ボーボボ一行の朝は騒がしい。

まず朝食を口にするまでが大変なのだ。

ハジケがなんやらと大部分は騒いでいるが、早朝から準備をしている私にとっては迷惑極まりない。

朝から、私の怒鳴り声と鉄拳が飛んでくるまでが、ワンセットなのだ。


ようやく朝食を食べ終えたところで、再度、調理場へ。

コーヒーミルを取り出すと、袋に詰めた豆を移し、慣れた手つきで挽き始める。

その間、いつものメンツは足早にどこかへ撤収。(おおかた、手伝いやらお使いやらの頼みごとから逃げるためであろう)

ただ一人、へっくんは、テーブルに残された食器を洗う作業に移る。

時よりソフトンさんが手伝いを申し出るが、どうやら今日は面白い見出しがあるらしく、新聞に釘付けだ。

会話はない。

ただ生活音だけが響く静かな空間が、とても尊いものだと、一行と旅を始めてから嫌というほど実感した。

私がお湯を注いで、マグカップを用意している間に、へっくんは洗い物が終ったらしく、少し離れたところから私の動作を眺めていた。


バレていないつもりかもしれないけど、分かるよ。


私の口元は、おもわず綻ぶ。

4人分のカップにコーヒーが注がれ、辺りにコーヒーのほろ苦い香りが漂った。


「よし。」


私がマグカップを2つ持つと、へっくんは何も言わず残りの2つを持つ。

「ありがとう。」とお礼を言って、再度テーブルへ。

香りで完成を察したらしいソフトンさんが広げていた新聞を閉じる。


「ソフトンさん、どうぞ。」


マグカップを1つ差し出すと、ソフトンさんは「すまないな。」と言いながらそれを受け取り、席を立った。

彼はいつもコーヒーを受け取ると、自室へ下がる。

きっと本を読むか、何か考え事をしながら静かに飲むのが好きなのだろう。

退室するソフトンさんと入れ替わりに、次は破天荒さんがやってきた。

妙に鼻のいい彼のことだ。きっと匂いに誘われたのだろう。


「ちょうどよかった! どうぞ。」


自分の持つもう1つのマグカップを差し出すと、「サンキュ。」とそれを受け取り、来た道を戻っていった。

へっくんは残り2つをテーブルへ置く。

私の分と、彼の分だ。

へっくんは席に座り、先ほどまでソフトンさんが広げていた新聞を再度開いて、文字を目で追いはじめた。

私もテーブルに着き、両手でカップを包み込むようにして持ち、一口すする。


うん。おいしい。


ここで、やっと一息つけるのだ。

いつからか、朝食後のコーヒーは日課となっていた。

とある町に立ち寄った際、安くなっていたコーヒーミルを思い切って購入したのが始まり。

今は、あらゆる豆を手に入れては、美味なコーヒーを模索中なのだ。


しかし、どうにも。

私は苦いのが苦手だ。

今、飲んでいるコーヒーも、砂糖とミルクがたっぷり入ったものである。

これではどんな豆を使っても、大した変化がない。

そこで他の人たちにも飲んでもらって、意見を聞いている。


そうやって、コーヒーを淹れ始めてから気づいたことがある。

実は、私たちの中で、唯一ブラックコーヒーを飲めるのは、へっくんだけだってこと。

ソフトンさんは、お砂糖をスプーン一杯。

破天荒さんは、ミルクを少々。

ときどき飲みたいと申し出るボーボボは、バカみたいにお砂糖を投入しないと飲めない。

残りの人は、コーヒーそのものが苦手のようだ。


へっくんは大人だなぁ。


一口、また一口と喉に流し込みながら、ちらりと彼を盗み見る。

新聞に集中する彼のマグカップは、いつのまにやら空になっていた。


「へっくん。 おかわりいる?」


私が尋ねると、へっくんは新聞から顔を上げ、きょとんとした顔をした。

私はその表情に思わず噴き出す。


「カップの中身、なくなっちゃってるよ?」


私がマグカップを指差すと、彼はそこで初めて気づいたらしい。

きまり悪そうな笑顔を浮かべると、


「それじゃあ、お願いしようかな。」


とマグカップを私に差し出した。


おっ! これは。


「当たり?」


へっくんの分と、同じく空になった自分の分を持って、ミルのもとへ。


「うん。俺的には今までで一番おいしいと思う。」


彼は新聞を閉じながら、嬉しそうに笑った。

思わず、胸がギュッと締め付けられる。


「なるほど…。それじゃあ、次回もこの系統にしてみるね。」


2つのマグカップにコーヒーを注ぐ。うん、時間がたってもいい香り。

ミルクを自分のカップに…と思って、やめた。


「あれ? ミルク入れないの?」

「試しになしで飲んでみようと思って。 お砂糖は入ってるけどね。」


へっくんは私のカップの中身がブラックなままなのを見て、疑問に思ったらしい。


「そっか。ミルクなしだと、ちょっと苦いかもね。」


彼が二杯目のコーヒーに口をつけたのを見て、私も自分のカップの中身を口に含む。



嘘。本当はお砂糖も入れてないの。



想像以上の苦みが口いっぱいに広がり、思わず眉をひそめ、渋い顔をしてしまったようだ。


「無理して飲まなくても…。」


へっくんが苦笑いを浮かべる。


「でも、飲んでみたいんだもん。」


私は、小さい子どものように駄々を捏ねて、また一口。



だって、


あなたがおいしいと思う味を、私だっておいしいと思えるようになりたいもの。





目覚めにダークな一杯を

(あなたとおそろい。)

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