「ねー耳貸してー」
「え、嫌」

敦の唐突な言葉を反射的に切り捨ててしまうと、敦はむっとした。


「内緒話なんだってば、耳貸してよ」

「だって敦、耳貸したらいっつもちょっとかじるじゃん。つまみ食いするじゃん」

「だって美味しそうなんだもん。今日はガマンするから耳貸してよ」

「ガマンしなきゃかじるような子に貸す耳はありません」


貸す耳どころか聞く耳すらもたない私の態度に敦はますます膨れていく。
眠たげな瞳に不満の色が露わになって、私はため息をついた。



「何のお話なの? 場合によっては貸してもいいよ」
「内緒話」
「それじゃ分かんない。だいたい、ここ私たちしかいないじゃない。誰にも聞かれないよ」
「それでもダメ。こしょこしょ話がいいの」

「…………はぁ、分かった」


敦の頑固な態度に、ついに私が折れた。
正確にいえば、この押し問答が面倒くさくなった。
こういうところは敦と似てるかもな、と思いながら敦に寄っていくと、敦はパッと嬉しそうな顔をする。


「かじらないでね」
「うん、分かった」


返事だけは素直だけど、こう言って毎回かじるんだから。
半ば諦めに近い感情を覚えながら、耳に近づいてくる敦の唇に備える。

いつもならノーフェイクでかじりにくるんだけど。
今日は、そっと耳に両手をあてられて。
 

「あのね、他の人には秘密なんだけと」

こしょこしょ声で囁く声と、耳にかかった吐息がくすぐったくて私は身をよじる。





(食欲と性欲って、同じなんだって)
(せっ!? あつしっ、あ、痛い! かじるなってば、こら!)


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