女王と忠実な騎士



(※赤司成り代わり、原作13巻沿い、キャラ崩壊、男主名変換必須、降旗視点)



「すみません、ちょっと外していいですか?」


WC開会式直後。
唐突な黒子の言葉に、カントクが笑顔でハリセンを握りしめた。
漂う険悪な空気に、条件反射で冷や汗が出てくる。

「だ・か・ら……すぐフラフラどっか行くなっつってんでしょーが……!」

カントクが怒るとわりとガチで怖い。ガチで。
そんなカントクを前にして若干及び腰になりながらも、黒子は言い訳をするように言う。

「いやその……ちょっと呼び出しが」
「呼び出し?」

木吉先輩の言葉に、黒子は頷いた。


「キセキの世代の主将に、会ってきます」

その言葉に、オレたちは息を呑んだ。


「キセキの主将って……!」

キセキの世代の主将、みょうじ男名。
オレだって名前くらいは知ってる。
あの黄瀬や青峰、緑間なんかをまとめていたヤツ。

そんなヤツからの呼び出しとか、オレなら足が竦んで絶対行けない。
(オレに呼び出しが来るはずないのはおいといて)
こういうとき、黒子はやっぱりキセキの世代の1人だったんだな、と実感する。


カントクも、そういう理由なら仕方がないと判断したのだろう。
ふーっとため息をついて言った。

「わかったわ。午後から試合だからそれまでには絶対戻りなさいよ!」
「分かりました。すみません、行ってきます」


ぺこりと一礼して去っていく黒子の背中を見送ろうとしていると。

「……降旗くん! ちょっとやっぱりついてってくれる?」
「あっ、はい?」

何でオレ? と思いながらも、オレは頷いてしまった。
おそらく、黒子の迷子体質や意外といい加減な性格を鑑みてのことだろう。
万が一にでも試合に遅れるわけにはいかない大事なスタメンだしな。

「あ、じゃあ行ってきます」

キセキの主将と会うのは怖いけど、どうせオレが話に入ることはないだろうし。
昔話に花が咲きすぎたときにストッパーをするくらいで十分だろう。
オレは慌てて、先を歩く黒子の背中を追いかけた。



***


「なんだぁテツ。お守り付きかよ」
「峰ちんにもさっちんがいるじゃん、お守り」
「さつきはカンケーねぇだろうがコラ」
「つーか緑間っち、なんでハサミとか持ってんスか?」
「ラッキーアイテムに決まってるだろう、バカめ」
「いやとりあえず危ないから、むき出しで持ち歩くのやめてほしいっス!」


黒子について会場の外に出て、見えてきた光景にオレは顔をひきつらせた。

何あれ、でかいのがいっぱい……!
ていうか、どっかで見たことある……!


「お待たせしました」
黒子がいつもどおりの涼しい声でそう話しかけたのは、黄瀬、緑間、青峰、紫原。
「っ……!」
悲鳴のひとつでも上げたかったが、そこは何とかこらえた。


(まさかっ、「キセキの世代」全員集合!?
マジかよやっべ超帰りてぇー!)

完全にオレ招かれざる客じゃん!
主将だけならと思ってついてきたのに!

キセキ全員を前にすると、同い年とは思えないその迫力に冷や汗が止まらない。


(何なんだよこいつら、こえーよ帰りてーよマジで!)

いっそ恐怖に任せて、オレとは対照的に涼しい顔をしている黒子に肩パンしたくなる。
元チームメイトなんだから当たり前なんだけど、この場でオレ1人がビビってんのが何か納得いかない。


若干涙目になりながら固まっていると、突然ピリリリと電子音が鳴った。
その音の出所に、青峰が顔をしかめる。

「ケータイうっせーよ黄瀬。みょうじか?」

しかし黄瀬はその言葉が聞こえていないかのように、携帯を凝視して呟く。

「ファンの子から応援メールっス!」
「死ね」

オレの気持ちを代弁してくれた青峰の隣では、紫原がスナック菓子の袋と格闘していた。

「あれー? 開かない……ミドチンそのハサミ貸してよ」
「断るのだよ」
「えー? 黒ちん持ってる?」
「持ってないです」

そりゃ普通の男子高校生(もちろん緑間は除く)はハサミなんか持ち歩かねーよ……!
ていうか、お前ついさっきまで板チョコ食ってたじゃん!


