毎日尽きることなく寄こされる書類や金融資料、そして貨幣の移り変わりなど様々な仕事を皆が手分けして行っている。

「監視カメラに故障の表示は出てないよ」

頭の天辺が大分疲れ果てている警備員が歩きながら言う。

その後を、赤木とカイジは付いて歩いていた。

システムエンジニアの格好で…。

「ええ…システムに異常はないみたいですが、一応念のために」

赤木が言うと警備員は笑いながら、そうだなと答えて続けた。

「後悔するより良いもんな?」

そう言うことです、と赤木は答えた。

案内された警備室に入ると沢山のモニターがズラッと並んでいる。

「コーヒーでも飲むかい?」

「いえ、お構いなく…型どおりの点検なんですぐ終わりますよ」

カイジはおじさんの問いに笑顔で返した。

「オーキードーキー」

「…」

おじさんが笑顔で言い、警備モニター室から出て行った。

「あらら…オーキードーキー、ね」

「シェイプシフターかもな」

「そうなら…彼のアジトまで付けていって銀の弾を撃ち込む…」

適当な会話をしながら2人は席について多数あるモニターを黙視する。

化け物かどうかを判断するためには眼光を確認するしかない。

様々な所員達を監視カメラで確認する作業は結構単調で退屈だった。

真剣にモニターを見つめるカイジの傍らで、赤木がカメラの操作端末を弄くりながら所員達の眼光に標準を定めていた。

「オーキードーキーのおじさんはどうかな…」

赤木が言いながら先程の警備員の眼光を確かめるが、これといって不審な光はない。

「…オーキードーキーだな…」

おじさんはおじさんのままだ、とでも言うかのように赤木は言ってため息を吐く。

「なぁ…オレ等の早合点だったら?…まだ潜入さえしてないかもしんねぇ…」

カイジが赤木に視線を移して言うと、彼は生半可に返事をしただけだった。

「先に下水道を捜索した方が良いんじゃねぇか?」

言い終わったと同時にカイジはモニターに視線を戻した。

「あぁ…それに……」

すると…赤木が良からぬ処を映しているのを見付ける。

「…シゲル!目を映せよ!」

赤木は一瞬カイジに目を映したかと思うとすぐにモニターに視線を戻した。

「あらら…今映そうかと…」

「早くしろっ」

「あぁ…」

名残惜しそうに、女性の奇麗な丸みを帯びたお尻からカメラを遠ざけて目を映そうと操作した時だった。

「…あらら…見付けた」

赤木は何かを見付けた。

その視線の先には眼光の光る所員が一人移っていたのだ。

カイジも確認し、間違いなくこいつがシェイプシフターだということが発覚する。

顔を確認するとそれはこの銀行の支店長であった。

「行こうぜっ」

「…っ!…カイジっ…」

カイジが言ってすぐさま立ち上がりモニター室の出口に向かったとき、赤木はもう一点のモニターに映る人物を見逃さなかった。

「?…何だよ」

赤木の呼び止めに応じ、カイジが振り返るとそのモニターには見覚えのある男が映っていた。

その男は辺りを確認すると、事もあろう事か銀行の入り口をチェーンと南京錠で繋いで封鎖していたのだ。

間違いなくこれは不信で、強盗的な犯罪を犯そうとしているように見えるのは当然。

赤木はモニター越しにその男へと一言投げてやった。

「やぁ…ロナルド…」

彼は2人にも見放されたと思ったようで、こうなったら自分で何とかするしかないと、銀行に乗り込んできたのだ。

大きなショルダーバックとアサルトライフルを手に彼は銀行のエントランスにて所員達を脅し始めた。

「オレは強盗じゃない!みんな伏せろ!さっさと伏せるんだよ!」

彼は銃で人々を脅しながら一カ所にその場にいた者達を伏せさせた。

「銃を持ってこようって言ったのに…」

赤木がカイジに向かってそう毒突いた。

