一応一件落着か…、と肩を撫で下ろしたカイジは本日シフト無し。

こんな時は仕事があっても良いかもしれないと、少し仕事の有難みが分かった気がするカイジであった。

もっと違うところに有難みを感じろと言いたいところだが、カイジにとって仕事というのはそう言う物だ。

そう言えば、と思い返してアカギへ視線を向けてみる。

いつもは徹麻勝負から帰ってくると、すぐに床につくアカギが今日に限っては、オレ全然眠くないです、と言わんばかりにピンピンしているではないか。

まぁそれはただ、眠さと言うものを表情に出していないだけなのかも知れないが…。

「アカギ…お前、今日は寝ないのかよ」

「この状況で易々と眠るなんて行動は起こせないな…」

一瞬怪訝な顔になったカイジだったが、一点思い付いて次の瞬間には、あー…と溜め息混じりの声を出した。

「しげるか…お前が心配してんのは」

顔を歪めてアカギに訪ねてみると鋭い目つきで返されたことで、今の一言は図星なのだと分かる。

「そんな気にすることでも無いだろ…しげるはまだ子供だろうが」

「…へぇ、カイジさんは長いこと一緒にいたオレより、つい昨日押しかけてきたクソガキを支持するわけか…」

怒りの色を濃くして、アカギは嫌味の如くそんな言葉をオレにぶつけてきた。

豪腕博徒が幼い自分相手に嫉妬を露わにして大人げないと気付かないのが不思議なわけで。

「たくっ…いい加減にしろアカギっ」

オレも段々と苛立ちが募りに募って、つい声が荒くなった。

何時も機嫌が悪そうな顔をしているオレだが、普段の声色はもっとまともだ。

そんなオレ達のピリピリした雰囲気を感じ取ったのか、しげるが徐に口を開く。

「…張り詰めた空気は慣れてるけど、2人ともそろそろ落ち着けば?」

「誰の所為でこうなってると思ってる…」

オレから視線を外し、しげるへときつく鋭い視線を向け始めたアカギはそう言いきった。

「俺にそんな事を言っても、何も解決しない…」

確かにしげるの言う通りである。

異次元だか時空間だか知らないが、来てしまった者は仕方がないのだ。

しげるに対してあーだのこーだの言ったところで、問題がさらりと解決するわけではない。

多分アカギもそれは重々承知しているはずだが、怒りをぶつける場所がないのか、それとも自分自身だと言うことで甘えているのか、どちらにしろ定かではないが気性がそのまま現れているのは事実である。

「…取り敢えず寝ろよ、寝不足だと思考が鈍るって知ってるか?アカギ」

疚しいことはしねぇよ、と付け加えてやるとアカギは渋々ながら布団の中に潜り込み始めた。

「…この布団、カイジさんの匂いがする…」

寝転んだと思ったら、いきなりそんなことを言い始めたアカギは少し表情が温和になったような気がする。

何故?と言う視線を向けられ、オレは思い出したように言った。

「あぁ、昨日の夜、しげるがオレのベッドを使ったからな…だからオレがお前の布団使ったんだ」

「…なるほどね」

もし、しげるが布団を使っていたら…と考えると、オレは少し青ざめた。

いやもしかしたら、しげるは自分自身の匂いが付いていたからこそ、その後の結果を避けて通るため敢えて布団ではなくオレのベッドで寝ることにしたのでは…。

だがそもそも自分の匂いなんて分かる物なのか?

しかしそこはしげるの事だ、嗅覚も鋭そうだから何となく分かったのかも知れないし…と色々な物事を深読みしていたオレだが、次のしげるの発言でそれは無駄に終わることになった。

