スズが泣きやんだ後、直接会うことが多いからと交換していなかった連絡先を差し出し、破天荒は部屋に戻って行った。

夜遅い時間だが。と確認をとった上で応じたグループ通話にて、レムとシャイナに報告すれば、イヤホンが裂けるのではないかと思うほどの勢いで「おめでとう!」を贈られた。

なんなら二人とも泣いていた。

いい友達を持ったなと思いつつ、電話で二人を同時に慰めるのはなかなかに難しかった。

夜は、なかなか寝付けず、『夏休み中でよかったな。』と枕を握りしめ、明るんでいく窓の外を見ていた。


その数日後。

破天荒に「例の金髪みつあみに会わせてやるよ。」と連れられた先は彼の高校。

その女性が待っているという教室の扉を迷いなく開けた破天荒にスズの方が冷や汗をかく。

が、目に飛び込んできた光景に、スズは口をポカンと開けた。

金髪、みつあみで…


とてつもなくがたいのいい男性がいた。


「は?え?」


混乱し、意味のない言葉を発するスズに破天荒はため息をついて頭を掻く。


「…俺の幼馴染のボーボボだ。」


破天荒が紹介した彼の頭は、みつあみではなくアフロへと変化し、男子の制服に戻っていた。


『いつの間に…!?』


一瞬の出来事に、再び瞬きを繰り返す。


「こいつは、こう…ふざけて女装することがあるんだ。」

「は、はぁ。」

「たぶん、俺ら二人で買い物に行ったときに、こいつがふざけて女装した瞬間を誰かに見られたんだろうな。」


そう言う破天荒の顔色はひどく悪い。


「何だ破天荒。気分でも悪いのか?」

「あたりめーだ!何でお前と俺がカップルに間違えられるんだよ!」

「やだぁ〜ヒド〜い!!」


また女子に戻った。


「だから、あの噂は嘘だ。気にするな。」

「いやぁ、知らないうちに迷惑かけて悪かったねぇ。」


「ボボボ。」と奇妙な笑い声をあげる彼の幼馴染に、スズは苦笑いを返すことしかできなかった。


風の噂とは恐ろしいもので、スズと破天荒の交際関係は瞬く間に広まった。

が、レムやシャイナ、破天荒の周りの友人たちが動いてくれたおかげで、以前のように女子生徒に突然声をかけられたり、嫌味を言われるようなことはなかった。

彼の容姿と、学校での人気を知っていたスズとしては、腹をくくっていただけにかなり拍子抜けだった。


あれよあれよと時は過ぎ、

気付けば、何度目かの蝉の声が聞こえる季節がやってきた。

冷房の効いた自分の部屋で、スズは本を読みふける。

その横に置かれた携帯の画面には、「もうすぐ着く」の通知。

冷風に揺られるカレンダーの今日の日付には黄色の付箋が貼られていた。

ピンポーン

インターホンが鳴り、スズは本から顔をあげる。

画面で来訪者を確認し、顔に浮かんだ喜びをそのままに扉を開けた。


「よう。」

「いらっしゃい。」


会いたかった笑顔がそこにあった。


この春からの大学進学に乗じ、スズは市内で一人暮らしを始めた。

もともと家事全般に自信ありの彼女は現在、キャンパスライフとバイト生活を送っている。

対する破天荒は、地元の短期大学に進学し卒業。

現在は建築現場で監督見習いとして働く社会人である。


「わざわざ来てくれてありがとう。」

「そんな遠くないし、車だったらすぐに着く。」


キッチンからお茶を運んできたスズは、腰を下ろした破天荒にそれを手渡す。

ローテーブルに盆を置くと、彼の隣に腰を下ろした。


「それに、今日は特別だからな。」

「あら、覚えてたの?」

「当たり前だ。」


二人でカレンダーに目を向ける。

貼られた黄色に口元が綻んだ。


「3年か…。」

「何だかあっという間だったなぁ。」


スズは目を細めた後、破天荒に向き直る。


「これからも、よろしくお願いしますね。」

「こちらこそ。」


互いに深々と頭を下げてから、面白くなって吹き出した。

何だか気恥ずかしく、変に顔が熱い。


すると、


「まぁ、俺も社会人になったことだし。」


破天荒が突然切り出す。


「スズも一人暮らし始めて、前ほど会えなくなった訳だが。」

「それについては仕方ないからね。」

「俺としてはやっぱり不安なわけですよ。」


「あら?」と、破天荒の言葉に心外だと言わんばかりの表情を見せるスズ。


「浮気なんてしないわよ?」

「そっちじゃなくて、スズに悪い虫がつかないかってとこ。」


「それはないわ。」と否定するが、実質、入学してから幾度となく連絡先を聞かれたり、食事に誘われたりしているのを破天荒は知っている。

おしゃべりな彼女の友人がわざわざ教えてくれるからだ。

たぶん本人は、あれを狙われていると思っていないだろうが。


「とにかく。」


破天荒はスズの右手をとった。




「虫よけ。しとく。」




その手の薬指に、銀色がはめられた。




「っ!?」


慌てて、スズが右手を自分の顔近くに寄せる。

何度も瞬きを繰り返し、光るそれと破天荒を交互に見つめた。

虫よけの意味くらい、スズにだって分かる。


「これ…。」


絞り出した彼女に、さらなる追い打ちが掛けられた。



「…本物はまた今度な。」



涙でぼやけた視界の先には、愛おしそうに笑う恋人がいた。




三枚目の付箋を貼る

(揺れる黄色は二人の色)

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