わたしたちほんとうに、あれから、うんと青褪めたね

おだやかな着水 瞼を綴じる もうにどと この戀がゆるやかに落ちてゆくことはないのだろうとおもった あなたが 橙色のよるに滲みて きれいで いる限りは

毒と云えば未だ聞こえの好い それよりも甘く 堕落のような 退廃のような えいえんに罠におち損ねてしまったような にぶい衝撃と 淡いくるしさ 居心地の悪くて 臓器は捻じ曲げられたまま空気が漏れて 歯のかちんと鳴るような たとえ死が蘇ろうと縋り浸りたい奇抜さのある そんな 戀だ

あなたは骨ばった薄い甲を引き延ばした あなたは美しい総崩れだ あなたは「毒みたいなひと」あなたどうにも、あまく、悪いもののようだ あなたはくちびるを歪めると絶滅していそうなあざやかな蛾のように撓む あなたは粒子を喪った花びらの裏側だ あなたは夏掛けのぬるい葉脈だ

致死量を与えたら死んでしまったの あなたは不穏な壁の薄い宙吊りだ 致死量を摂ったら殺してくれたの あなたはやわらかい頸の尖りだ 金色をまぶした秋の木蔭の死だ 木犀の溶けた馨りだ 羽毛のしっぽだ あなたはこぼれる あなたはこぼさないで、どうかこのまま 洗面器に齧りついて 漸くあの水のしろさをわすれられるのに あなたをわすれられるように なったのに

そのときの きずついたふたりが えいえんに救われないまま冷たい床に肢体をほうり投げている ひふは はりついて 溶けずに 剥がれる 流れる

こときれたえいえんが 脊中に彫りものをいれるようだった しわの寄ったひびが ひからびて うでがちぎれる わたしはこわされる あなたをわすれられないわたしはこわされる

“あなたがすきで” こんなのって雁字搦めだ 惨めだ 愛想の良い殺伐だ 価値のない寄る辺だ あなたがうつくしいひとだ こうして触れたらいいのに あなたがなき言ひとつ云わない花の染みた抜け殻になって 抜け殻になって なってしまえばいいのに あまいみみたぶがべたべた 歯列に纏わりつくようで 痛い

“あなたがすきでだめになりたかったのに” あなたの亡くした翅のおとも喧騒に聴き分けられないまま夜になる よるが干からびる よるが終わってしまって こんなの果てだ みえないわたしは泣きたがる

悪魔が佇む わたしはそれに蓋をできない 感かくが流れる 眼窩は酸いままぼんやりと浸されて あなたがうそをついているのだとおもった あなたが果てのないうそをわめき散らしているのだとおもった ぐしゃぐしゃのかかとで潰してきたものたちをみつめた あなたはえいえんにやめてくれない もっときずつけて きずつけて裂いてみせて えいえんにやめないで 傍でぐずる悪魔が云う








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