大馬鹿者に祝福のキス



(※赤司教師パロ)



「これは何のつもりだ。ふざけているのか。」


私は困惑した。
私をじっと睨みつける担任の赤司先生と私の間にある机の上には、進路希望調査表。
先日書いて提出したものだ。

「こういう冗談は感心しないな。もう一度書き直して明日までに提出しろ」
「えっ、あのっ、ちょっ」

先生のペースで話が進みそうになるのを慌てて止める。


だって、怒られている理由が全く分からない。
いきなり進路指導室に呼ばれた時点で既に意味が分からなかったが、ろくな説明もなしにまさかここまで本格的なお説教されるなんてますます意味が分からない。

進路希望調査票に書いたのは、大学進学という平凡すぎるくらい平凡な進路。
大学のレベルだって、私の成績から考えると高すぎもなく低すぎもない、分相応の大学だ。
真面目に考えた私の将来。冗談なんかであるわけがない。


「な………何で私、怒られてるんですか」
おそるおそる尋ねたら、先生の眉がピクリと動いた。

「怒られる理由が分からない、と?」

爬虫類を彷彿させる、先生の視線がますます鋭くなる。
さながら私は蛇に睨まれた蛙だ。

「わ、分かるはずないじゃないですか…………何でこの進路じゃダメなんですか」
それでも必死の思いで口答えすると、先生がスッと目を細めた。

「君という子は……………」

ヤバい、すごい怒ってる。
何でか分かんないけどめっちゃ怒ってる。

「自覚がないのか、それとも僕を怒らせて楽しんでいるのか。どちらにしろ、悪い子だ」
とん、と先生の人差し指が机を叩いた。
正確には、その机の上の進路希望調査票を。

それしきの仕草で息が詰まって動けなくなる私に、彼はとんでもない言葉を投げかけた。


「お前は僕の嫁になるんじゃなかったのか」


「…………はい?」

耳を疑った。
いきなり何言い出したの、この人。


「お前は僕の嫁になるんだろう。大学なんて行ってどうする。そんな所に行く暇があったら家事のひとつでも覚えろ」

「え……え、ちょっ………は!? な、何…………」
狼狽える私に彼がますます苛立つのが分かったが、そんな苛立たれても困る。

「そ、そんな理由で私の進路否定するんですか……!?」
「そんな理由? 僕と結婚することが"そんな理由"か」
「それは…………ていうか、唐突すぎます! 結婚だなんて、そんな、急に……」


たしかに、先生と私は付き合っている。
先生と結婚する、なんて妄想をしたこともないと言ったら嘘だ。
でも、それはあくまで妄想でしかない。
急に現実味を帯びて突きつけられた言葉に戸惑うばかりだ。


「わ、私には結婚なんてまだ早いと思います」
「日本国の民法で女性の婚姻適齢は16歳以上だ」

「そういう問題じゃ……だって、私まだ友達と遊びたいし」
「家庭に縛りつけようとは思っていない。友達とくらい自由に遊べばいい。ただし、女友達に限るが」

「ま、まだ勉強していたいし」
「勉強したいなら僕が教える。僕は教師だぞ」

私が何を言っても先生はあっさりと流してしまう。
もう理由が見つからなくて、私が黙り込んでいると先生が、はぁ、と深く息を吐き出した。

「何故そんなに躊躇う。
僕はなまえを愛していて、なまえも僕を愛している。僕もお前も結婚するのに十分な年齢だ。僕は安定した職についていてお前を養うだけの貯えもある。僕は酒もタバコも好まないし、ギャンブルや他の女に手を出す気などさらさらない。お前の家族と上手く付き合う自信もある。
僕は夫として、お前を幸せにするだけの用意がある。なのに何故お前は躊躇うんだ」


呆れた口調で言われ、私は言葉を失う。
結婚を躊躇う理由なんて、一つしかない。

「こ……心の準備ってものがあるじゃないですか」

私の言葉に、先生は怪訝そうな顔をした。
その表情の意味を測りかねていると、先生はそのまま口を開く。


「心の準備ができたら僕と結婚するんだろう? いつか結婚するなら、いつ結婚しても同じじゃないか。それなら早い方がいいに決まっている」

当たり前だ、といわんばかりの、謎の自信に裏付けされた彼の主張に、私は絶句した。
前々からこの人少し馬鹿なんじゃないかと勘付いてはいたけど、ここまでとは思っていなかった。


「せ、先生は……ずっと、私と結婚したいと思っていてくれたんですか……?」

困惑しながら私が尋ねると、先生は驚いたように目をぱちくりさせた。

「お前は僕と結婚しないと思っていたのか?」

その可能性は考えていなかった、という表情。
どうしてここまで常識の認識がずれているのか驚かざるを得ない。


まったく、何という暴君だろう。
世界はすべて自分の思い通りになると思っている、自己中心的で大馬鹿な暴君。

その暴君に私は、人生の分岐点に無理やり立たされた。
彼と結婚するか、しないか。


私は一生懸命考える。
この先私は先生をずっと愛し続けることができるのだろうか。
この人に一生ついていくことができるのだろうか。

考えても分からない。そんな先のこと。
だって私はまだ高校生なのだ。


「なまえ、ひとつ教えてやろう」

困り切って俯いていた私の頬を先生の大きな手が包み込み、顔を持ち上げた。


「今後のお前の人生において、僕以上の男は存在しえない。僕以上にお前を幸せにするだけの自信と実力をもった男がいるわけがない」


手つきも、口調も、表情もすべて。
泣きたくなるくらい優しいのに、言葉だけは自分勝手。

「……先生が言うと、冗談に聞こえないです」
「当然だろう、これは事実だ。だからお前は僕の嫁になるんだ」

なんて男だ。
これでプロポーズしているつもりなのだろうか。
馬鹿にもほどがある。


でも。

私と結婚するという未来を疑いもせず、当然だとのたまうこんな馬鹿なところが。
愛しいと感じてしまう私も相当な馬鹿者なのだろうか。


「なまえ」

もう一度彼が私の名を囁いた。
彼は身を乗り出しながら、甘く囁く。

「僕の嫁になれ。幸せにしてやろう」

ゆっくりと近づいてくる先生の顔。
私は目を閉じながら、小さく呟いた。

「先生の……馬鹿」
私のささやかすぎる抵抗と、将来に対する幾ばくかの不安は、噛みつくような赤司先生のキスに全て呑みこまれてしまった。



(そんな馬鹿で、今後生徒に何か教えられるんですか?)
(うるさいな、誰に向かって口を聞いている。しかし……そうだな、お前が生徒なら何でも教えてやれるよ。例えば、夫の悦ばせ方、とかね)
(…………っ馬鹿!)


*100000hitフリリク企画 ちゃこさまリクエスト作品。
赤司くんなら教師×生徒の禁忌なんてあっさりと踏み越えてくれるって信じてる。


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