「カイジさ〜ん!おはよーっす!」
「よぅ佐原、おはよう」
「カイジ、お早う…」
「おぅ一条、お早うさん」
「カイジ先輩!お早うございます!」
「あぁ零、おはよう」
「…伊藤先輩、お早うございます…」
「よぉ涯、おはよう」
オレの通う、ざわめき学園にはこうやってみんなから慕われる3年の先輩、伊藤カイジさんがいる。
登校時は毎日こうして色々な人から挨拶をされるような人だ。
オレも本当は挨拶してみたいけど、一度も話したことがないからそれさえ躊躇してしまって出来ないでいる。
目があったりする事もたまにはあるけれど、恥ずかしくてすぐに反らしてしまう。
勿体ないとは思うけれど、どうしても恥ずかしくて見続けられない。
同学年なら、もっと色々な手段でお近づきになることは出来ただろうけど、オレは2年だから難しい。
カイジさんのクラスの人と仲が良い友人がクラス内に居るわけでもなく、ましてやオレ自身に友人という物がクラスに居ないからもっと無理。
1年の宇海零とか、その行動力が羨ましい限りだ。
今日も朝の挨拶が出来ずに昇降口まで来るはめになった。
溜め息を吐いて靴を下駄箱に放り込んでから、足取り重く歩き出す。
今日も無駄に一日が過ぎるのか、と昼ご飯を食堂でと歩いていたときだった。
前からカイジさんが、佐原さんを連れて歩いてくるのが見える。
今日は彼も食堂で食べるのか、と嬉しくなる反面、佐原さんが羨ましくて堪らない。
そんなことを思いながら歩いていたら、カイジさんと同じタイミングでドアの前に到達してしまった。
「ぁ…お先にどうぞ」
オレが手で示すと、カイジさんは笑顔でサンキューと返してくれた。
初めてだった。
カイジさんと、こんなに近くで話したこと自体が。
表情には出さないが、一人で内心キュンキュンしていた。
しかし、扉を開けて入っていくのかと思いきや、オレの方に振り返って一言。
「お前、一人で食うの?」
「………え、まぁ、そうですね」
一瞬動揺してしまって返答が遅れてしまったが、怪しく思われなかっただろうか。
だが、オレの心配を余所にカイジさんはまた、あの優しい笑顔で言った。
「なら、一緒に食うか?一人じゃつまんねぇだろ?」
驚きすぎて目を見開いたオレに驚いたんだろう、カイジさんも驚いた顔をしている。
「いや、別に一人ってのを否定したわけじゃなくて…なんかゴメンな?一人が良いなら別に無理にとは…」
言葉を発しながら段々と眉の端を下げていくカイジさんに、オレは首を横に振って頬笑んだ。
「いえ、こちらこそ…誘って貰えるとは思っていなかったので、つい驚いてしまって…」
「あ、そうか!なんだ…良かった、オレ変なこと言っちまったかと…」
ホッとしたような笑顔を見せながら言うカイジさんに、オレはもっと深みにはまっていく気がした。
「あの…本当に一緒で良いんですか?」
「あぁ勿論!って言うかお前って2年か?」
まだ学年を言っていなかったのに、何で分かったのだろうか。
そうですが、と答えると彼はやっぱりなと笑っている。
「1年なら、一人で学食なんて心細すぎて来ないだろうからな…そうそう、オレは伊藤カイジ、好きなように呼んでくれて良いから」
言いながら入っていく彼の後を、オレも付いて行きながら答える。
「はい…じゃぁ、カイジさんと呼ばせて貰いますね…オレは赤木、赤木しげるです」
「そっか、じゃぁオレはアカギって呼ぼうかな…良いか?」
「勿論、構いませんよ、カイジさん」
オレはその日から毎日が色付いて、嬉しくて嬉しくて堪らなかった。
朝の登校時も、周りの人と同じように挨拶も出来るようになったし、廊下ですれ違えば声を掛けて貰えるようにもなった。
今まではオレだけがカイジさんを見ていたけれど、今や彼もオレを見てくれるようになった。
これ以上の幸せを望んではいけないとは思うけれど、それでもオレは貴方の特別になりたいと望んでしまう。
それは、いけない事なんでしょうか…。

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