首領パッチと別れて2日たった。
ヘッポコ丸はそろそろ街に到着している頃だろう。
そしてビュティは、
「…来ると思ってたよ。」
町の入り口である男を待っていた。
「先にあいつに会ったのか?」
問いに頷き、男を見上げる。
「久しぶりだね。ボーボボ。」
少女の笑顔に、黄色いアフロの大男は口元を緩めた。
「戦えるようになりたかったのか。」
「うん。でも、へっくんは嫌だって。」
「だろうな。」
久々の再会にも関わらず、ずっと一緒に居たかのような居心地の良さを感じる。
そう言えば、目の前の男も随分と自分に甘かった。
グラス内の中身がしゅわしゅわと音を立てる。
どこか懐かしい匂いに、スッと肩の力を抜いた。
「首領パッチくんにへっくんの話を聞いたのかって言われた。」
「何言ってたか思い出したのか?」
「――傍にいてほしい。って。」
あの夜、真っ直ぐ目を見つめてそう言った。
提案を否定されたことに頭が捕らわれて、思い出すのに時間がかかってしまったけれど。
そしてその願いは、自分のものと同じだった。
フッと目の前の大男が笑う気配がする。
「じゃあ、それでいいじゃないか。」
「でも、それじゃあ私はへっくんに何も返してあげられない。」
私だって、へっくんが隣にいてくれるだけでいいのに。
そんな言葉を漏らすのは、いくら相手がボーボボでも恥ずかしくて、さすがに口を結ぶ。
「…俺もヘッポコ丸と同じ意見だ。」
返された答えに顔を上げれば、男は腕を組んで感慨深そうな顔をしていた。
「ビュティが隣にいることに意味がある。
俺たちもそうだったからな。」
一瞬、周りの時間が止まったように感じた。呼吸すら億劫に感じるほどに。
無性に泣きたくなって、思わず唇を噛みしめた。
「でもまぁ、ビュティの言いたいことは分かる。」
そう言って頷いたボーボボは手を前で組んで、身を乗り出す。
「ビュティ自身がそれに満足しないなら戦う以外で手助けできる方法があるぞ。」
次いで告げられた言葉に、ビュティは思わず短い息を吐き出した。
「どうだ?」
悪戯っ子のような、意地の悪い笑顔を浮かべてこちらを窺うボーボボ。
その態度が嬉しくて、ビュティはやっと頬を緩めた。
「…うん。…うん、それいいね。」
何度も頷けば、大きな手が彼女の頭に伸びてくる。
そのまま撫でられた感触はどこか懐かしくて。
あの旅で、少しでも自分が、このヒーローの力になれていたことがとても嬉しかった。
「話、聞いてくれてありがとう。」
町の出口でまた向かい合う。
「ここでボーボボに会えてよかった。」
「俺もだ。」
おもむろに差し出された手をとり、硬く握手を交わす。
「大丈夫だ。頑張れよ。」
「うん。ありがとう。気を付けてね。」
そう言って離れていった背中を見つめることは、寂しいけれど悲しくはなかった。
きっと今から先走っている首領パッチを追いかけるのだろう。
彼らには彼らの今の旅がある。
だから、自分も彼の隣で出来ることを。
彼が帰るまで、あと2日。
ラムネ弾けて
(懐かしい匂い)