「おかえり。」
この家でこの言葉を口にするのは二度目だ。
でも、気持ちは前と少し違う。
出迎えられた側も、少女の雰囲気に気付いたのか、前より穏やかな顔を浮かべていた。
まだ暖かいマグカップを両手に、彼の前に腰を下ろす。
青色を彼に、ピンクは自分の前に置いた。
「ありがとう。」と一声かけて、ヘッポコ丸はカップに口を付ける。
「橋、直ったって町長さんが言ってたよ。」
「そっか。よかった。」
今朝、訪ねてきた老人の顔を思い浮かべる。
目に涙を浮かべながら何度もお礼を言う彼。
自分は何もしていないと言ったが、そんなことはないと言ってくれた。
その言葉が、また少し自分の背中を押してくれた。
「盗賊も、全員捕まえて引き渡したよ。」
「そっか。これで安心だね。」
どうやら彼の方も色々あったらしい。
二人の空間に無音が鳴る。ここからが本題だった。
「…この前の話、覚えてる?」
ビュティの静かな問いに、ヘッポコ丸は持っていたマグカップを机に置いた。
「戦えるようになりたいってやつ?」
返された問いに頷く。まっすぐこちらを見つめる瞳はどこか不安げに揺れていた。
「あれからまた色々考えたんだ。」
同じようにカップを机に置き、手を膝の上で握る。
自分が出した答えを、示すときがきた。
「へっくんは、私が傍にいるだけでいいって言ってくれたよね。」
「うん。」
「…私もね、へっくんが傍にいてくれるだけでいいの。」
向かい側から喉の鳴る音がする。緊張で震える手を気合いで抑え込んだ。
「これからも隣に居たいから、やっぱり、何もできないのは嫌だ。」
「…うん。」
「だから、私は私にできることをやろうと思うよ。」
そう言ってビュティが取り出したのは、
「…本?」
数回瞬きを繰り返し、ヘッポコ丸は彼女の手に握られた本を見る。
その表紙は「医療」の文字で飾られていた。
やっと顔を上げた少女は、照れくさそうに笑顔を浮かべる。
「安心して怪我…してほしくないけど、頼りにしてね。」
「これならどう?」と歯を見せながら首を傾げれば、
「うん…。ビュティらしいや。」
頬をわずかに染めながら、嬉しそうに目を細めた。
「ありがとう。」と少年が溢せば「こちらこそ。」と少女は返す。
「これからもよろしく。」と少女が溢せば「こちらこそ。」と少年は返す。
「ずっと隣に居させてね。」と少女が溢せば少年は…。
外には一面の星空が広がる。明日もきっと快晴だろう。
二人の旅がまた始まる。
締めのホットミルク
(これからも一緒に)