千年一夜の 参 | ナノ
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:「Bright」
京涼アンソロジー小説・漫画/A5/P144/R18/1200円/
執筆者・みさき、実勇、ビル、水上シオン、瑛莉、KOMU、秋早苗、B、神足人手、クロス
装丁協力、秋早苗




:「千年一夜の 参」(ちとせひとよの)
小説/A5/P114/挿絵4枚とカラー口絵5枚/R18/1000円/
京涼メイン、ゲストトモ大、啓介&渉、酒井、拓海、文太




人魚の呪いを受けた涼介と愛し合うも離れてしまった京一。京一は特攻してきた啓介と渉に智幸とともに対峙する。そこで涼介が悲しみにくれているという話を聞く。一方、涼介はひとり藤原家に身を寄せていた。
人魚伝説をベースに時間も場所を超えて愛し合う京一と涼介のシリアス長編小説の参です。
現代ベースでパラレルあり、成人向き、死にネタあり、流血描写(当社比)、暴力描写(当社比)ありです。

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本文サンプル


 「親父、いいのかよ」
「ああ? ……ああ」
 拓海の声に文太は煙管を吹かしながら生返事をする。
「あれ、売ったらそれなりになるんだろう?」
 拓海は気のなさそうな文太の背に言った。
「何も持ってない兄ちゃんに持たせるには相応だろうよ」
 文太は面倒そうに煙を吹かす。
「懐剣持たせて行かせちまって……まあ、代わりに何か高そうな筆と墨壷くれたから別にいいけど」
 売って最近できた彼女とのあれやこれやに使うかな〜と、のん気に言いつつも拓海はどこか上の空だった。
「あの兄ちゃんが気になるのか。お前こそ行かせちまってよかったのか」
「何だよ。変な言い方すんなよな」
 珍しい拓海の即答に文太は知らないフリをする。
「というか、俺ちょっと出かけてくるわ」
 涼介のことが気になっている拓海の不自然すぎる行動に、文太が呆れた溜息と共に大量の煙を口から吐いた。




 凄まじい音が響き渡って、波しぶきと怒声と木の折れる鈍い音が連続して起こった。
「野郎っ!」
 自分達の船にぶつけられて頭に血が上った京一の船の船員は、縄を掛けて啓介の乗る船に乗り込もうとする。啓介達の船からも無闇やたらに騒ぎながら、京一の船へ乗り込もうとしている派手に飾り立てた船員達が見える。
「やっちまえ――――ッ!」
 啓介の怒号を合図に調子づいた連中は、大鉈を振り回し京一の船の船員達に襲い掛かった。京一の船の船員達も言わば荒くれ者である。そうそう容易く参る訳ではなく、諍いは次々にそこいらで巻き起こった。
「……あのガキ……」
 京一の低い唸りを智幸が耳聡く捉えた。
「は、もしかして……高橋の船かあれが?」
 京一の眉間に皺を寄せた厳しい顔に智幸は問いかける。
「ああ……あの金髪鶏冠にしたクソガキが涼介を連れ帰った弟だ」
「ふうん……してその涼介は」
と、智幸が言う前に京一はばさっと陣羽織を風に靡かせると甲板をずんずんと音をさせ、大股で歩いていった。
「……ここにいる訳はねぇんだけどな……」
 智幸は鬼のような憤怒のオーラを撒き散らして、飛び掛ってきたり斬り付けにきたりする連中を黒い一刀で薙ぎ払っている京一に苦笑する。
「いえ、それが……」
 くぐもった声が智幸の背後でした。智幸は眉間に厳しい皺を刻むと顔を向けずにそれに向って話す。
「……詳しく話せ。手短にな」
「はい」
 謝罪もいらない。必要最小限の正確な経緯を情報を酒井は智幸に伝えた。智幸は視線を多人数を相手に揺ぎ無い捌きをしている京一から離さない。
「……わかった。兎に角捜せ、わかり次第すぐに俺に居場所を伝えろ」
 智幸はそう告げると「ハイ」と返事をして姿を消した酒井を背後に鞘に手をかけたまま歩き出した。
 京一の歩く後には敵はいない。そこを悠々と歩くも、周りは狂乱状態だった。
 京一は不機嫌という文字を貼り付けたような顔で、啓介の船がぶつかった辺りを確認している。
「……見つけたぜアイツ、あのヤロー……何余裕ぶっこいてやがんだぁあああぁっ!」
 忍び声からだんだんいらつきが高まって、叫び声になった啓介はそこいらにあった銛を掴むと、慌てて制しようとする渉の声に躊躇することもせずに、勢い京一に向って投げつけた。
「……」
 ガキッと音と火花がして、逆手に抜いた刀剣が京一の身体を突き刺そうとする銛の進行方向を変えた。
「クソッ!」
 啓介が怒りに燃えた目で悔しがると、灰褐色の目を一瞬光らせ、据わらせた京一の目が真っ直ぐに啓介を睨み付ける。
「殺してやるぁぁああああっ!!!」
 青龍刀を手に踊るように飛び掛った啓介に、京一はゆっくりと上体を起こすと黒い刀を持ち替えた。
「やばいっ!」
 渉がはっと気づいて忍び刀に手を掛けながら船から飛んだ。


