吹き出してしまった。
「アイスって…良いよ、買って来てあげる」
答えてあげると、声が聞こえているのか居ないのか定かではないが、カイジさんは寝ながらではあるもののニッコリと笑った。
全く可愛い要求してくれるもんだ。
叶えないわけにはいかないでしょ、こんな笑顔見せられたら。
「その代わり、アンタはオレに沢山の愛を頂戴?」
「…んー…すき…」
寝ながら笑顔のまま頷いてそう零す彼に、堪らず唇を寄せる。
が、次の寝言で距離はピタリと止まった。
「スキンヘッド!…良いと…おも…むにゃ…」
スキンヘッド?なんで?どうしてそんな言葉が出てくるの?
アンタ一体今どんな夢を見てるのさ…。
「…アカギぃ…むにゃむにゃ…」
「…今度はなぁに?」
「…傍に、ろよ…なぁ…むにゃ…愛し…てる…むにゃ…」
その寝言に、オレは自然と笑顔が零れた。
普段は素直じゃないアンタだけど、夢の中だと素直なんだね。
少しだけ、夢の中にいるオレに嫉妬するよ。
「オレにも、そう言ってよ…」
夢見たままの彼に、口付けしてみるとその頬が赤くなった。
覗いてみたいな、カイジさんの夢の中。
それからも少しの間眺めていたけれど、もう寝言はそれ以外無かった。
一時間ほどが経った頃、オレは立ち上がって今し方帰ってきたばかりの部屋を出た。
けれどもコンビニなんてすぐ近くにあるから、出ても物の数分で帰ってくる。
これで帰ってもまだ起きていないんだろうな、とアイスの二つ入ったビニール袋を手に扉を開けると…。
「…あ、おかえりアカギ!」
今さっき起きたんだ、と笑いながらカイジさんは続けて言う。
「丁度良かった、オレ今さー」
寝癖の付いた髪をいじりながら、お前の夢見たんだけど、とまで言われたところでビニールを掲げてみせる。
「え?…お前まさか…」
「買って来たよ、コレ」
笑顔でビニールを掲げるオレに対して、カイジさんは何処か驚いたような表情を浮かべている。
当然だな、今帰って来たとばかり思っているんだろうから。
寝言を聞いていた、なんて知らないわけだし。
「…ま、マジで買って来たのかよっ!?」
「そうだよ、だから…」
「ブロンドのカツラをかっ!?」
「ゴメンそれ何の話っ?」
呆れた顔をしてみせると、お前が夢で買ってきて被り出したんだと言う。
そんな宴会芸みたいな真似を、オレがリアルですると思ってること自体呆れる。
「…アンタ、オレを何だと思ってんの?」
芝居とはいえ怒ったような素振りを見せてみると、案の定困ったような表情でオロオロし出す。
面白いから、もう少しいじめてやろうと思った。
「本当にそんな物を買ってくると思う?アンタはオレに、どうして欲しいの?たまにはふざけてるオレが見たいの?オレの事をどう思ってるの?」
質問攻めにしてみると、更に困ったような顔をして肩を竦ませる。
オレが夢の内容一つで、ここまで怒るわけないじゃない。
こう言うときだけ素直だから困るんだよな。
もっと別の所で素直になってくれれば良いのに。
「…ごめんってマジで!そのままのお前が好きだから!愛してるから、傍にいてくれれば…それで、良いって言うか…」
最初は勢い付いて言い出したものの、語尾に近付くにつれ段々と声が萎んで、それに比例するように顔が赤くなっていく。
オレもオレで、そんな言葉が返ってくるとは思ってなかったから正直、爆ぜそうなんだけど。
いつもなら、悪かったよ!で終わらせるクセに…寝言と同じような事そのまま言ってくれちゃってさ。
なんか、買い物のお代をお釣りが来るほど貰えた、そんな感じがする。
十分すぎるほど貰ったけど、もう少し要求してみようか。
「じゃぁ…キスしてくれるなら許す」
「えっ!?お、オレから…かよ…っ?」
「そうだよ、たまにはしてよ…アンタから」
いつもオレからなんだから、今日くらいはアイスも買ってきてあげたんだし、してくれても良いんじゃないの。
きっと、夢の中のオレにもしたんだろ?
ジッと彼の困った顔を眺めていると、次期に覚醒した時のようなカイジさんの姿が垣間見えた。
「………わぁったよ!」
グイッと引き寄せられ、勢いよく塞がれる唇。
まるで獣だな、と思いつつそんな彼の口付けも好きな自分がいて、凄く幸せに溶けそうな気がした。
あっ…と思い出して、唇が離された瞬間にビニールを掲げ直す。
「コレ、いい加減受け取ってくれる?」
「あぁ悪い、忘れてた…そう言えばこれ何だ?」
「アイスだよ」
「おぉ!そう言えば夢でも、アイスがどうのとか言ってた気がする…お前すげぇな!」
感激しながらビニールから一つ取り出して封を開けているカイジさんに、微笑みかけたオレは言ってやった。
「アンタのキスで熱くなったオレの体温で、溶けてないと良いけどね」
「…な、何言ってンだバカ…っ!」
ククッと笑って、コレ食べ終わったら寝ようかな、と思う。
それと同時に、オレの夢にはカイジさん出て来てくれるかな…と期待した。
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カイジの寝顔は無防備だと思う…しっかし何処が秘密かワカランwww
確かに恋だった様よりお借りしました。
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