食うの早すぎとか、イケメン爆発しろとか、いろいろ突っ込みたいことはあるけれど、それよりも化け物みたいなこいつらがフツーの会話をしていることに驚く。
キセキの世代っつってもやっぱ話すことはオレたちとあんま変わんねーんだな……。


(けどなんか空気重っ……)
心の中でそう呟いてから、そりゃそーか、と勝手に納得する。

だって、かつての仲間っても今はみんな敵同士。
いずれ戦うことになるんだから。


そう思うとこの集まりを見る目が複雑なものに変わる。
みょうじはいったいどういう意図でわざわざ今から戦う昔の仲間を呼び出したのだろうか。


「つーか呼び出した本人がラストってどうなんスか!?」
「いちいち目くじらを立てるな。アイツはそういう奴なのだよ」

たしかにこの寒空の中、待たされるのは辛いだろう。
思わず愚痴をこぼした黄瀬を緑間は、諦めろ、といさめた。

「……ったく」
青峰も諦めているのだろう。
深くため息をついたそのときだった。



「すまない、待たせたね」


凛と響く声と同時に、人影が現れた。
それを見とめて黒子が呟く。


「みょうじくん……………!」

「え!?」

そのシルエットに、オレは驚いた。
アレがキセキの世代の主将?

逆光で顔はよく分からないけれど、キセキの世代と呼ばれるにしては身長が高くない。
ヘタしたら…………いや、たぶん。オレや黒子と同じか、少し低いくらいだ。


でも、そんなことよりも、もっと重要なことが。


「みょうじ……?」

青峰が呆然とした様子で呟いた。
見ると、キセキ全員が目を見開いてそのシルエット――――どう見ても、スカートを履いているそのシルエットを凝視している。
何を言っていいのか分からない様子だ。


困惑して口をぽかんと開けているキセキたちの中でただ1人。
黒子だけが動いた。

「みょうじくん、いや、なまえさん…………!」

見ると、隣にいた黒子がだっと駆け出していた。
呆然とするキセキたちなど眼中にもないように素通りして、階段を駆け上り、そして。


階段の頂点に立つそのシルエットを、思い切り抱きしめた。

「なまえさん、会いたかった……会いたかった!」


「えっ、ちょ、えええぇっ!?」

謎の展開に思わず声を上げてしまったら、緑間にじろりと睨まれた。
その鋭い視線に心臓が止まりそうになる。
慌てて口をつぐむと、それでいい、と言わんばかりに緑間が視線を戻し、ふーっとため息をつく。


「黒子、説明してくれないか。みょうじのその恰好は何なのだよ」

「そ、そうスよ黒子っち!」
「みょうじ、女装趣味でもあったのかよ? 冗談にしちゃきつすぎるぜ」

緑間の言葉にハッと我に返ったように、口々に説明しろと叫ぶキセキの世代。
しかしその言葉は耳に入らないのか、黒子は相変わらずぎゅーっとみょうじを抱きしめたままその髪に鼻を埋めた。


「なまえさん、会いたかったです。キミと離れてから、どんなに辛かったか……!」
「すまなかったね、テツヤ。しかし、皆が困惑している。離してくれないか?」

言いながら背中をぽんと叩かれ、黒子はしぶしぶといった風にそのシルエットを解放する。
そしてみょうじはこちらに向き直り、キセキたち1人1人を見回した。


「大輝。涼太。真太郎。敦。そして……テツヤ。
また会えて嬉しいよ。こうやって全員揃うことができたのは実に感慨深いね。
ただ……」

みょうじの視線が、オレに向けられた。
その瞬間、何故かびくりと身体が硬直する。


「場違いな人が混じってるね。僕……いや、私が話したいのはかつての仲間だけだ。悪いけど君は帰ってもらっていいかな?」

質問文の形をとっているが、有無を言わさぬ口調で、自然と従ってしまいそうになる命令。
もちろん、帰っていいなら帰りたい。今すぐ。
でも。


(うわなんだコレ!? 足がすくんで動けねー!!)

