○○系男子



私の彼氏はカッコいいです。
今流行りのロールキャベツ系男子ってやつで、普段の紳士的で優しい態度も素敵だけど、ときどき見せる肉食なところにもドキドキさせられちゃいます。
草食系に見えて肉食系なロールキャベツ系男子、素敵ですよね。

「何それ変じゃない? 草食っぽい肉食とか、結果肉食じゃん」

むっくんが何か言っていますが、無視します。
ロールキャベツ系男子のよさが分からない人に用はありません。
見た目が草食系ってとこがポイントなんです。
いわゆるギャップ萌えってやつです。
紳士モードと攻めモードのギャップがたまらないんです。

「なんか二重人格っぽい。キレると豹変するってやつ」

二重人格じゃないです。
元々中身は肉食なんですきっと。
草食の殻に包まれているだけなんです。

「じゃあ草食系の部分はイツワリってこと?」

馬鹿言わないでください。
紳士的で優しい彼が偽りだったら私泣きますよ。

「じゃあ肉食部分がムリしてるんだ」

そんなわけありません。
ムリしてる人があんな生き生きしながら迫ってくるわけないじゃないですか。

「それおかしくない? 草食と肉食が共存するわけないじゃん。雑食じゃんそれ」

雑食系男子なんぞと一緒にされては困ります。
そんなのストライクゾーンが広すぎるってだけのただの男子じゃないですか。
彼のストライクゾーンは私だけです。


「うわ、何その自信。引くわー。
でもさあ、実際黒ちんの本性って草食か肉食かのどっちかにあるわけじゃん? ロールキャベツだって元々はただのキャベツと肉だし。どっちが本当の黒ちんなのさ」

「引くとか言わな……………………え?」



***



本当の黒子くん────考えたこともありませんでした。
だって私にとっては紳士的な黒子くんも迫ってくる黒子くんもどっちも黒子くんだから。
それは間違いなくどちらも彼なのでしょうけれど、どちらの方が本物の彼に近いんでしょうか。


普段の彼はとても紳士的です。

道を歩くときは必ず彼が道路側を歩いてくれて、どんなに小さな段差でも必ず手を貸してくれます。
そのときにも必ず「手を預けてくれますか?」と丁寧に伺ってくれるし、抱きしめたりキスをしたりなんてときも必ず「いいですか?」と一言断ってくれます。
大切にされすぎてて申し訳ないくらいです。


ただし、スイッチが入った彼は別です。
手をつないだり、抱きしめたり、キスしたり。
それ以上の行為も、断りは入れずに強引に迫ってきます。
私が恥ずかしがって嫌がっても、やめるどころかむしろ楽しげに目を輝かせるばかり。
恋人同士の営みにとても積極的なこの一面は、付き合うまで知らなかった黒子くんです。

余談ですが、私は彼のスイッチがどこにあるのか未だに分かりません。
うっかりスイッチを押してしまって大変な目にあったことは数えきれないくらいです。


優しい彼と強引な彼。
どちらがより本当の彼に近いのでしょうか。

私の希望としてはやはり――――…………あれ?


そこまで考えて、私は分からなくなりました。
私の希望は、どちらの彼なのでしょうか。

――――――やっぱり、分からない。
その事実に愕然としました。


私は彼のどこに惹かれたのでしょう。
優しいところ? それとも男らしいところ?
彼の一番好きな部分が分かりません。
これは一体どういうことなのでしょう?