 ガギイッと鈍くも鋭い音がして男達は静止した。京一の黒い刀は渉の忍び刀で止められ、啓介の青龍刀は―――――智幸がいつも腰から下げている深緋色の刀に止められていた。
「ヒュー……こりゃあ、俺好みのワイルド系のガチムチじゃねぇか……」
「えっ俺たおやか美形が好みなんですけど」
「なんだああああっ! 貴様ぁああああああ―――――ッ!」
「……うるせぇクソガキ、ぎゃんぎゃん喚くな。耳障りだ」
「何だと! おいオッサン! テメーだけは許さねー! アニキに手ぇ出しやがって!」
「ああ?」
 オッサン呼ばわりに周囲は「……(汗」となったが、京一は涼介に「手を出した」と啓介が言ったことに不愉快を露にした。
「ちょっとちょっとちょっと! このお兄さんにオッサンは無い……だろーよ! 啓介も落ち着いて!」
「ほう……涼介が京一にコマされたって聞いて弟が仕返しって奴か? なら京一を掘り返すのが筋だと思うが」
「止めろ智幸、気色の悪い。反吐が出る」
「〜〜〜〜」
 四人が四人で勝手なことを言いながら、その絶妙な剣さばきと腕でぎりぎりの拮抗を保っていた。そこへ京一のいらつきを抑えた低い声がする。
「俺は確かに涼介を抱いた。それがどうしたってんだ。テメェが文句言う筋合いじゃねぇだろうが」
 案外ストレートな京一の物言いに啓介は瞬時に真っ赤になり、渉は反対に真っ青になった。
「うるせええっ! アニキはお前んとこから帰ってから、ずっと泣き通しなんだよ! それこそ女みてーに、そんなアニキじゃなかったのに! お前が原因としか考えられねーだろ!」
「……いやあのね、啓たん」
「泣き通し?」
 啓介の言葉に京一は厳しい眉根を互い違いにさせた。
「とにかく、寝言でお前の名前、あれ? お前の名前スドー……スドーキョーイチでいいんだろ! キョーイチキョーイチって泣きながら寝言言ってたり!」
「……いや、それって多分啓たん」
「はあ? うるせーよ! 渉!」
「〜しないで、とか! ヤラレんの嫌みてーな! こと言うんだよ!」




