今日も、江戸の町は平和だった。


「そ〜れ☆」


ドシンッ!!


・・・・・・・・・午後までは。


店の外から聞こえた鈍い音に、ビュティは慌てて表へ出る。

するとそこには・・・


「おい、どけろ!!」

「おかえり〜 久しぶりだね♪」


地面に横たわる黒髪少年と、彼の上に乗りかかっている金髪少女。


「またやってるの?」


ビュティは呆れながらも、微笑ましい表情で声をかけた。


「お姉ちゃん!!」


少女はすぐさま起き上がり、ビュティの元へ小走りで向かう。

・・・下敷きになった少年を踏みつけながら・・・。


「こんにちは!! ビュティお姉ちゃん。」

「こ、こんにちは・・・ポコミちゃん。」


ビュティは苦笑いを浮かべながら、少女に返した。

少女の名はポコミ。

ヘッポコ丸の妹であり、町でも有名なおてんば娘。

ビュティは笑顔を浮かべるポコミの背後で、うつ伏せのまま痙攣している少年を見る。


「だ、大丈夫?」


ビュティの声に答えるかのように、少年はむくりと起き上がった。

彼の名はナメ朗。

放浪癖があり、たまにしか町に帰ってこない寡黙な少年。

ナメ朗は唐笠の砂埃を払いながら、ギロリとポコミを睨んだ。


「おいお前、何でここにいるんだよ。」

「何でって、ナメっちが帰ってきたの見つけたからじゃん。」

「俺は、お前に見つけられないように、屋根の上を走ってきたんだぞ! わりと全力で!」」

「甘いよナメっち。」


ポコミは手を腰に当て、胸を張る。


「ポコミちゃんの足の速さは、馬並みって評判だから・・・。」


ビュティが補足すると、ポコミはさらに仰け反った。


「お前、人間じゃねーな。 どちらかというと動物寄りの進化系だろ。」

「ヒドイなぁ。 ポコミはちゃんと人間だし、女の子だもん!」

「うぜぇ! 引っ付くな!!」

「素直じゃないな〜 嬉しいくせにっ!!」


そう言いながら、ポコミは『ギリギリギリ』と、おおよそ似つかわしくない音を立てながら、ナメ朗に抱きつく。

このままでは、ナメ朗が圧迫死するのも時間の問題だろう。

既に心なし、彼の顔が青い気がする。

彼の命の危険を察したビュティは、


「とりあえず、お店入りますか?」


不憫なナメ朗に助け舟を出した。



「はい、どーぞ。」


ビュティが、店内隅の掘り炬燵席で横並びに腰を下ろした2人に、団子を差し出す。

ポコミは「いっただっきまーす♪」と手を合わせ、ナメ朗は何も言わずに串を取った。


「とりあえず、おかえりなさい。 ナメ朗君。」


ビュティが2人の前に座りながら声をかけると、ナメ朗は「・・・おう。」とぶっきらぼうに返した。


「ナメっち。 土産話ちょーだい。」

「んなもん、ねーよ。」

「ふ〜ん・・・。 まぁ、いいや。 後で宿へ押しかけるから。」

「来んな。」

「残念ながら、もう宿の場所は把握済みだよ。」

「なっ!? 何でだよ!!」

「ふふ〜ん、内緒♪」


上機嫌で体を揺らしながら、団子を頬張るポコミと、「絶対来るなよ!!」と何度も繰り返すナメ朗を、ビュティは何も言わずに笑って見ていた。


「さ〜て、そろそろ帰ろっかな♪」

「おう、帰れ帰れ。」

「御代はナメっち持ちね〜。」

「はぁ!? 理不尽じゃねか!!」


ナメ朗の言い分は聞かず、ポコミは店の外へ出て行ってしまった。

「ったく、あいつ・・・!!」と言いながらも、2人分のお金を払うナメ朗に、ビュティは思わず噴きだす。

訝しげな目を向けるナメ朗に、ビュティは「気にしないで。」と手を左右に振った。


「ごちそうさまでした!!」

「いえいえ。 また来てね。」

「うん!! またお兄ちゃんとも来るね♪」

「ナメ朗君も、道中気をつけて。」

「あぁ。」


「じゃあね〜」と言いながら精一杯に手を振るポコミに、また笑顔を溢しながら手を振る。


「さぁ、ナメっちが語る冒険記のお時間だよ。」

「そんな時間は目次にねぇ。」

「ポコミの独断で書き足したからね。」

「勝手に・・・って、だからくっつくな!!」


2人の会話の内容に、更に目を細めるビュティであった。




素直じゃないなぁ。

(なんだかんだ言いつつも)
(きっと彼は)
(彼女を宿に入れてあげるんだろうなぁ。)


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