千年一夜の 壱 | ナノ
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:「千年一夜の 壱」(ちとせひとよの)
小説/A5/P113/挿絵4枚とカラー口絵二枚/R18/1000円/
京涼メイン、ゲストトモ大、次巻「千年一夜の 弐」から啓介、渉登場



愛し合う京一と涼介の間にはまったりとした空気が流れていた。ただ、わずかに垣間見せえる涼介のさびしげな影に京一は薄々気づいていく。
そんなある日、涼介の身に異変が起こり、京一もやたらに具体的な夢を見てしまう。その夢はとてもリアルな「死」の夢だった。
人魚伝説をベースに時間も場所を超えて愛し合う京一と涼介のシリアス長編小説の壱です。
現代ベースでパラレルあり、成人向き、死にネタあり、流血描写(当社比)、暴力描写(当社比)ありです。


本文サンプル


 コトリと音がして続いて深い溜息が聞こえた。ベッドサイドにあるテーブルにチューブが置かれた音だった。
「……精液だけで大丈夫なのに……」
 気だるげな涼介の声と、
「あらかた飲んじまうからな……一応念のためだ」
 深く優しい京一の声。
「ん……ッ」
「……痛ぇか?」
 ぬちゅり……くちゅっ……と粘着質な音をさせて、京一の指が熱い潤みの中に進入する。
「つめた……くない」
「俺の手であっためたからな」
「優し……な……ん、あああっ……」
「……イイ声だ」
 素裸の二人は京一のベッドでいつものように愛し合っていた。うつぶせになった涼介の細い腰を少し持ち上げて、京一が涼介の内部を解きにかかっている。
 指を増やし、螺旋のように回しながら深く浅くと涼介の体を開いていく。
「あッ…ああ……」
 堪えきれないというように涼介は枕に顔を埋める。くぐもるような喘ぎは暗い寝室に響いた。
「……あああ……指でされるのもいいが……京一……っ」
 追い詰められたような涼介の声が京一の笑みを引き出す。
「俺の……×××が欲しいか……?」
 嬉しそうに低く囁く京一を澱んだような熱っぽい目で睨み返す。
「……ほし……京一の大きい……」
 涼介の悔しそうながらも甘いおねだりの言葉に、やにさがる京一の隙を突いた涼介が、
「いてええッ!」
「これが欲しい」
 ぎゅっと滾っているアレを掴んだ。



「ったく……」
 一戦交えてハアハアと肩で息をする涼介を眼下に見て京一は溜息を吐く。自身も相当熱くなってしまって、涼介にかなりの無理を強いたからだ。
「……毎回煽られる俺も……なんだがな……」
 とは言っても、京一に激しく求められることが好きな涼介はわざとしている部分もあるのだが。と言うかそうなのだが。
「う……ん京一……」
 愛された余韻に白き肌はしっとりと汗ばみ、桃色に上気してしどけなく横たわる。少し開いたなだらかなラインを描く双丘から、
「……」
涼介の中に放った自身の精液が漏れ出ている光景など涼介が意識して煽らなくても、
「……目の毒だ……」
の、言葉どおりである。
 そっと体を拭い、そして力なく、それでも喘ぐ涼介を宥めながら体内にまだまだ在る残滓を掻き出すと、京一は聞き分けなく熱が主張をする下半身をちらと見て溜息を吐く。
「……涼介だから仕方ねぇな……」
 初めて会った時、自前の愛機を前に目を離せなくなったのを覚えている。
 噂だけは聞いていた。
 信じられないくらい美しいFC3Sとそれを操るドライバーを。
「……」
 たった一人でいろは坂―――――京一の統べるコースへ来て、訝しむ自身にその声はこう囁いた。

―――――やっと逢えた……須藤京一

 どこかで会ったか? と京一は聞いた。会っていたなら目の前の夜の峠に現れたこの世のものでない何かのように美しい容貌をしている彼を忘れることはないからだ。
 その問いに涼介はふっと笑った。嬉しそうに、そして懐かしそうにじっと見据える京一に言葉を発した。

―――――遠い昔だ……遠い遠い……

 幻惑されるような台詞に京一は警戒しつつも、笑み揺らぐ幻のような涼介を見ていた。そして。

―――――バトルをして欲しい……そのためにここに来た

 単純に走り―――――を競いに来たのか? と訝しく思った。車、そしてモータースポーツに関することは自身は真剣になる故に気軽なバトルの安請け合いはしないからだ。
 ただやはり。
 噂の。奇跡の走りだと言われる白い彗星とのバトルは、目の前で麗人然としながら微笑む存在と伴って、まさに極上のバトルを極上の相手とできると言う愉悦と言えば相応だろう、と確かに一種異様な興味と興奮を京一の胸裡に与えたが。

―――――いきなり現れてバトルの申し込みとはな……あまりそう言うのは好きじゃねぇんだが……。

 自身も対戦をする相手には一応前もっての連絡なりを取るタイプである京一はふ……と鼻を鳴らす。
 涼介はゆっくりと歩き出すと京一の体温が感じられるのではないかと言う距離に詰めた。京一は片眉を上げながらするりと近寄って来た涼介を微動だにせずに見つめている。
 そして涼介は至近に顔を近づけると悪戯めいた目で微笑んだ。

