骨の髄まで



(※R15)



「だからうぜぇっつってんだよ!」

オレが怒鳴ると、なまえはビクリと身を竦ませた。
怯えているのは明らかなのに、瞳だけは健気に俺を睨みあげてくる。


「お願いです。ラフプレーはやめてください」

震えた声で、それでも気丈に言い放つなまえに苛立ちが募る。


「何でてめぇごときにオレが意見されなきゃいけねぇんだよ。マネージャーの分際で監督に逆らうな」


ギロリと睨みながら言うと、なまえは顔を歪めて泣きそうな顔をした。
まじでうぜぇ。


「オレの方針についてこれないなら、てめぇがマネージャー辞めろ。お前ごときいなくても何も困んねぇんだよ、バァカ」

べぇと舌を出してやると、なまえがぐっと喉を詰まらせる。
何かを堪えるように唇を噛む姿にも神経を逆なでされて、オレはチッと舌打ちをしながら踵を返した。



***


「はぁ…………」
着替えながら思わずこぼれたオレのため息に、古橋が反応した。

「どうした花宮」
「あ? マネージャーだよ、あのクソ女。来る前に捕まったんだ」
「ああ」

部室全体に微妙な空気が漂った。
あいつの存在は部内でも悩みのタネだったからだ。


「あいつ辞めさせられねぇの?」
山崎の問いにオレは首を横に振る。

「除籍しただけじゃ意味ねぇんだよ。後から騒がれて噛みつかれても面倒だ」
「あいつ変なとこ根性あるよな」
「マジいらねぇそういうの」
吐き捨てるようにオレが言うと、原が相変わらずの軽い口調で笑った。

「ていうか、まずあいつ何で霧崎なわけ? 正々堂々としたスポーツがやりたいならうちはお門違いだろ。なんてったって"悪童"がいるんだし」

たしかにそうだ。
あいつは照栄中の出身らしいから、それこそ木吉のいる誠凛にでもいけばいいものを。

「霧崎のエリート候補でも引っかけてぇんじゃねぇの? 玉の輿狙いで」
「ふはっ、それにしちゃ色々足りてねぇんじゃねぇの? 色気とか」

オレが言うと、部室は下卑た笑いで満ちる。
その笑いを聞いていたら、ふとひらめいた。


こいつらは、オレと同じクズ野郎だ。
だからこそ、共有できるものがある。

「しかし、そろそろ周りをチョロチョロされんのもウザいよなぁ」
言いながら、オレは奴らを見回した。

オレの視線に含まれた意図を汲み取った奴らはニヤニヤとしながら頷く。
「それじゃあどうする?」
唯一、能面のように表情を変えもしない古橋の言葉に、オレは口端を吊り上げた。


***


「おい、なまえ」

ボール拾いをしていたなまえに声をかけると、なまえはパッと顔をあげた。

「ついてこい」
「え? どこに行くんですか」
「うるせぇ。つべこべ言わずに大人しく従え」

オレの言葉に、不思議そうな顔をしながらも大人しく後ろをついてくるなまえ。

「お前ら、通常メニューをやっとけ。終わるまではコートから出るんじゃねぇぞ」

部員にそう指示してから、オレはなまえを連れて体育用具倉庫に入っていった。
背中に、部員のニヤニヤとした下卑た笑いを感じながら。



「何か仕事ですか?」

ほこり臭い体育用具倉庫に顔をしかめながら、なまえは尋ねた。
扉を閉められても警戒する素振りすら見せない。
これで鍵でも閉めればさすがに警戒するのだろうが、その必要はない。

「ああ、仕事っていうか………聞きたいことがあるんだ」


オレは言いながら、無防備なその腕を掴んで、積んであるマットに押し倒した。
細い手首をマットに押しつけると、ミシミシと骨が軋む感触。
なまえはその痛みに顔をしかめる。

「い、たい……ですっ…………花宮先輩」

いまいち何が起きたか分かっていない顔のなまえを見下ろしてオレは笑った。
どれだけ嫌らしい笑みかは鏡を見なくても分かる。

「ふはっ、いい格好じゃねぇか」

なまえに跨がってオレは顔を近づけた。
オレの前髪が触れるとなまえは面白いくらいにビクリと身を強ばらせる。


「お前さぁ、自分がどんだけ要らない奴か分かってないわけ?」

なまえの手首を頭の上でまとめて片手で押さえつけ、空いた片手で短いスカートから伸びる足の内ももをスルリと撫でた。
「ひゃっ…………!?」
驚いて足を閉じようとするのを、間に身体を滑り込ませて阻止する。