動け動けと念じてみても、一歩も動けない。
蛇ににらまれた蛙のようにだらだらと脂汗が流れる。
焦りと恐れが混ざってパニックになりかけていた、そのときだった。


「なんだよつれねーな。仲間外れにすんなよ」

場違いに明るい口調ともに、ぽんと肩に置かれた手。
それだけで不思議と身体の呪縛がとけて、オレはその声の主をばっと振り返った。

「火神!」
「ただいま」

そう言って笑う火神がこれほど頼もしく見えたことはない。
まさに救世主だ。

「間に合ったのか!」
「ああ、まぁ話はアトで。とりあえず……」


火神はオレから視線を外して、階段の頂点を見上げた。

「あんたがみょうじか。…………本当に?」


それまで挑戦的な表情でみょうじを見つめていた火神だが、そのシルエットを見とめると剣呑の色が浮かんだ。
するとみょうじはくっと喉を鳴らして笑う。


「そうだよ。私がみょうじ男名。中学の頃まではね」
「…………どういうことなのだよ」

緑間が口を挟んだ。
するとみょうじはクスクスとますます楽しそうに笑う。


「今は、みょうじなまえという。私の本名だよ。中学の頃は偽名を使っていた」
「何故だ。それはまるで……女の名前なのだよ」
「そうだね」


みょうじが頷いたそのとき、ひゅうっと風が吹き抜けた。
その風はみょうじのスカートを揺らし、それまで隠されていた太もものシルエットを露わにさせる。
その脚線は、けして男にはあり得ない柔らかそうな曲線を描いていて。
見てはいけないものを見た気がして思わず顔をそむけると同時に、みょうじの凛とした声が辺りの空気を揺らした。


「見てのとおり、私は女だ。今まで黙っていて悪かったね、皆」


その言葉に、オレたちは息を呑む。
思わずバッとその姿を見上げると、キセキたちも同じようにみょうじを見上げていた。


「おい、冗談にしてはタチが悪ぃぜ、みょうじ」
「冗談ではないよ、大輝。事実だ」

「信じられん……! ありえないのだよ」
「ありえない、と言われてもこれが真実なんだ、真太郎」

「え、じゃあ何スか、中学の頃は男装とか……?」
「そのとおりだ、涼太。男装を始めた経緯は長くなるから割愛させてもらうけど」

「黒ちんは知ってたのー? みょうじちんが女の子だって」
「ああ。テツヤが協力してくれたおかげで卒業までみょうじ男名を貫き通すことができた。まぁ本当のことを言えば、テツヤにばれたのも想定外のことだったんだが」


キセキたちが口々に尋ねるのに、ひとつひとつ丁寧に答えるみょうじ。
それを聞いていると、ゆっくりとオレにも事態が呑み込めてきた。

キセキの世代の主将は女。
何というカミングアウトだ。
絶句するしかない。


全員の沈黙を、無言の了解だと受け取ったのかみょうじは満足げに腕を組みながら俺たちを見渡す。

「今日、君たちをここに呼んだのはそういうわけだ。私はもう男子バスケの大会には出ない。今回のWCも私は出ないし、今後君たちと試合することはもう二度とないということだ」
「えっ!?」


それに声を上げたのは火神だった。
じろりとみょうじの鋭い視線が飛んでくるが、火神は萎縮した様子もなく、彼女に食ってかかる。

「んだよそれ! じゃあオレはお前とはもう試合できねぇのかよ!」
「そういうことだね。その代わり、私のチームメイトがいるけれど」
「チームメイトなんざどうでもいい! オレはキセキの世代を全員倒すって決めたんだよ!」