ここへエンジニアとして侵入する前に、一応護身として持って行った方が良いと彼は提案したのだがカイジが止めた方が良い、の一点張りだったのだ。

「だってさ…」

逃げまどう人達を逆流しながら2人はロナルドがいるのであろうエントランスへと向かっていた。

「こんな事になるとは…」

「オレが説得する…アンタは嫌われてるからね…」

カイジがため息を吐きながら同意した。

ロナルドは所員達に鍵を見せつけながら何かを言っているようだ。

「…やぁ…何してるんだ?…落ち着いて」

そう言って2人が近付くとロナルドは銃を向けてきて警戒を始めた。

「あれ…お前らか!」

赤木は笑顔でゆっくりと近付いていく。

しかし、ロナルドの沸点はそうとうらしく、笑顔でもまともに話しは聞いて貰えないようだ。

「床に伏せろ!伏せろっ!」

「いいよ…言うとおりにする…」

そう言われ、やむなく2人も立て膝を付いてその場に座らせられた。

「撃たないで欲しい…特にオレ達は…」

「調べたぞ…お前等FBIじゃない!何者だ!?」

そう、ロナルドが言うように2人はFBIでもシステムエンジニアでもない。

この世の中に蔓延っている、悪魔や化け物を退治して回っているハンターという者だった。

2人の親父がもとより知名度の高いハンターで、2人は彼から色々な技術と情報を伝授して貰ったのだ。

「上司は誰なんだっ!?メイインブラックかっ!?」

彼はそう言って銃を構え直した。

そのふざけたような物言いにカイジが思わず吹き出してしまったことで、更に興奮させてしまったようだ。

「マンドロイドの手下かっ!」

「マンドロイドなんか知らないって」

「お前は黙ってろ!お前に聞いてない!お前なんか大っ嫌いだっ!」

その横でやりとりを聞いていた赤木が納得しながらカイジに目を向ける。

「…だろうな…」

そう言ってカイジは小さくため息を吐いた。

「一人来い!こいつらが武器を持ってないか調べろ!」

銃を向けられて怯えた所員達から悲鳴が上がるのも無視してロナルドは命令を下し、一人の男が立ち上がって二人のボディーチェックを行う。

すると、赤木の靴からナイフを見付けて取り出して見せた。

「おい、それはなんだ!?」

赤木が、しまった…と言いたげな表情でカイジを見、一言。

「…丸腰で来るとでも…?」

するとナイフを受け取ったロナルドは事もあろうに銀製のナイフを銀行のフロントに置かれていた装置の中に放り込んでしまった。

「…あらら…なぁ、撃つ気は無いんだろう?…でも振り回していたら撃ってしまう…この人達を解放しろ…」

あまり刺激しないよう赤木は言葉を選びながら説得してみた。

「ダメだっ!言ったろう!?警察じゃ捕まえられない!一人でもやってやるってな!」

だが、やはり沸点は相当高いらしい。

それに彼の言っていることを少なくとも否定してしまったのは自分たちだ、これ以上言っても無駄なのかも知れない。

「アンタを信じる…だからオレ達は来た」

「そんなの嘘だ!…誰も、信じちゃくれない…信じるはずがない…」

「来なよ…」

赤木は小さく言った。

これ以上説得しても無駄ならば、いっそのこと本当のことを告げてしまった方が良いのかも知れないという脳内思考の結果だった。

しかし相当来ているようだ、ロナルドは躊躇し、拒否する。

だが赤木も諦めない。

「銃を持っている人に楯突く気はない…教えたいことがある…」

まだ躊躇しているようだが、教えたいこと、に反応したようでゆっくりと銃を向けながら男は赤木に近付いた。

「…支店長だよ…」

「…へっ?…」

「この格好を見れば分かるだろ?…裏でモニターを見ていた…ここの支店長だ…彼の目を見たよ…」

「…レーザーが出てたのっ?…」

