▼王様の悪戯
昼休みの体育館。
甲高いバッシュの音と低く響くボールの音、それに外でけたたましく鳴く蝉の声が混ざって、何かの音楽のようだ。
そんなことを考えながら、私は壁際に座ってぼんやりとしていた。
視線の先にはひたすらにドリブル、レイアップシュートを繰り返す、赤司くんの姿。
ドリブルから踏み込みまでの流れがとても自然で綺麗。
私には完璧なシュートに見えるのに、彼はどこか納得がいかないらしくひたすらに同じ動作を繰り返している。
が、やがて満足したらしく、彼はゴールをくぐったボールをキャッチすると、そのままゆっくり私の方に歩いてきた。
「おつかれさま、もういいの?」
私はタオルを差し出しながら尋ねる。
「ああ」
彼は受け取ったそれで汗を拭いながら軽く頷いた。
「昼休みはそんなに時間もとれないしな」
「そうだね」
赤司くんは私の隣に腰を下ろした。
私たち以外誰もいない体育館には、心地のいい静寂が訪れる。
外の蝉の声がどこか別世界の音のような気がした。
「シャワーを浴びる時間はないな」
赤司くんは舌打ちしながら時計を睨んだ。
全身汗だくで見るからに気持ち悪そう。
「仕方ないよ。制汗剤貸そうか?」
「ああ」
彼が頷いたので、私は鞄を漁り制汗剤を彼に渡す。
「ありがとう」
受け取った彼は、いきなりバサリとTシャツを脱いだ。
「っ…………!」
何となく見ちゃいけない気がして慌てて目をそらす。
「ん? どうした」
彼はバシャバシャと制汗剤を振りながら尋ねてくる。
そっか、私の制汗剤は液体タイプだから脱いだ方がどこそこ塗りやすいよね。
しかも赤司くん全身汗だくだしね。
と、頭では納得したが、やはり何となく恥ずかしくて赤司くんの方を向けない。
しかも一瞬だけ見てしまった、細いのに筋肉質な身体が頭に浮かんで、それを思い浮かべていること自体が恥ずかしい。
まるで変態みたいじゃないか。
「…………」
私が無言でいると、彼も無言で制汗剤を塗っている。
しかし、突き刺さる視線は彼が私のことを見つめていることを表していて、ますます恥ずかしい。
赤司くんの身体見てドキドキしちゃった、なんて言ったら嫌われるかな。
そんなことを考えてさらに恥ずかしくなる。
もうなんだか全てが恥ずかしくて、私は自分の膝を抱き寄せそこに頬を寄せた。
「なまえ」
彼の呼びかけにも、私は明後日の方向を向いたまま。
「気にしないで。何でもないから」
「……………ふーん?」
赤司くんの、楽しそうな声。
まずい、と思ったときにはもう遅い。
「なまえ」
「ひゃっ」
名前を呼ばれたかと思うと、赤司くんが背後からぐいと私を抱き寄せた。
不意をつかれた私はバランスを崩し、彼に寄りかかるような体勢になってしまい、彼の素肌の体温に、パッと頬が熱くなる。
「あっ、赤司くん!」
「なまえ、もしかして」
赤司くんはそのまま私の身体に両腕を絡ませギュッと抱きしめた。
ぴったりと密着する身体にもう頭がパンクしそう。
ふっと耳に息を吹きかけられ、ぴくんと身体が震えた。
「もしかして、オレの身体見ていやらしいことでも想像した?」
私の耳に軽く唇を触れさせながら、吐息混じりに囁く。
背筋がぞくぞくした。
「違っ…! いやらしいことなんか、」
私が慌てて弁解しようとすると、彼はまたふっと耳に息を吹きかける。
それだけで私は全身から力が抜けてしまって抵抗できない。
「じゃあ、何を想像したんだ? 何でこんなにドキドキしてるんだ」
夏用の薄いブラウスの上から、そっと左胸に手を当てられた。
本当にただ鼓動を確認しているだけのようで、いやらしい触り方ではない分、余計に緊張してしまう。
「やっ……………あの、暑いから、離して…………っ」
この体勢があまりに恥ずかしくて、私は身をよじる。
暑い、というのは言い訳ではなく本心だ。
蝉のうるさいこの時期、しかも運動した直後の男子の体温に包まれて、暑くないわけがない。
彼自身だって暑いに決まってる、と思ったのだが。
「暑いのか? なら脱げばいい」
そう言って、彼はしゅるりと私の制服のリボンをほどいてしまった。
予想外の行動に一瞬何が起きたのか理解できずにぽかんとしてしまう。
「えっ………や、だめ…!!」
「だめじゃない。逆らうな、なまえ」
状況を理解した途端に驚いて抵抗しようとする私の身体を両腕でしめつけて抑えつける。
その痛みに顔をしかめると、彼はクスリと笑って私のブラウスの襟を指でくつろげ、露わになった首筋に彼が口づけてきた。
ちゅうっと強く吸われて、びくりと反応すると、彼が楽しそうに笑った気配が伝わってくる。
「もっと暑くなることを、しようか」
そう囁いた唇は、そのまま私の首を舐め上げ、耳の裏へ。
「んっ………」
その湿った生暖かい感覚に、ぞくぞくする。
「だめ、赤司く…………」
「なまえに拒否権はないよ」
つ、と舐めた跡を指でたどられ、吐息が乱れる。
「オレは従順な子が好きだよ、なまえ」
「あかし、くん…………っ」
背筋をかけぬける甘い痺れに耐えきれず、彼の腕をギュッと掴んだときだった。
キーンコーンカーンコーン
間延びしたチャイムが鳴り響いて、赤司くんがちっと舌打ちした。
「予鈴か」
そう言ってあっさりと私から離れる。
背中に感じていた体温が遠ざかって少しヒンヤリした。
「オレは着替えてくる。なまえは先に教室に帰ってろ」
茫然とする私に彼はそう呼びかける。
我にかえった私は慌ててほどかれたリボンを拾い、乱れたブラウスの胸元をあわせた。
「わ、分かった」
頷く私に、赤司くんはニコリと微笑みかける。
「あと、なまえ」
その笑顔に、ぎくりとする。
ああ、この笑顔は。
分かってしまう自分が憎い。
「今日の帰りはオレの家に寄る?」
この笑顔で告げられる言葉は、決定事項。
私はぎこちなく頷きながら、ショート寸前の頭で親への帰りが遅くなる言い訳を考えていた。
(優しいのと酷いの、どっちがいい?)
(えっ………や、そのっ………………………や、優しいのが、いい………)
(可愛くおねだりできたら、考えてあげるよ)
*真衣さまリクエスト作品。
「Sな帝光赤司くん」のリクエストだったけど、Sを間違えたような気がしてならない。
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