―――――公道では公道の走り方がある。……そうだろう? 須藤京一

 そしてピンポイントで京一の闘争心に火を点ける台詞を、涼介はゆっくりと言った。



「お前が一番食いつくのはそれだったんだ。あのままだったらバトルしてくれないような気がしたんだ」
 二人で何度迎えたろう、密度の濃い夜を迎えた後の朝食を摂りながら涼介は気だるそうに、なのに楽しそうに話す。
 眠たげに髪を掻き上げる。そんなしぐさも艶っぽく見えるのは昨夜の情交がとても……な気がした京一だったが、こほんと咳払いをしてコーヒーを口に運んだ。
「……まあ、突然現れていきなりじゃな……」
「だろう? それに俺の噂だけがやたらに誇大で、京一はそういうの好まないと思ったんだ」
「……なるほど。で、走りの哲学をぶつけてきたってわけか」
「そういうことだ。ふふ……計算どおり乗ってくれた」
 その後の勝負の展開を思い出して京一の眉根が寄った。
「そして一年……俺を思い続けてくれた」
「……そりゃあな。どんだけ走り込みしたと思ってやがんだ……」
「闇の中、テールランプの先には俺を……そしてFCを見ていたんだろう?」
「……まあな」
 嬉しそうに涼介はテーブルを乗り出す。
「ずっと待ってた甲斐があった……きっと京一は俺を落としにくるって」
 文字通りそのとおりになったわけだが、それは二度目のバトルの直後のことである。
「……意気消沈して帰ろうとした俺を待ち伏せしてたのはどいつだ?」
「ふふ……FCを見るなりチームメンバーを帰らせたのはどうしてだ?」
「……そりゃあ……」
「車を降りるなりいきなり駆け寄って来てキスしやがったのはお前だろうが……」
 苦々しい顔が少し赤くなっている京一である。
「俺の腰を引き寄せて存分に応えてくれたじゃないか……ああ……忘れられないあのトキメキ」
 涼介は天を仰ぎ、うっとりと悦に浸る。
「俺の首にしがみつきながら待ってた待ってたとやたらに言うから、意味もわからず遅れてスマンと言ってしまった俺の立場は……」
「ふふ……許してやるから俺の恋人になれって言ったときの京一の顔が……」
「……」
 照れマックスな京一である。
「本気で驚いているのにしっかりと体を抱き締めているからおかしかった」
 涼介は肩を揺らしながら話している。
「……負けたショックはあるわ、いきなりキスされるわ恋人になれと言われるわ、マジで混乱して当然だろう……」
「……京一がその後に言った言葉が最高だった……!」
 涼介は心底おかしそう、そして苦しそうに笑っている。
「……」
 京一はますます苦虫である。
「……本当に俺でいいのか? あ、ちょっと待て! 俺はお前を抱く方かお前に抱かれる方かどっちなんだ? できるなら俺の希望はお前を抱きたい方なんだがっ……て真剣な顔で……ッ!」
 ぎゃははと今にも笑い出しそうな涼介はヒーヒーと言いながらテーブルを叩く。
「〜〜〜〜〜〜」
「嘘でもお前を抱きたい京一、とか言ってたらどうしたんだ? 京一」
 涙を掬いながら涼介は京一に尋ねる。
「〜〜〜〜〜どんな寝技使ってでも逆転してやる」
 口をへの字に涼介を気まずそうに見つめる京一から堅い決心が漏れる。
「……それはいいな。少し強引にお前に抱かれるのもゾクゾクするな」
 途端に目を輝かせて京一に笑いかける。眩しい眩しい美形の恋人。
 京一は仕方ねぇな……と思いながら、嬉しそうに微笑む涼介を見つめた。

中略〜


 一昼夜眠り続けた涼介は眼を覚ましたものの、自分がどこにいるのかすぐには理解できずに、男の上着を抱いたまま怯えていた。そして、揺れる船内と海の音、すぐ傍の長椅子に横になって眠っている男に気がついた。

 そして、そっと寝具から出ると男の方へと歩いて行った。白い素足は心許無く床を踏み締めて行く。

 涼介の視界には、大きな体を長椅子に預け、腕を胸に組んで眠っている男―――――京一の姿が写ったのであった。

「……」

 涼介は思い出していた。この船に引き上げられたはいいが、屈強な男達はニヤニヤと笑いながら自分をどうにかしようとした。それを止めてくれた男だ。

 それからの記憶はあまりない。とにかくこの男から離れたくは無かった。ただ、それだけだった。

「……」

 涼介は京一が横たわる長椅子の前にへたりと座り込んだ。そして、眠る京一の腕にそっと頭を寄せた。

「……起きたか」

 眠そうな京一の声がし、優しい手が涼介の頭を撫でた。涼介は小さく頷き、京一の傍から離れたくないと言うように瞼を閉じた。


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