「…あぁ…まぁ少し違うけど、とりあえず時間がない、別の誰かに変身しないうちに捕まえよう」

「いやっ!俺を捕まえる気なんだろ!?信用できない!」

折角話しても信用はされないのか、と赤木はガッカリしながら彼があの時否定されてどんな気分になったか少なからず分かった気がした。

そしてゆっくりと立ち上がろうとすると、ロナルドは銃を構えて、座ってろ!と怒鳴ったが赤木は座らなかった。

「…オレを連れて行って欲しい…人質として…」

しかし、その申し出にもロナルドは躊躇してなかなか決断を下さない。

「クズクズしてるとアイツはまた違う誰かになってしまう…」

こっちも捜索する側としては正体が分かっている時点ですぐにでも退治したいのが現状だった。

「オレの目を見て…アンタを信じる…イカれてなんかいない…」

放っておくと別の誰かに変わってしまい、余計な捜索と退治の手間が掛かってしまうからである。

「この中にアイツが潜んでいる…」

結果…以前のように自分の姿で殺人をされて犯人として認識されては敵わないからだ。

「…分かった」

ロナルドはやっと承諾をしてくれたらしい。

「お前は…俺と来い!他の奴は金庫に入れ!」

そんな時、銀行の外では警察官が入り口に南京錠が掛けられていることを不審に思い、数人が駆けつけ現状を確認した後、包囲の命令が下されていた。

一方銀行内では、ロナルドが銃を片手に所員達とカイジを金庫の中に閉じこめているところであった。

ロナルドに言われて金庫の扉を閉めようとしていた赤木は、完全に締め切る前に中の人達へと告げる。

「大丈夫だから、落ち着いて…」

金庫に設置された舵式の鍵を回して締めるている最中、中のカイジはと言うと…。

「ねぇ…あれ誰?…」

一人の女性に話し掛けられていた。

「オレの友人…」

きっと不審に思われてしまったのだろう、どうやって説明しようかと考えていたが…。

「素敵…なんて勇敢なの!」

思っていたことではなくてホッとしたようなガッカリしたような、複雑な気分になったカイジであった。

そして赤木はと言うと、ロナルドとの捜索が開始されていた。

「デスクを見ろ…」

そう言って赤木がロナルドに言って奥の部屋へと入っていったが、ロナルドが何かに滑って転んだ音とその悲鳴に再び戻ってきた。

持っていた作業服を床に放って彼の状態を見ると、退いたロナルドの下からベチョベチョの何かが露わになった。

「これ何なんだよ!?」

そう言って怯えているロナルドをよそに、赤木は異形物を見て一言。

「遅かったか」

それはシェイプシフターの脱皮の後だった。

「奴は、変身するときに脱皮する…」

これがあると言うことは、もう支店長ではない誰かに変わってしまったと言うことである。

「…もう、別の奴になってる…」

辺りを見回しながら、赤木は更に緊張感を高めていた。

ロナルドは床に散乱した異形物をつまみ上げて引きつった表情を浮かべた。

「…脱皮?…これが、皮膚?…ロボットのにしちゃ生々しい…」

「あぁ…正直言うとこれは、マンドロイドじゃない…シェイプシフターさ」

「シェイプシフター?…それ、生き物っ?」

「そう、人間に近い…欲望がある…コイツの場合、金目当て…新しい皮膚を作っては変身する」

赤木の話を聞きながら、ロナルドは目を見開いてたいそう驚いている様子だ。

それは無理もない。

普通に生活していてこんな物に出会うなんて事はまず有り得ないからだ。

普通の人間達はみんな、こんな物をまずは信じないし、想像もしないだろうから。

「背を高くしたり低くしたり、男や女に…」

「じゃぁ人を殺してその人に成り済ますんだね!?」

ロナルドの顔は既に好奇心と満悦が浮かび上がっている。

それはそうだ、一度ならず二度までも否定された自分の論理が今この瞬間に事実とか化したのだから。