火神はボールを取り出してみょうじを睨みつけた。


「オレと勝負しろよ、みょうじ」


そのボールをみょうじに放り投げながら挑戦的に言う火神。
しかしみょうじは涼しい顔でそのボールを軽くキャッチし、そして火神に投げ返す。


「断る。私には君と勝負してやる義理はない。第一、君には先ほど帰ってくれとお願いしたはずだが?」

その返答に、火神はあからさまに顔をしかめる。


「てめーには義理がなくても、オレにはあるんだ、よっ!」

受け取ったボールを、火神はさっきよりも強く投げ返した。

「ちょっ、火神……!」
いくらなんでも女子にそのボールはないんじゃないのか、と思わず声を上げた、次の瞬間。


ばちんっ、と音がして、ボールがすごいスピードでこちらに返ってきた。

「うわぁっ!」
当たるわけもないのに反射的にのけぞる。
そんなチキンなオレとは違い、火神は少し驚きながらもそのボールを受け止めて、階段の上を睨んだ。


「何すんだよ、黒子」
「それはこちらのセリフです、火神くん」

そのボールを弾き返した張本人、黒子は相変わらずの無表情でオレたちを見下ろしていた。
黒子と火神が無言でにらみ合う。
オレは2人を見比べてあたふたするばかり。
あまりの空気の重さに、ああもうホント帰りたい、と心の中で呟いたとき。


ゆっくりと、黒子が階段を降り始めた。

「緑間くん、そのハサミをお借りしてもいいでしょうか?」
「? 何に使うのだよ」
「すぐ返します」

途中で怪訝そうに顔をしかめる緑間からハサミを借り受け、黒子はゆっくりとオレたちに歩み寄ってくる。
そして、火神の正面に立つと。


「うお!?」

ビュッと空を切る音とともに、ハサミが火神の頬の皮膚を切り裂いた。

「火神!!」


火神の反射神経に驚嘆すると同時に、あまりに迷いない黒子の動作にぞっとする。

「なっ何してんだよ黒子! 火神がもし避けられなかったら……!」
「大丈夫です。火神くんなら避けてくれると信じていましたから」

相棒に刃物を向けたとは思えない、いつも通りすぎる涼しい声に、ますます背筋が冷たくなった。
火神も言葉を失って、黒子を茫然と見つめている。
そんなオレたちの視線を受けても黒子は何事もなかったように踵を返し、再び階段を昇りはじめた。


「なまえさんが帰れと言ったなら帰ってください。なまえさんの言うことに逆らう人は、ボクが許しません」

呆気にとられている緑間にハサミを押しつけ、階段を昇りきってみょうじの隣に並ぶと、黒子は振り返ってオレたちを見下ろした。


黒子の存在感のなさのせいか、それともみょうじの存在感がありすぎるのか、隣に並んでも自然とみょうじに視線がいってしまう。
悠然と腕を組んで、まるで女王のような風格を備えたみょうじ。
その隣に黒子はまるで忠実な騎士のように従い、瞳に強い光を湛えながら、はっきりとした口調で言い放った。


「なまえさんに逆らう人は、親でも殺します」


冗談と笑い飛ばすにはあまりに衝撃的なその一言に、絶句する一同の中。
オレは、もうお願いだから帰らせてくれ、と心の中で泣きながら絶叫した。



(く、黒子っちってあんなキャラだったっけ……!?)
(しっ知らねぇよ! あんなテツ!)
(ハサミの使い方がシャレになってないのだよマジで……!)
(それよりさぁ、みょうじちん女の子だったならさぁ、食べてもいいってことなのかなー。ねーどう思う?)


*キリ番リクエスト200000番 悠さまリクエスト作品。
暴走しすぎた自覚はある。


[ back ]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -