「青峰くんってホンット自己中だよね…………」

私がそう言うと、青峰くんは眉を吊り上げた。

「んだよ急に。なんか文句あんのか」
「いや、もういっそ尊敬してる……」
「はぁ?」
「だってそんな風に自由に生きられたら、人生楽しそう」


うらやましい、と素直に呟くと、喧嘩腰だった青峰くんの毒気が抜けた。
どうやら予想外な言葉だったらしい。


「ここまで自己中だといっそ清々しいよね。青峰くんだし、もういっかーって気分になってくるもん」
「それは……褒めてんのか?」
「褒めてる褒めてる。ここまで来るとこっちとしても諦めがつくよ。ナイス暴君って感じ」
「…………褒めてんのか?」


何だ、顔に似合わず疑り深い男だな。
褒めてるって言ってるんだから、素直に受け取ればいいのに。

まぁそんなことはさておき、私は身を乗り出して青峰くんに尋ねる。


「ねぇ、世界の中心ってどんな気分?」
「は? 何だよいきなり」

私の問いに、青峰くんは顔をしかめた。

「だって、青峰くんって自分中心に世界が回ってると思ってるんでしょ? 世界の中心ってどんな感じ?」

「お前オレを何だと思ってんだよ」

「自己中な暴君だと思ってる」

「もうオレ怒る気すら起きねーんだけど、お前すげぇな」


呆れた顔の青峰くんが、緩慢な動作で何かをしだす。
両手を前に突き出して腕で輪をつくり、私に「ん」と差し出してきた。


「……何です?」

「何です、じゃねぇよ。世界の中心知りたいんだろうが」

「はい?」


あまりに唐突過ぎる行動に、私の思考が追いつかない。
頭にいっぱい疑問符を浮かべる私に、青峰くんは面倒くさそうな表情のまま言った。



「オレが世界の中心ってことは、オレの中心は世界のど真ん中ってことだろうがよ。ど真ん中体験させてやるから輪ん中入れっつってんだ」


ああ、なるほど。
世界の中心の青峰くんが円を作ったら、その円の中心がまさにどんぴしゃど真ん中ってことか。
ものっすごい分かりづらいな。この人の思考回路どうなってんのかな。


まぁアホ峰だし仕方ない、ということで私は遠慮なく彼の輪の中にお邪魔する。


「失礼しまーす」

言いながら彼の腕の中に入ると。

(う、わ)


入った瞬間に自分の間違いを悟って、気軽に入ってしまったことを後悔した。


「どうよ、世界の中心は」
「えー、あー、その」
「んだよ、はっきり言えよ」

言葉を濁していたら、そう急かされて。


「あー、えっと…………お、思ったより、息苦しいものなんですネ、世界の中心」

狼狽えた挙句、何故か微妙に片言になってしまった。
そんな私を怪訝そうに見る青峰くん。


だって、正直に言えるわけない。
目の前にある青峰くんの胸板、私の周りを囲うがっしりした腕。
彼の体温のせいか、その輪の中は周囲より温度が高い気がして。
彼が近すぎて恥ずかしい、とか今さらどの面下げて言えと。

そういえば、私この人のこと好きだったわ、と今さらながらに思い出す。
そんな大事なこと忘れるとか、馬鹿なんじゃないの、私。
自分の脳みその出来の悪さに心底呆れる。


そうだよなー、普通好きな人に急接近したら恥ずかしいよなー。
あー、しまったなー。と自分の迂闊さを心の中で反省していると。


「………………うりゃっ」
「うひゃぁっ!」


私を囲っていた青峰くんの腕の輪が急激に縮まり、私の身体をしっかりと抱きしめてしまった。
思わず変な声を上げてしまうと、青峰くんはくつくつと喉を鳴らして笑う。


「お前、女ならもっと可愛い声あげらんねぇのかよ」
「そ、そういう男女差別、ダメ、絶対」
「何の標語だよ」



彼の胸板に顔を押し付けられ、さらに頭を彼の大きな手にわしわしと撫でられると、私は心臓がどきどきとうるさくなる。
そんな私の心中を知ってか知らずか、青峰くんは楽しそうな声で言った。


「これで、完全にお前が世界の中心だな」
「い、今だけね。普段は青峰くんだから」

苦し紛れにそう言うと、青峰くんはますます楽しそうに笑って私を抱きしめる腕の力を強めた。





(世界の中心なんて私には向いていないみたいだ)
(だって、息苦しいし、心臓痛いし、こんなところにずっといたら死んでしまう)


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