「なまえさん、どうかしましたか?」

深く悩みこんでいた私の思考が、私の正面に座る彼の声で引き上げられました。
私は慌てて顔を上げます。

「ううん、何でもないよっ」
「そうですか? ならいいんですが………」

納得はしていないようだけれど、とりあえず引き下がってくれた黒子くんにホッとしました。


そういえば私たちはデート中でした。
中学生のカップルらしく、マジバでお茶をしている最中です。
考え事に没頭して彼を疎かにしちゃうなんて彼女失格もいいところです。


いや、でも。
彼氏の一番好きなところが分からない、なんてのも彼女失格なのではないでしょうか。

例えば、プリンの一番好きなところはぷるぷるの食感です。
むっくんの一番好きなところは、授業中に居眠りする私をその巨大な背中で完全に隠してくれるところです。
でも、黒子くんの一番好きなところは分かりません。
むっくんのは分かるのに黒子くんのは分からないなんて、彼女失格でしょう。


「………なまえさん、どうしたんですか?」
「はいっ!? あ、ごめんなさい………!」

また考え込んでしまっていたようです。
訝しげな彼に私は謝ります。

しかし彼はため息でその謝罪を流してしまいました。

「…………何を考えていたんです?」
言いながら彼はフッと笑みを浮かべました。
まるで茶化すように軽い口調で続けます。

「ボク以外の男のこととかだったら、それなりに悲しみますよ」
「えっ、いやそんなわけないよ!」

慌てて否定しながらも、そういえばむっくんのことを一瞬だけど考えちゃったなと思い出します。
それが顔に出てしまったのか、黒子くんは眉根を寄せました。

「…………本当に他の男のことだったんですか?」
「違う……けど、違わないのかな。分かんない」

私の言葉に、彼は深く息を吐き出しました。
そして私に手を差し出します。


「ついてきてほしい場所があるので、手を繋いでもいいですか?」

いつもどおり丁寧な物言いですが、彼の瞳は強く光っていて、有無を言わさぬ様子です。
経験上、この状態の彼には逆らわないが吉です。
だから私は大人しく頷いて、彼の手に自分のそれを重ねました。



***


そうしてお店を出た彼は私を、近くにあった公園に連れてきました。
てっきりベンチにでも座るんだと思ったのですが、彼はそんなものには目もくれず、植え込みを超えて木々の間へと入っていきます。
鬱蒼と生い茂る木々に、私たちの姿は覆い隠されてしまいました。


「ここ、入っていいの?」
「立ち入り禁止とは書いてありませんでしたから」

しれっとそう言う彼は、ぐっと私の手を引いて木と彼の間に私を挟んでしまいました。
驚いて逃れようとしたけれど、すぐに幹に彼の手が当てられ、私は彼の腕の間に閉じ込められてしまいます。


「あの…………黒子くん?」

何だか嫌な予感がして彼を見上げると、彼はまたフッと微笑みました。
一見して穏やかに見えるけれど、経験上この笑みは、危険です。

「なまえさん、他の男のことを考えていたんですか?」
「やっ、そんな考えたってほどじゃ…………」
「そんなに余裕なんですか?」

彼は私に身体を寄せました。
顎を持ち上げられて真上を向くと、すぐに彼の唇が降ってきます。
「んぅ…………」
その熱い口づけを受け入れると、鼻にかかった吐息がもれてしまって私は羞恥に顔を染めました。
しかし彼はそれに気分をよくしたようで、ますます口づけは深くなります。
だんだんと私の足に力が入らなくなってしまって、がくがくと震える身体を彼の腕が支えてくれます。

ようやく唇が解放されると、私は一人では立ってはいられず彼に寄りかかりました。

「余裕なんて、なくしてあげますよ」

ああ、やはり彼のスイッチが入ってしまったようです。
今回のスイッチはどこにあったのでしょうか。
私には分かりません。

でも入ってしまったら私にはもう抵抗する術はありません。
大人しく身を任せようとしたその瞬間、彼がぷっと吹き出しました。
その意味が分からず、私はきょとんとしてしまいます。


