1cmの猶予を君に



「なまえっちはー、オレたちの中で付き合うとしたら誰がいいスか?」

そんな他愛もない話から、それは始まった。


「えー? 何いきなり」

携帯から顔をあげると、黄瀬くんは苦笑してみせる。

「いやー、さっき着替えてたら『オレたちの中で誰が一番モテるか』って話になってさぁ。でも決着つかなかったから、女の子に聞いてみよう!ってことになったわけ」
「それはまた……くだらないね」
「まぁまぁそう言わずに! 誰がいいっスか? そこはやっぱオレっスよね?」

目の前の男の自意識過剰発言に呆れて、私はぐいぐいと迫ってくる彼の頬をぐーで押しやる。

「黄瀬くんは論外。ありえない」
「ええっ!? なんでっスか!」
「ナルシストっぽいから。絶対やだ」
「そこまで言う? ううっ……傷ついた」

わざとらしく目を袖で擦って泣き真似をしてみせる黄瀬くんを青峰くんが指をさして笑う。

「ぎゃはは! だっから言ったじゃねーか、やっぱオレだろ。こないだマネージャーもオレのことカッコいいって言ってたしな!」
「青峰くんもやだ。子供っぽい」
「あ!? んだと?」
「そういうとこ。怒りっぽいのもやだ」

男子って何でそんなくだらないことで争いたがるんだろ。
呆れてため息をつくと、赤司くんが笑みを浮かべながら私に尋ねた。

「で、みょうじは結局誰を選ぶのかな」
「赤司くんまでそんなくだらないことに参加してるの?」
「いいじゃないか。単純な興味だよ。桃井と違ってみょうじはあまりそういった話をしないからね」

赤司くんに言われてしまえば、私は黙り込まざるを得なくなる。
たしかに私はそういう話からは縁遠くて、好きな人もいないし考えたこともなかった。
これは女の子としては由々しき事態なのかもしれない。

「うーん……」

この中で付き合うなら。狭い選択肢だけど、少し真面目に考えてみる。
自分はこういうタイプが好きなんだって気づけたら、もしかしたら今後の参考になるかもしれないし。


黄瀬くんは、前述のとおり論外。デートのときに私よりも鏡を見てる時間の方が長そうな男は嫌。
青峰くんも子供っぽいし、さつきちゃんがいるからナシ。
緑間くんは真面目だけど、私とは合わなそう。
紫原くんは恋人同士というより、お母さんと子どもみたいになっちゃいそうでナシ。
赤司くんとは私が釣り合わないからダメ。
残るのは。

「この中なら、黒子くんかな。優しくてカッコいいし」

彼の喋るペースや声音は私にはぴったりで心地いいから、2人で過ごしても楽しそう。
うん、アリかもしれない。


私がそう思った、次の瞬間だった。


「じゃあ、付き合いましょうか」


一瞬、誰が何を言ったのか、まったく分からなかった。
ばっと声がした方向を見ると、いつの間にか隣に並んでいた黒子くんが私をじっと見つめている。


「へっ……!? えーっと……え、今なんて?」

自分の耳が信じられなくて、私が聞き返すと。


「ボクとお付き合いをしませんか? みょうじさん」


先ほどより丁寧に言い直された言葉に、私は混乱して情けない声を出す。


「どっ、どういうこと!?」

「ボクとお付き合いをしてほしいんです、みょうじさんに」

「何で?」

「ボクがみょうじさんのことを好きだからです」


その言葉に私は声を失った。
彼が、私を好きだなんて、あまりの超展開についていけなくて、ただひたすらに困惑する。


「ひゅー、黒子っちやるー! 意外と肉食系っスねぇ」

冷やかす黄瀬くんの声に恥ずかしくなって、だんだんと顔が熱くなってくる。
そういえば、みんないるんだった。
公衆の面前で何て羞恥プレイ。どうすればいいの。

混乱して固まってしまった私の頬に、黒子くんがすっと手を伸ばした。
それだけでびくりと震えてしまった私を黒子くんがくすりと笑う。
その笑い方が男の人みたいで、心臓がどきりと高鳴った。
そういえば黒子くんも男の子だった。知ってたのに。

黒子くんの指が私の頬に触れる。それだけでびくりと震える私の身体。
緊張してガチガチの私を溶かすように優しい手つきでそっと頬を撫でられて、どきどきと心臓がうるさくなった。


「好きな人はいるんですか?」

囁くように尋ねられて、私はぎゅっと目を瞑って小さく首を横に振る。

「気になる人は?」

また、首を横に振る。

「では、ボクが彼氏では不釣り合いでしょうか」

黒子くんが、私の彼氏。今まで考えたことないその状況に、私は一瞬ためらって。
そしてゆっくりと、首を横に、振った。


「――それはボクとお付き合いいただけると受け取っても?」

その問いに私はぱっと顔をあげて彼を見上げる。


「ちょ、と、待ってください……っあの、そういうの、私、考えたことも、なく、て」

口の中がからからに乾いて上手く喋れない。
恥ずかしくてさらに顔が赤くなる私に、黒子くんはびっくりするくらい優しく笑ってくれた。


「知っています。構いませんよ、保留で。
ただ、これからボクのことをもっと意識してくれれば」


そう言って彼の掌が私の頬を優しく包み込む。
そして近づいてくる彼の顔。

「え」

「あー!」

間抜けな声が出た。
大声をあげる黄瀬くん。
唇にかかる黒子くんの吐息。
キスされる、と混乱した頭の隅で他人事のように思った瞬間。

ちゅっと音がして、唇の端に何かが触れた。
そして離れていく彼の唇を、ぺろりと赤い舌がなぞる。


「唇へのキスは、付き合ってからにしましょうね」

そう言って舌なめずりして、彼は柔和に微笑んでみせる。


あと1センチ内側なら完全に唇だった。
そんな絶妙な位置へのキスは、いつでも唇にもキスできると言っているようで。
私にはあまりに強すぎる刺激に、くらりと眩暈がした。


(うおー……すげー、テツすげー)
(黒子っちってなんなんスか? なんスかあのテク、オレも見習いたい)
(ははは破廉恥なのだよ!)

*ちゃきさまリクエスト作品。
緑間くんに破廉恥って言わせたかっただけ。


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