「オレの部にお前は要らねぇんだよ。いつまでも居座るな、図々しい」

指に吸い付いてくるその柔らかい肌に、オレは爪を立てた。
その痛みに怯えて涙を浮かべるなまえの瞳にオレが映る。


「ふはっ……いいねぇその顔。たまんねー」
思わず舌なめずりをすると、なまえの表情はますます恐怖で彩られていく。

「いやっ……………いやぁ! 誰か………っ」

鍵を閉めていないのを見ていたのだろう。
助けを求めて大声で叫ぶなまえを見て、かみ殺せなかった笑いがこぼれる。

「ふはっ! 無駄だよバァカ」

手をなまえの首に沿えるとなまえは、ひっ、と小さく息を吸い込んだ。

ここまで予想通りすぎる行動をとられると愉快で仕方がない。
愉悦の笑みを顔に浮かべながら、オレはなまえの耳元に唇を寄せて、できるだけ優しく囁いた。


「そうだよなぁ。オレは"うっかり"鍵をかけ忘れたから、思い切り叫べば部員がきてくれるかもなぁ?」

なまえが目を見開く。
その言葉をどう捉えるか悩んでいるようだ。
だからオレは、クスクス笑いながら囁いた。


「オレに犯されるのと、部員にマワされるの、どっちがいいか選べよ」


なまえが息を呑んだのが、喉にかけた掌ごしに伝わってきた。
身体を離して見下ろすと、どこか虚ろななまえの瞳が揺れる。
その完全に絶望しきった色に、オレはほくそ笑んだ。


さて、ここからどうしようか。
犯してやるのもいいけど、目的はこいつがオレに付きまとわないようにすることだ。
この様子ではもう十分すぎるほどに脅せたようだが。


食うか逃がすか、どちらが得策か悩んでオレはなまえの首に噛みついた。
美味ければ、食おう。

舌で首を舐め上げながらなまえの様子を窺うと、なまえの目元にはぷかぷかと大粒の涙が浮かんでいた。
その姿が何故か新鮮に見えて、そういえば今まで泣きそうな顔はさせても涙を流させたことはなかった、と思い出す。

その涙がずいぶん美味そうで、オレはなまえの目尻に舌を伸ばした。

「やっ………!」
しかし顔を背けて逃れようとするなまえ。

その態度にイラッとして、オレは彼女の喉に置いた手に力を込める。
「っは…………」
苦しそうに顔を歪めて大人しくなったなまえに満足して、オレは改めてその目尻に舌を這わせた。


甘い。
塩辛いはずの涙を甘く感じてしまうのは、これが彼女の絶望の味だからだろう。
その甘美な味わいに、しばし酔いしれていると。


「っ、ぅ………………」
「おっと」

なまえのか細いうめき声で、ふと現実に引き戻される。
そういえば首絞めてたんだった。

「勝手に死ぬんじゃねぇよ」
「っげほ! はぁっ……はぁっ…………」

オレが手を緩めるとなまえはむせて荒い呼吸を繰り返す。


その吐息すら何故か美味そうに見えた。
だからオレは、その全てを呑みこむように自分の唇でなまえのそれを塞ぐ。

「っ!? んっ、う、」

なまえは目を見開いて、身をよじった。
そんなささやかすぎる抵抗も全て抑え込んでなまえの口内に舌を忍ばせる。
なまえの身体を押しつぶすように身体を合わせて体重をかけると、薄いシャツ越しに激しく脈打つ鼓動が伝わってきた。
呼吸が整っていない状態からのこの口づけはさぞ苦しかろうな、と思うと胸の奥からせりあがってくる仄暗い愉悦の感情。

マネージャーとしては部にはいらないなまえだが、食用としてなら置いてやってもいいかもしれない、とオレは彼女の舌に歯をたてながらそう思った。


(いただきます、と手を合わせて)
(骨の髄まで食い尽くした)


*よりさまリクエスト作品。
救いのないお話が好きと以前おっしゃっていたので、夢主への救い要素は徹底的に排除しました。


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