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 ゴトンゴトンと電車に揺られ、眠そうなあくびを繰り返すサラリーマンやつり革にぶら下がって既に寝ているような中年サラリーマンがまあまあな数がいる。スマフォを長いネイルを施した指先で器用に弄っている派手な女性、友人とのおしゃべりに夢中な若い娘さん達が乗り込む車両の中、長い足を組んで座る京一の肩にもたれかかって眠る涼介の姿があった。
 夜の電車内、そういう光景は珍しくもないだろうか、良く見て見ると二人の手が繋がれ、それが指を互い違いにさせた恋人繋ぎであったのが少々変わった出来事だったということだ。
 ふとそれに気がついた人は、涼介と繋がれた手、そして京一へと視線が忙しく動き回り、いやいやいやと頭をふる人、目を見開いたままスマフォを弄る手が更に激しくなる人、見ないふりをする人と、顔を
見合わせて口だけで「ホ?」「モ?」とやり合うなど様々である。
 もっとも、あまりにじろじろと見れば外国人ばりの強面に頭に軍用三角巾にもなる白いバンダナ、軍のフライトブルゾンに、カーゴパンツに革の軍靴というまるで海兵隊員のような京一に視線で射殺されるのだが。
「う……ん」
 翌日が休みである今日は京一の部屋に泊まりたいと涼介が言った。元よりそのつもりであったし、何より最近、どこか疲れているような涼介を休ませてやりたかった。
 セックスはもちろんしたい気は満々だし、せがまれるだろうが、なるべく負担のないような行為を……と考えて京一はふと気がついた。
 涼介はもちろん同性で男であって。それまで男に言い寄られることはあっても、やはり女性の方が慣れた京一であったのだが。
 涼介に関しては男どころか、今までの女性よりも遥かに自然な感覚でセックスを考えている。生活の一部などというようなロマンのない言い方はしたくないが、女性達には残酷な言い方ではあるが、京一は本質的には彼女達にセックスを求めていなかったということだった。
 女達と付き合いがある、関係がある。その中のひとつ。だった。
「……」
 男の本音を言えば、これまた残酷な言い方だがまあ若い男にしちゃありがちなのだが、女性に求めるはまずはセックスが普通なのだろうが、自分は違った。だったら付き合った数多の女性達に何を求めていたかと聞かれたらこれまた残酷なようだが、自分は。

 何も求めていなかったのだ。
 
だが涼介に関しては違う。最初は涼介の誘いと言うか説得と言うか、そういったモノに嵌った形ではあったが。涼介に関しては、今ではセックスも愛もいっしょくたになって何が何だかわからないほどの何がしか純度の高いものがある。

―――――……俺は知らぬ間に昔から。そいつを追い求めて来たんだって今ならわかる

 本気で思う。正直に言えば自分は一目会った時から涼介の全てに釘付けとなった。それはそれは浅ましいほどに。
 それまでストイックを自負した自分は恐ろしいほどの磁力で惹きつけられた。それはどこか懐かしくて、愛しくて、たまらない感情を生んだ。
 堅物だの硬派だの揶揄されても、全く恋愛、性愛に慣れていないわけでもない。それなりにはこなしてきたのに。
 涼介に対して沸き起こったのは今まで、どんな人間にも感じたことのない感情だった。
 アナウンスが目的の駅へ到着するというアナウンスを告げる。京一は涼介を優しく起こすと、眠そうにふらつくその身体をそっと抱え支えて、車両を後にした。


「風呂が好きなんだ。シャワーも好きだ」
 酔っ払いが過ぎて入る風呂は危険だと言っても涼介は子供が駄々をこねる様に京一に言う。
「だったら俺も一緒に入るが、狭いぞ?」
「うん……そして抱いてくれ」
 性的な意味だろうな〜と京一はやにさがる自分を感じるが、涼介のぼんやりした目と赤い顔を見て「う〜ん」と考える。
「涼介、のぼせるし、酔ってちゃあ具合が悪くなるかもしれねぇから、とっとと洗うくらいに留めないか?」 脱衣所で万歳させた涼介のシャツを上から引き抜きながら、京一は言う。
「セックスは?」
 ベルトを外しながらの涼介の質問に京一はベッドで、と言った。
「〜〜〜〜〜」
 あからさまに膨れた顔になった涼介は酔いも手伝って赤い。
「そりゃお前、俺だってしてぇがな。ほら、下も脱げ」
 涼介は風呂場でのセックスを希望したところであるのに、チャックを下ろすところで躊躇している。
「恥ずかしい……」
「今更だ。ほら」
 京一が促すもぐっと赤い顔でチャックを引き降ろそうとしない涼介に、苦笑しながら京一は言った。
「……仕方ねぇな……なんなら少々強引にとろけさせて脱がしてやろうか?」
 すっと背を支えるように手を伸ばし、顎を引いていた涼介の耳に息を吹きかけ囁くように言うと。
 涼介は弱気ながらも甘い溜息を吐いた。



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