「カイジさんのベッドは、あんたが使ってる布団よりも香りが強かったからね…凄く寝心地が良かったよ」

おいちょっと待てーっ!なんの計算も無しで自分の欲望に忠実に従っただけなのかよ。

あぁほら、アカギの顔がまた怖くなっちまったよ。

「…やっぱり寝ない」

一度横になったのに、アカギはさっさと布団から出てオレの隣りに座る。

「ふーん…つまんない」

そう言ってしげるもオレの隣りに座る。

うん、シフト急に入っても今日は喜んで出ます、マジで…。

もう変に口を挟むと、自分が挟まれることになると分かったので、一切口を開かぬと決め込んだ家主カイジであった。



多少の衝突が何回か起こったものの、無事最初の一日は終わろうとしていることにカイジはホッとしていた。

第二次神域戦争が勃発しない事はこの上ない平和である。

「…って言うか、寝具足りねぇ…」

そう、一日を終え床につこうとしていた三人が直面した事実。

アカギはいつもの敷き布団で、しげるはカイジ愛用のベッドで寝転がっているが、問題の家主は寝る場所が無い。

「カイジさん、来いよ…ここ」

すると最初に口を開いたアカギが布団をめくって隣をポンポンと叩いている。

敷き布団だから寝返りで落ちるとかそう言う心配はないにしても、アカギ自体の図体が結構なため狭いという事実は否めない。

まぁそれでも、床がないよりはマシだろうとカイジは結論づけて歩もうとした時である。

「こっちで寝れば良いじゃない、このベッド…元はカイジさんのでしょ」

そう言ってしげるが体を奥へとずらしてカイジの分のスペースを作る。

確かに今彼が寝ているベッドは元々カイジの物、そちらで寝るのは当然っちゃ当然かもしれないし、しげるの体の大きさだったら多少でも狭さは軽減されるだろう。

と言うわけでベッドの方へ向き直ったカイジにまた声が掛かる。

「…オレとは寝たくないわけ…」

カイジは一瞬でアカギの方に振り向いて、そんな事はないと弁護する。

すると今度は…。

「カイジさんは、俺のこと厄介だと思ってるんだ…」

しげるが目を伏せて言うもんだから、カイジはベッドの方を向いてそんな事はないと弁護。

気が付いたらまた板挟み状態にされたカイジ。

気を抜くとすぐこれだ…と肩を落とす。

そんな彼の様子を見てか、2人は互いに牽制し始めた。

「カイジさんはオレと寝る、お前は黙って1人で寝ろよ…ガキじゃあるまいし」

「アンタこそ、ガキじゃないんだから1人で寝ればいいじゃない」

「オレはカイジさんの恋人、だから添い寝は許される、でもお前は違うだろクソガキ」

「なにズレた事言ってんの、俺がガキなら添い寝は許される、子供の特権だよ」

「こういう時だけ子供の特権利用するな、苛つくんだよ」

「そっちこそ、大人だからって何でも物事が罷り通ると思ったら大間違い」

「いい加減黙れクソガキ、腕一本毟られたくないならな」

「そっちが黙るなら、俺も黙るけど?」

カイジからして見れば、お互い子供である。

まぁまだしげるは小さいから分かるが、問題はアカギだ。

いい年した大人が子供にムキになって争うというのが一番大人げない。

どちらかが折れればいいだけの話しに、ここまで執着する2人が珍しくもあって、第三者として見るならば面白い言い争いかもしれない。

しかし、争いの核とも言える存在のカイジにとっては、楽しむどころか冷や汗ものだ。

いつ何時、アンタが優柔不断だから悪い、とか言われて責任転換されるかも分からないのだ。

とにかく、カイジは2人の水掛け論を止めるべく口を開いた。

「とりあえず止めろって!言い争いは終わりにしろ!」

カイジの乱入で、シーンと静まりかえった部屋の中、話を続ける。

「アカギ、お前明日は徹麻なのか?」

「…いや、違う」

「よし、じゃぁ今回はしげると一緒に寝るぞ」

カイジのその言葉で、アカギはキッと眼を細め、しげるはニヤッと眼を細めた。

「…やっぱりショタコンか…」

「だから違ぇって!…明日、お前が徹麻なら今日はお前と一緒に寝たさ…ようは、オレが日々交代でお前等と一緒に寝るって事だ」

とは言ったが、どちらかと一緒に寝るのは明日まで。

その後は新しい寝具を買ってくれば良いだけのこと、何も問題はない。

まぁ使うその金はアカギが毟ってきた物だが…。

場所を空けてくれたしげるの隣へ入り、ふぅーっと一息吐くと瞼を閉じようとする。

するとギュッとしげるが抱き付いてきた。

カイジの胸に顔を埋めて、身を寄せてくるしげるを可愛いと思うと同時に、背後から異様な殺気がひしひしと伝わってくる。

恐怖で眠気が吹っ飛ぶのを感じつつ、なんとか寝ようと頑張ってみた。

しかし時間が経つにつれて、しげるは気持ちよさそうにすり寄ってくるわ、アカギは殺気を強めていくわで、寝るどころの話じゃない。

小さく溜め息を吐いて、カイジは上体を起こした。

「お前等、いい加減寝ろよ…っ!」

「「いやだ」」

「だからハモるなっ!」

くしゃくしゃと髪を掻き乱して、勘弁してくれ…と声を漏らせば、しげるは少し身を離し、アカギはフッと殺気を消す。

これでゆっくり寝られそうだと、もう一度横になればすぐに睡魔がやってきて、眠りに落ちたカイジだった。


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