「いつも殺すとは限らない…」

「な、何するの!?」

赤木は近くのデスクに置かれていたナイフを手に取りマジマジと眺める。

そのナイフは嬉しくも純銀製の物であった。

「狼男の伝説はシェイプシフターが元になっている…」

赤木は手に入れたナイフを眼前にちらつかせて続けた。

「仕留めるには、銀を使う…」

ロナルドはもう一度異形物に目を落とし、異様な光景を目に焼き付けていた。

前方から赤木の、行くよ、と言う声に促される少しの間。

その頃外では大変なことになっていた。

ビルの上空をヘリが飛び交い、360度ぐるりと警官隊が囲いを作っており、SWATまでもが駆り出されている。

銀行の向かいのビルには狙撃犯が設置されるなど、かなり大規模な事件現場に発展してしまっていた。

そんな事とはつゆ知らず、2人は捜索を続けていたが、背後で不気味なほど笑い声を漏らしているロナルドに赤木は呆れながら振り返る。

「何をそんなに笑ってる…?」

「嬉しいんだよ…自分はイカれてない…自分がおかしいんじゃないかとずっと悩んでいたけど、これで証明された!オレはやっぱり正しかったんだ!いやぁ、マンドロイドは間違ってたけど、ありがとう!」

「別に…礼なんか良い…」

そう言って彼は赤木に握手を求めたが、別にそこまで感謝されるほどのことでもないので赤木はその手を見ただけでまた前方へ向き直った。

その瞬間だった…屋内の電気が全てシャットダウンし、真っ暗闇へと一変した。

外からはやたらと明るめのスポットライトが差し込まれ、赤木はやっと今置かれている状況を察した。

「あらら…不味いことになった…」

「どうしたのっ!?」

「電源を切られた…乗り込んでくるな…」

「誰がっ!?」

「警察…」

「マジでっ!?」

どうしたものかと考えを巡らせていた赤木は一旦思考を止め、振り返ってロナルドを見た。

「アンタの手口は完全に素人…先に警備員を捕まえなかった…だから通報された…」

「そこまで考えて無かったっ!…」

「過ぎたことは良い…とりあえず落ち着いて…」

オロオロし出すロナルドを宥めようと、赤木は言うが彼は事の重大さと警察という言葉にかなり焦りが募っているようだ。

とりあえずと、赤木は推測ではあるが今の状況を伝えておくことにした。

「たぶん…包囲されている…監視カメラも動いてない…これじゃぁ誰がシェイプシフターか分からない…」

赤木はため息を吐いて間をおいてからまた一言。

「…やりにくくなった…」

その瞬間、何処からか物音がした。

すぐにその方向へ赤木は視線を、ロナルドは銃を向ける。

「…誰か居る…」

静かに赤木が呟いた。

その頃、電気も消えてしまい完全に密封状態の中に放置されていた所員達は熱いだの息苦しいだのと譫言のように言い始めている。

そんな中カイジは、赤木を素敵だと言い始めた女性にまだ話し掛けられていた。

「あなたのお友達って、いつもあんなに、カッコイイのっ?」

大分気に入られたみたいだな、とカイジはタジタジでため息を吐きながら女の話に耳を傾けている。

「だって…銃に向かっていった…頭も良い…あのイカれた強盗を宥めるために話を合わせるなんて凄いわ!」

何をそんなに嬉しそうに語ってるんですか、とでも言いたげにカイジは女性に目をやる。

「まるで…映画に出てくるヒーローみたい!」

何処か冷めた眼差しで、えぇ、一応でもグルですけど、とか考えていたが、こんな事をネタバレしても余計なパニックになりそうなので喉の奥に引っ込め、代わりに笑顔で相づちを打ってあげた。

すると、不意に金庫の扉が開いて赤木が姿を見せる。

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