▼飼い殺し
(骨の髄まで の続き、※R15、暴力描写あり)
12時30分。
オレはいつも通り、部室に向かった。
家畜に餌をやるためだ。
毎日毎日こうやって給餌してやるなんて、なんて面倒見のいいオレ、と心の中で自賛しながら部室のドアを開けた。
「よぉ、なまえ」
声をかけると、所在なさげにベンチに座っていたなまえの肩がびくりと跳ねた。
その素直な反応が愉快で仕方がない。
なまえの隣に腰を下ろし優しく肩を抱いてやると、なまえはますます怯えたように縮こまった。
「ふはっ、過剰反応だな。期待してんのか?」
オレの言葉に、なまえはひっと息を呑んで慌てたように首を横に振る。
「ちが、違います、期待なんかじゃ………!」
その表情にあるのは、怯えと恐れ。
オレは口角を吊り上げる。
「ふぅん。期待してないのか。じゃあこれはいらねぇな?」
言いながら、オレがポケットから取り出したのはピルケース。
見せつけるようにそれを上下に軽く振ると、かしゃかしゃと錠剤とプラスチックがぶつかる音がした。
「お前がそんなに孕みたいなら、今日から薬なしでヤってやるよ」
なまえはぐっと息を詰まらせた。
泣きそうに顔を歪ませ、しばらく沈黙していたがやがて震える唇を開く。
「……ごめ、なさ……っ薬、ください…………っ」
そのか細い声に、オレはますます口端を持ち上げた。
「食事のマナーは教えたよな、なまえ?」
わざとらしくそう尋ねると、なまえは躊躇うように唇を噛んだ後、やがてゆっくりと腰を上げた。
そして、震える手をオレの肩にかけ腿を跨ぎ、向かい合うようにオレの膝に腰を下ろす。
こいつの心中の葛藤が手にとるように分かるのが愉快で仕方なくて、オレは笑いを堪えられず、クスクス笑いながら錠剤をひとつ、自分の舌の上に乗せた。
オレの唾液で錠剤がわずかに溶け、舌に苦みが広がる。
早くしろ、となまえを目で促すと、相変わらず泣きそうな顔をしながら、なまえはゆっくりとオレに顔を近づけ。
そして、オレの唇に自分のそれを重ねた。
オレはなまえの腰と後頭部に手を回し、逃げられないようがっちりと抑え込みながら舌の上の錠剤をなまえの口内に押し込む。
「はっ……ぁ」
鼻にかかった吐息をもらすなまえの口内に、唾液を流し込んでやる。
なまえ自身の唾液と混ざって2人分になったそれで、なまえは苦しげな顔をしながらも、何とか錠剤を嚥下した。
「う、くっ………」
苦しげに喉を上下させるなまえの顔がゆっくりと離れていく。
オレはこの苦しそうな顔が好きだ。何度でも見たくなる、苦悶の表情。
苦しめて泣かせて、ドロドロのグチャグチャにしたやりたくなる。
「食事が終わったらなんて言うんだ?」
オレが尋ねると、なまえは屈辱に顔を歪めて、そして顔を伏せながら途切れ途切れに言った。
「ごちそっ……さま、でした……っ」
絞り出すようなその声と、前髪に隠れきれなかった瞳から新たに溢れた涙にオレはまた唇を歪めた。
***
「やあ、いい子だねなまえ」
12時30分。部室の扉を開けて、ベンチに座っているなまえに笑いかけてやったが、スカートから伸びる足を見た瞬間思わず舌打ちをしてしまう。
「……この愚図。その足はどうした?」
「あ……さっき、ベンチでぶつけて……」
「はぁ…………」
オレはため息をついて、なまえの前に膝をついた。
「見せてみろ」
「あっ……」
膝の裏をつかんで、足を引き寄せる。
なまえの足は、膝の少し下あたりが切れて血が滲んでいた。
こんな深い傷、どれほど強くぶつけたらできるのか。呆れてオレはため息をついた。
「よくもまぁこんな器用なことを……このベンチでこんな傷作るやつは初めてだぞ」
「ひゃっ……花宮せんぱ……っ!」
オレがますます強くなまえの足を引き寄せると、スカートが捲れたなまえは慌てて足の間に手を入れ、スカートを押さえた。
まるで処女のような反応に、悪戯心が沸く。
「ふはっ…………バァカ」
笑いながらオレは、なまえの膝に顔を寄せた。
べろりと舌を這わせると、鉄くさい血の味が舌に広がる。
「はっ、花宮先輩っ」
「うるせぇ、逆らうな」
「っ!」
オレはなまえのふくらはぎをゆっくりと撫でながら、傷口に舌をねじこんだ。
痛いのか、びくりと震えるなまえの足を押さえつけながら、上目づかいになまえを見上げると、片手で口元を押さえて声を堪えているようだった。
それが面白くない。
「声堪えてんじゃねぇよ、痛いなら喘げ」
「っあ!」
傷口に歯を立ててやると、なまえは顔をしかめて叫んだ。
じわりと瞳に浮かんだ涙に、ふと閃く。
「……可哀そうになぁ? 痛いだろう? 辛いだろう?」
「ん…………っ!?」
オレは優しく囁いてやって、なまえの足を誘うようになぞる。
