午前も半ばを回った頃。

ビュティは町を一人で歩いていた。

本日、桜屋は臨時休業である。

ソフトンが、隣町へ買い出しに出掛けなければならないからだ。

何でも先日、ビュティが提案した新商品の材料を買いに行くのだとか。

定期的に訪れるこの休暇を、散歩をして過ごすことが、ビュティの中で小さな楽しみの1つになっていた。

季節ごとに違った色を見せる草花、忙しなく動く人の波、客引きの為に大きく張り上げられた声。

散歩は、その全てを感じることができる運動なのだから。

営業のときより少し綺麗な着物を着て、ビュティは今日も歩いていた。



「あれ?」


表通りから少し外れた店通りで、ビュティはふと足を止める。

前方に見慣れた姿があったからだ。

それと同時に自然と口元が綻ぶ。

ビュティはゆっくりとその影へと近付いた。


「スズさん。 破天荒さん。」


ビュティが人影に声をかけると、2人は同時に振り返った。


「あら、ビュティちゃん。」


スズは、ぱぁっと表情を明るくしながら、ビュティに向き直る。

破天荒の口元も、心持ち緩んでいるようだ。


「今日はソフトンさん、買い出しの日?」

「そうなんです。 だからちょっとお散歩を・・・」


「お2人は、どうしたんですか?」と聞くと、


「私はいつもどおり、お遣いです。 そしたら・・・」

「見回り中だった俺と会ってな。 ちょっと世間話してたんだ。」


破天荒が片方の手を腰に当てて、目線でスズを指す。

それを受けて、スズは穏やかに微笑んだ。


「相変わらず、仲いいですね。」


ビュティがはにかんで見せると、


「あんまり大人を茶化すんじゃねーぞ、お嬢ちゃん。」


破天荒は歯を見せて笑う。

その横でスズは少し顔を赤くしながら、


「そうですよ。 ビュティちゃん。」


破天荒と同じく、注意を促した。

そんな顔しながら言われても、説得力ないのに。


「ごめんなさい。」


ビュティは明るい声で謝罪を述べた。




「じゃ、私はこの辺で。」


しばらく3人で話した後、ビュティはそっと足の向きを変える。


「お2人とも、またお店に来てくださいね。」

「おう。」

「もちろん。」


2人の笑顔を見ると、ビュティはまた歩き始めた。

視線は前に向けつつも、耳は後ろの会話に傾ける。



「じゃ、俺らも帰るか。」

「え? 『も』?」

「屋敷は役所へ行く通り道だからな。 送ってく。」

「え!? そんな・・・あ!荷物・・・」

「行くぞ。」

「自分で持ちます。」

「ついでだ。」

「・・・いつもありがとうございます。」

「・・・気にすんな。」




「・・・茶化したくも、なっちゃうよね。」


捻くれた気分で、小石を蹴った。



なんてベタな理由作り


(『ついで』がいつも続くんだもの。)


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