だって、アンタはこの世界中で誰よりも一番優しいと思うから。

だって、アンタはこの世界中で誰よりも一番傍にいたいと思うから。

だって、アンタはこの世界中で誰よりも一番…。

奇麗だから、オレの汚れを半分擦り付けて汚したくなるんだよ。

そうすれば、アンタはオレと同じになるんだよね。

オレは近付けないから、アンタを近付かせれば良いんだね。

ねぇ、カイジさん…お揃いって良い言葉だと今初めて感じたよ。

これからもっと色々な事を教えてくれるんだよね。

良い事も、悪い事も全部。

もう一つ気付いた事があるんだよ。

ここまでアンタに執着する理由が分かったんだよ。

アンタの全てが欲しいと願うこの気持ちは、愛情という物なんだって知ったんだ。

すっとオレの傍に居てよ。

ずっとオレだけを見てよ。

ずっとオレだけの者になってよ。

誰の元にも行かないで、誰の姿も見ないで、誰の者にもならないで、オレだけを必要としてよ。

だからアンタをオレで染める事にするね。

手始めに、そう…アンタの唇を頂戴。

良いよね?…カイジさん。

しっとりと触れ合った唇から離れると、まるで凍り付いたように動かなくなってしまった。

怒っているんだろうか。

オレがいきなりこんな事をしたから。

オレはただ、特別な触れ合い方をしたかっただけ。

アンタだけはオレの特別だから。

愛してるよ、カイジさん…なのにどうして目を反らすの。

愛してくれないの?オレはこんなに愛してるのに…。

どうして?

オレが汚れているから?

他の奴にこういう事を許してきたから?

もう誰ともこんな事しないって誓うよ?

あぁ…アンタの中で邪魔をしている奴が居るんだね。

佐原って人?それともお兄さん?

ねぇ、誰…誰なの、オレ以外の誰を見てるの。

そんな奴、この世から消えてしまえばいいのに…。

「…パ、パチンコ…行ってくる…っ!」

オレの手を振り払い、立ち上がると玄関へ向かってしまう。

「か、鍵のスペアは、棚ん中に入ってっから…出掛けんなら、勝手に持ってけよ…じ、じゃぁな…っ!」

その言葉を残して、彼はそのまま部屋を出て行ってしまった。

オレは言われたがまま、棚を探ってみるとストラップも何も付いていない合い鍵を見付けた。

そうか、人付き合いが苦手だから、オレに上手く言葉で伝えられなかったんだ。

だから愛してるから恋人になってくれ≠チて意味を合い鍵に込めたんだね。

「可愛いカイジさん………?」

左手の中の鍵を胸元でキュッと握りしめ、棚を仕舞おうとしたとき中に写真のような物が見え隠れしている事に気付いた。

取り出して見てみると、そこにはカイジさんともう一人、栗毛色の長髪の男が映っている。

これは一体誰なんだろう。

写真の裏には電話番号らしき数字が書き並べられている。

それを違う紙に写し書きをし、写真を中に仕舞ってから棚を閉じて部屋を後にした。



冬空の凍てつくような風を切って、急ぎ足でパチ屋に向かっている。

思い出しただけでも、顔が火照る。

まるで寒さなど何処吹く風。

いきなり近付いてきたと思ったら…キ、キスとかアイツ何考えてんだ。

「恐れ知らずも良いとこだ…ったく…………っ!」

って言っておきながら、柔らかかったなとか考えてんじゃねぇよ、アホかオレは。

いつも贔屓にしているパチ屋に到着すると一目散に奥へ向かい、適当な台の前に腰掛けた。

一万をポイッと台の中に放り込んで、玉を出すとハンドルを回す。

しかしいつも以上に集中出来ず、4つ入っている事にも気付けない状態だ。

ああいう行為をするって事は、少なからず好かれていると言う事だろうとは思う。

思うが、簡単に身を投げるのも余り賛成は出来ない。

昨日知り合ったばかりだし、もう少しお互いに色々と知ってからの方が良いとも思う。

自分の身体なんだから、少し大切にしろと後で忠告しておいてやろう。

そんな事を考えていると、喧しい店内にも関わらず一つの言葉が隣の席からハッキリ聞こえた。

赤木しげる

その瞬間から、周りの騒音は空気を読んだかのように、オレから遠離っていくような気がした。

「へぇ〜そんなに良かったのか?男なのに」

「あぁ、抱き心地がスゲェ良いわけ、やってる時のあのエロさは説明できないね、病み付きになりそうだったよ」

「どんだけだよお前、そのっ気なんか無かっただろ今まで」

「勿論そうさ、でもあの男だけは何か違うんだよな…なんて言うか、魔性って言葉が一番しっくりくる」

「じゃぁオレも今度お手合わせ願おうかな〜…誘われる事があればの話だけどさ」

そう言って笑っている、隣の席の男二人組。

まるで思考回路が定まらない。

どういう事だ…抱き心地ってなんだよ。

本当にこれはアイツの話なのか?

誰か、教えてくれよ…いや、それなら自分で確かめる。

この話が真実かどうか。

オレは打っているという事も忘れ、男の肩を掴んだ。

「ちょっと良いか…今の話、オレにも詳しく教えてくれねぇかな、ここだとちょっとアレだから…別の場所でさ…」

オレの申し出に、2人の男は快く了承してくれた。



『もしもし…』

公衆電話の受話器からある男の声が響いてくる。

『もしもし?…カイジか?何かあったのか?』

それは彼の兄である男の声らしい。

「…なんだ、お兄さんの番号だったのか…良かった…」

『なっ………お前は…っ!』

受話器越しの声が、とても焦っているようだ。

誘拐犯か何かと勘違いされているらしい。

そんなんじゃない、オレはカイジさんと将来を約束した仲だから、何も心配は要らないのに。

「どうも…オレはアカギ、赤木しげる…カイジさんのお兄さんですよね、大丈夫、誘拐犯とかそんなんじゃない」

受話器の向こうで、困ったような小さな声が聞こえてくる。

あぁ…きっとカイジさんはもう話してくれているんだ、オレ達の関係の事。

だから了承しようかどうか、お兄さんはまだ迷っているんだろうな。

悪い噂ばかり囁かれているというのは、オレも分かっている事だから。

「会って話しをしたい…」

『無理だ、仕事が忙しくてね…席を外せないんだ』

「少しだけで良い…すぐに済みますよ」

『………』

考えているのだろう受話器の向こうから押し黙る声がすると同時に、仕事場の人達の声も少し漏れ入っている。

と、その時聞いた事のない名前が受話器の向こうで一段と大きく聞こえたかと思うと、すぐに彼は反応を示した。

何でもないと受話器の向こうの誰かに言ってから、時間を作ってやるとオレに答えを返してくる。

『で、何処へ向かえば良いんだ?…』

「そうですね、それじゃぁ………」

合流場所を伝え電話を切ってから数分後、オレの待っている場所に彼は現れた。

「お忙しいのに、わざわざすいませんね…」

写真で見た通りの顔だが、今は少し険しい顔になっているみたいだ。

「…挨拶は良い、早く済ませてくれないか」

お世辞にも似ているとは言えない男の顔。

「ご両親について、お聞きしたい…なぜ遺品が一つも無いのか」

一瞬、彼の眉がピクリと跳ね上がる。

「…そんな事は、君には関係ないだろう…話す義理はないな」

組まれている腕に置かれた指が、落ち尽きなくリズムを刻んでいる。

「そうですか、それはそれは…それじゃぁもう一つ、良いですか」

息を呑む音が、微かに響いてきた。

「一条とは、一体誰の事なんですかね…」


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