その手はだんだんと這いあがり、やがてなまえの太ももへ。
なまえの抵抗をシカトして、オレの爪痕や噛み跡だらけのその内ももをそっと撫でた。
「オレみたいなのに目ぇつけられて、苛められて、食い荒らされて……。お前は本当に可哀そうな女だな、なまえ?」
「っ花宮先輩……?」
「可哀そうなお前を、オレが慰めてやるよ」
言いながらオレは腰を上げ、なまえの唇を塞いだ。
「んっ…………ぅ」
いつもならすぐになまえの口をこじ開け舌をねじ込むが、今日はわざとスタンプキスのみを繰り返す。
時折バードキスを交えると、なまえの身体はふるふると小刻みに震えた。
オレはそんななまえに迫りながら、ゆっくりと彼女の身体をベンチに押し倒す。彼女の背中が完全にベンチにつくと、オレはなまえの顔の横に肘をついて、彼女の前髪をかきあげながら子供のようなキスを繰り返した。
「んっ、せんぱい……っ」
「どうした? 怖いのか?」
ぎゅっとオレのシャツを掴んだなまえの手をさらって、自分のそれと絡めベンチに縫い付ける。
なまえと繋いでない方の手でなまえの髪を梳きながら、オレはなまえの頬や額、まぶた、その他至るところにキスの雨を降らせた。
まるで恋人同士のような甘ったるい行為。
たまにはこういう趣向も悪くない。
そう思った次の瞬間。
「――やめて、くださいっ!!」
なまえがオレの手を振り払って、両手でオレの胸を押し退けた。
今まで一度もなかったはっきりとした拒絶にオレは眉をしかめる。
何を考えているんだ、となまえを見下ろすと。
「うっ……く、っ……」
なまえは泣きじゃくっていた。
ぼろぼろと涙をこぼし、堪えきれない嗚咽を漏らしながら、無様に泣いていた。
今までの噛み殺すような泣き方とは違う、痛みを伴った泣き方にオレは言葉を失う。
「何で……何でこんなことするの……? こんな……ひどい……っ」
「……何が酷いんだよ。優しくしてやってんだろ?」
オレが言うと、なまえは一瞬息を呑み、そしてますます顔を歪めて絞り出すように言った。
「優しく…しないで……っ! 先輩に、優しくされたく、ないっ!」
叩きつけるようなその言葉に、オレはわずかに動揺する。
しかしそれを表に出さないように口角を持ち上げて、なまえの額に自分のそれを押し当てた。
「ふはっ、お前……酷くされる方が好みなのか? 変態」
至近距離で瞳を睨みつけながら挑発的にそう言ってやったのに手ごたえはなく、なまえは力なく瞳を伏せて嗚咽をあげる。
「優しいよりは、酷い方がまだマシ……! 先輩に触れられると辛いから、優しくされたらもっと辛いから……っ」
そう言ってさらに泣きじゃくるなまえを、オレは呆然と見つめた。
こんななまえ、見たことない。
オレの知っているなまえは、まるで人形のような瞳をしていて、いつも感情を押し殺すように唇を噛みしめていた。
こんな風に無防備に感情を曝け出して子供のように泣き喚くなまえをオレは知らない。
「……お前は、辛かったのか?」
そう尋ねると、なまえは無言でこくりと頷いた。
そうか、なまえは辛かったのか。
それを聞いてオレは――にやりと口元を歪めた。
オレはなまえに覆いかぶさっていた身体を起こし、大きく右手を振りかぶった。
それをなまえの頬に振り下ろすと、ぱぁん、と小気味のいい音がする。
「ぴーぴー泣いてんじゃねぇよバァカ! お前が辛いとか、苦しいとか、そんなのオレには関係ねーんだよ。てめぇが何を思ってオレに抱かれるかなんて興味ねぇし、必要ねぇ」
嗤いながらオレはなまえの前髪をぐっとつかんで、上に引き上げた。
「っく…………」
苦しげに顔を歪めて呻くなまえの耳元にオレは唇を近づけた。
唇が触れるか触れないかギリギリの距離で、とびきり優しい声で囁いてやる。
「家畜に心はいらねぇんだよ。食われるまで大人しく息してりゃいいんだ、覚えとけバァカ」
言い終わると同時に、掴んでいたなまえの髪をぱっと離すと、なまえの頭は重力に従って落下しベンチとぶつかって、がん、と鈍い音がした。
「いっ……つ……っ」
痛みに声をあげるなまえの顎を片手でがっちりと掴み、ポケットから取り出したピルをひとつ自分の口に放り込んでオレは笑った。
「さぁ、餌の時間だ」
そしてなまえに口づけると、なまえはいつものような人形の瞳から、虚ろな涙をあふれさせた。
(心はいらない。辛苦も、愛も)
*20000hitお礼続編アンケート9位「骨の髄まで」続編です。
夢主が少しは報われる話にするつもりだったのに、何も報われなかった。
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