今日は何もない日だった。
いつものように学校に来て、授業を受けて帰るだけ。
何の変哲もない、退屈で幸せな日常。
「おい」
移動教室という、日常の1ページの最中。
ふと背後から声をかけられた。
振り返るとそこには。
「落としたぞ」
言いながら私のハンカチを差し出す、赤い髪の男子。
端正な顔立ちに思わず目を奪われてしまう。
「あ、ありがとうございます!」
こんなイケメンに声かけてもらえるなんて、今日はいい日かもしれない。
直視するのが躊躇われるくらい整った顔立ちにどぎまぎとしながらも、私はそのハンカチを受け取った。
……あれ、私のハンカチってこんな柄だったっけ?
たしかに色柄は非常に私好みで、いかにも私が持っていそうな感じのものだが、何となく見覚えがない気がする。
その妙な違和感に首を傾げていると。
ふっ、とその男子が笑った。
「すまない、少し嘘をついた。それはお前のハンカチじゃない」
「は?」
「それはオレからのプレゼントだ」
「え、ええっ!?」
プレゼント?何で?
知り合いでもないし、誕生日でもない。
ていうか、何この渡し方?
戸惑う私の頭の中を大量の疑問符がぐるぐると駆け巡る。
そんな私の様子を見ながら、彼はクスクス笑った。
「お前のことをずっと見ていた。そのハンカチはお前を想って選んだものだ」
ふっと彼は真顔になる。
そして、その不思議な色の瞳で、まるで私を見透かすかのような視線を送ってきた。
薄い唇がゆっくりと開かれる。
「オレは赤司征十郎だ。以後、覚えておくように」
(日常の中にじっと息を殺して潜んでいたそいつのせいで、私の日常は呆気なく崩れ去ってしまった)