「あれ?ビュティさんじゃないですか?」
ポコミに会った次の日、いつもより少しだけ周りを気にしながら歩いていたにも関わらず、また背後から声をかけられた。
どこか懐かしい声に振り返れば、
「スズさん!」
「こんにちは。」
一時的に行動を共にしていた女性、スズがいた。
「何だか辺りを気にしていましたけど、どうかしたんですか?」
「いえ…不自然でしたか?」
首を竦めて問えば、スズは笑顔で首を振る。
「私は戦闘員なので気になりましたけど、普通の人なら分からないと思いますよ。」
その言葉にハッとする。そうだ。彼女も戦える女性だった。
「一人なんですか? ボーボボさんは?」
「今の旅は一緒じゃないんです。二人旅なんですけど、訳あって今は一人です。」
「そうでしたか。」
「あの、スズさん…。」
恐る恐る名前を呼べば、スズは「はい?」と疑いのない目を向ける。
「ちょっとだけ、お茶しませんか?」
控えめに誘えば、少し驚いた顔をした後、嬉しそうに彼女は頷いた。
長い期間会っていなかった彼女は、自分がヘッポコ丸と二人旅をしていることも知らなかったらしい。
この町には、目的地までの休憩で立ち寄ったのだという。
自分たちもそうだったように、この町は旅人の出入りが多いようだ。
「戦いで気を付けていること…ですか?」
昨日ポコミにしたのと同じ質問を、彼女にも投げかけてみる。
「そうですね…。」と言いながら、熱を冷ますため、数回ティーカップに息を吹きかけたあと彼女はそれを口に含む。
一口啜ったあと、カップをソーサーに戻してから、ビュティを真っ直ぐ見つめた。
「気を付ける…とは少し違うかもしれませんが、やはり体力は大事だと思います。」
「なるほど。基本ですもんね。」
説明もいらない程当たり前で、それでいて忘れていたことだった。
「持久戦になることもありますし、あって損はないですね。」
「スズさんもトレーニングとかしてるんですか?」
「やっていますよ。たくさん動いて、たくさん食べて、たくさん…は寝れてないかもしれませんが。」
そう言って苦笑いを浮かべるスズ。
今も軍艦の元で活動しているようだが、彼女に仕事を振りすぎなのでは?と心配になった。
「戦闘に興味あるんですか?」
「興味というか…尊敬するというか…。」
上手く言葉にできず、まごつくビュティにスズは何度も頷く。
その度に、綺麗な金髪が太陽の光を映して煌めいた。
「昨日今日で強くなれるものではないですから、日々の積み重ねですかね。」
「お互い頑張りましょう。」そう言って、彼女はまた紅茶を啜る。
レモンの香りが風に乗って鼻腔を刺激した。。
目的地へ向け出発したスズの背中を見つめる。
「体力か…。」
苦手ではないけれど、よく転びそうになるのだから運動神経はよくないのだろう。
腕立てとか、やってみようかな…。
自分の貧弱な腕を見ながら帰路についた。
明日、彼が帰ってくる。
ちょっぴり大人なレモンティー
(茶葉が大切)