全く予想外の幼い自分の気持ち悪い変貌振りに、思い出しただけでも吐き気が沸き上がってくる。
まず、オレ達がよく利用し、カイジさんのバイト先でもあるコンビニへと向かった。
佐原は働き者のようで、結構毎日のように色々な時間帯のシフトに入っている。
自動ドアを抜けると、やはりレジには見慣れた男が立っていた。
「いらっしゃ…あ、アカギさんじゃないっすか!」
「どうも…」
挨拶はさっさと済ませ、早速本題に。
「ちょっと聞きたいんだ、しげる知ってるよなアンタ」
「あぁ、アカギさんのミニマムっすよね?彼がどうかしたんすか?」
「いきなりおかしくなった…何か知らないか?」
佐原は深々と考えていたが、不意に何かを思い出したようだ。
「そう言えば!昨日店に来てたんすけど、確かそん時に…」
『虎から猫になれる術を得たから』
「…って言って見たこと無い笑顔返してきたんすよね〜」
あれには驚いたなぁともう一度思い出しながら言っている佐原に、その事について詳しく聞いてみようとしたが、彼もそれ以上は聞いていないという。
まぁ仕事中と言うこともあり、長居するのも迷惑するだろうと考えた末に退店することにした。
「他に思い出したことがあったら、カイジさんのところに連絡入れてくれればいい…じゃぁ」
そう言うと、佐原は了解ッス!と笑顔で返してくる。
自動ドアを抜け通りに出ると、今度はあの人に聞いてみるかと思い立って歩き出した。
昨晩のこと…しげるはポケットに忍ばせた物を指先で感触を確かめながらコンビニへと入った。
「いらっしゃいませー…あ、しげる君じゃないっすか、何か嬉しそうっすね」
「フフ…まぁね」
そうとだけ言って、しげるは店内にある目の付く商品を適当に籠に入れると佐原のレジへと持ってきた。
「2人に買い出し頼まれたんすか?こんなに沢山」
「いや…ただ、ちょっと…ね」
珍しく無表情が無いしげるに、佐原は訊ねてみた。
「何かあったんでしょ?さっきからずっと笑顔だもんね」
「…分かるんだ」
「そりゃぁね、ずっとニコニコされてちゃ気付かないわけがないって」
「ふーん…虎から猫に成る術を得たから」
「…え?」
それだけ言うと、金を出してビニール袋を受け取るしげる。
釣りを渡そうとすると、アンタにあげると言われ少し躊躇したが貰うことにした。
しかし、気になったので問い掛けてみることに。
「しげるくん、今のはどういう意味なの」
「…秘密」
ニヤリと笑ったしげるは、そのまま店を後にした…。
これが、昨晩の一部の行動であった。
その頃カイジ宅では…やっぱりしげるの相手に苦戦していた。
「ねぇカイジさん、今日は何を作ってくれるの?」
丁度昼頃という時間帯、台所に立って野菜を大雑把に切り刻んでいたところで背後から、そう声を掛けられたわけである。
「まともな材料がねぇから、あり合わせの野菜炒めな…別に良いだろ?」
大体のところ、いつものしげるであれば『別に良いよ、何でも』と返ってくるのが普通であった。
いつものしげるで、あれば…。
「カイジさんの野菜炒め大好き、男らしいけど…優しい味がするから」
ここまでぶっ飛んだ返しをされても、オレは段々と慣れてきていた。
人間の慣れという物は恐ろしいもんだ。
「そうか?ありがとな」
と、笑顔で返せるようになってしまっている。
更には、素直なしげるは可愛いなと思うようになってしまっているもんだから、尚恐ろしい。
手間暇を掛ける気がない料理はすぐに出来上がって、テーブルの上に並んだ。
もちろん、運ぶときもしげるは笑顔で手伝ってくれて、まるで我が子であるかのような可愛らしさが沸き立つ。
席に着くと、手を合わせていただきます、なんて言うしげるの姿に頬が緩んでいる事に、自分で苦笑した。