「ふっ…………すみません、冗談です。だからそんな可愛い顔しないでください」

クスクスと笑いながら彼は私の前髪を優しく払いました。
その指先がくすぐったくて、ぎゅっと目を瞑ると彼はその額にキスをひとつ落とします。

「少し調子に乗ってしまいました。ボクがキミをここまで連れてきたのは、ここなら絶対に誰も来ないからです」

だから、と彼は不意に真顔になりました。


「悩み事があるなら、話してくれませんか? ボクは誓って誰にも言いませんから」
「え…………?」
ドキリと胸が高鳴りました。

「もしかして……心配してくれたの?」
「ええ。なまえさんが考え込むなんて、よっぽどのことかなと思って」


ああ、やっぱり私の彼氏は優しいです。
カッコよすぎて動悸が収まりません。

しかし、この悩み事は彼に言っていいものなのでしょうか。
貴方の一番好きな部分が分からないんです、なんて。

「…………なまえさん?」
迷う私を心配そうに見つめてくる黒子くん。
その揺れる瞳に、私は覚悟を決めました。
これ以上彼を心配させてはいけません。


「笑わない……?」
「笑いません」
「ホントに?」
「本当です」

「…………誰にも言わないでね」

そう前置きして、私は彼のシャツの裾をぎゅっと握りました。


「私ね…………黒子くんのどこが一番好きか分からないの」
「…………………………は?」

彼がぽかんと口を開けました。
私は言い訳をするように言葉を重ねます。

「もちろん黒子くんのことは好きだよ。優しいところも好きだけど、見た目に反して強引なところも好き。でも、私が一番好きなのはどっちなんだろうって思ったら分かんなくなってきちゃって…………」

「………………それで悩んでたんですか?」

私がこくりと頷くと彼は、はーとため息をつきます。
呆れられてしまいました。
ショックで私は俯きます。


しかし、すぐに私の顔は彼の手で持ち上げられてしまいました。
呆れた顔が私を見下ろします。

「あのですね、なまえさん。ボクだってキミの一番好きなところなんて分かりませんよ。何故だか分かりますか?」

少し憤慨しているようにも聞こえる彼の口調に、私は気圧されながら首を横に振りました。


すると次の瞬間、私は彼にギュッと抱きしめられていました。
あまり身長差のない私たちは、抱き合うとお互いの肩あたりに顔が来ます。
私はというと、彼の肩に顔を埋められて少し苦しいです。
しかし彼はそれに気づかず、私の肩に顎を乗せながら耳元で言いました。


「ボクは、キミの一部ではなく、全てが好きなんです。どんな部分も全部ひっくるめてキミでしょう? 優劣なんてつけられないし、どこが一番なんて考えるのは無意味です」

はっきりと、言い聞かせるような口調。
私はその言葉に驚いてしまいました。

そして同時に納得もします。
何て恥ずかしい事実なのでしょう。


「もしかして、私も黒子くんの全部が好きなのかな」

声に出してみると、それは私の胸にすとんと落ちてきて、綺麗に収まりました。


そうです、私は黒子くんの全てが好きなんです。
だから優しくて紳士的な黒子くんも、強引で男らしい黒子くんも、全てが大好きです。


「そっかぁ………………そうなんだね、黒子くん」
「悩みごとは解決しましたか?」
「うん」

私が頷くと、黒子くんは私から身体を離しました。
そして私を覗き込む顔は穏やかに微笑んでいます。
非常に優しい笑顔なのですが、何故か嫌な予感がします。
場面的にはこの表情で何の問題もないはずなのですが、何故でしょう。


「ところでなまえさん」
「は、はい」

本能的にびくりと肩を震わせて一歩下がろうとした私にぶつかるのは、木の幹。
正面には穏やかに微笑む黒子くん。
どうしよう、逃げ場がありません。

だらだらと冷や汗を流す私の頬を、黒子くんは優しく撫でて言いました。


「そんなことで悩むような可愛い子には、お仕置きをしなければなりませんね」


文脈がおかしいのではないでしょうか。
そう突っ込むことすら私には許されそうにありませんでした。



(分かりました、彼の本性は肉食獣です。間違いなく)


*100000hitアンケートリクエスト第1位黒子テツヤで、中町さまリクエスト作品。
書きながら、私もどっちの黒子くんが好きか本気で悩みました。


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