告白日和



今日、私は好きな人に告白します。
そのために、今日は何とかして二人きりで帰る約束を取り付けたいと思います。

ただ問題発生。
告白相手を見つけられません!!


「どこにいるのー………」

半泣きになりながらキョロキョロと辺りを見回して歩く。
この時間ならおそらく部活をしているはずだから、体育館のどこかにはいると思うのだが、どの体育館を覗いても見つけることができない。

何故なら私の好きな人は、帝光中の第四体育館の幽霊こと黒子テツヤくん。
目の前にいても気づかれないほどの影の薄さはダテじゃない。
細心の注意を払って目をこらすが、たくさんの生徒が入り乱れる体育館の中で彼を探すなんて、広大な畑に落ちた一粒の豆を探すようなものだ。
一緒に帰りたいだけなのに、まさかこんな事態になるなんて。

「愛が足りないのかな…」
疲れてしまった私は手近なベンチに腰を下ろした。


好きな人はつい目で追ってしまう、なんていうけれど、私は黒子くんを目で追えたことなんて一度もない。
視界に入ったと思ったらすぐいなくなる。

「でも桃ちゃんは見失わないんだよね………」

つぶやいて、悲しくなった。
恋のライバルの桃井さつきちゃんは、どんな場面でも黒子くんをすぐに見つけてみせる。
彼女にできて私にできないなんて、やっぱり愛が足りないのかも。

「桃ちゃん可愛いし、スタイルいいし」

ライバルのいいところを口に出してみると、情けなくなってきた。
私は桃ちゃんと違ってバスケのことなんか全然分かんないし、可愛くもスタイルよくもない。

「こんなんじゃ告白したって上手くいかないよ…………」

声に出してしまったら涙がこみあげてきて、私は俯いた。
そのとき。


「誰に告白するんですか?」


隣から声がした。
それは、私の一番大好きな。
 

「くくく黒子くん!?」

バッと隣を見る。
そこにはずっと探してた黒子くんが、平然とした顔で座っていた。

「な、何でここにいるの!?」
「休憩時間です。あとボクの方が先に座っていました」

さらりと言われ、ただ目を丸くする。
あんなに走り回ったのに、見つかるときはこんなにあっさりなんて。

ていうか、好きな人の隣に座ったことにも気づけないなんてどうなの私!?


「……………はぁ…」
なんだか力が抜けてしまった。
探してるときはすごく緊張してたのに、いざ黒子くんを前にすると一人で大慌てしてたのが馬鹿みたいだ。


「部活おつかれさま、黒子くん」

今日は告白はやめようかな、と私はいつも通り黒子くんに笑いかけた。
黒子くんも微笑み返してくれて、それだけで十分な気がした。

だが。


「みょうじさん、誰に告白するんですか?」
「えっ」

繰り返された唐突な質問に、私はパッと顔が赤くなるのが分かった。
忘れていた緊張が再び私を支配する。

「さっき言ってたでしょう。告白しても上手くいかないとかなんとか………」
「あのっ、それは!」

聞き流してくれてよかったのに!と心の中で叫ぶけど意味はない。


どうしよう。なんて言えばいい?
まさか黒子くんに聞かれてしまうなんて。
声に出した自分が悪いんだけど!

どうしよう。どうしよう。
誤魔化すべきか、それともこの場で告ってしまうか。
いやでもこの場で告るなんていきなりすぎるし、でも誤魔化すのも違う気がする。
どうしよう。

ぐるぐると駆け巡る思考のせいで私の頭がパンクしそうになった頃、黒子くんはそっと息を吐き出した。


「──変なこと聞いてしまってすみません」
「え!? そんな、」

黒子くんが謝る必要なんてない、と顔を上げた瞬間、黒子くんの顔が思っていたよりも近くにあって息を呑む。


黒子くんはベンチに手をつき、私の方に身を乗り出していた。
まるで水面のような静かな瞳に、真っ赤な顔をした私が写っている。


「ついでと言ったらなんですが……変なこと、聞いてもらっていいですか」

さらに身を乗り出した彼に、私はついギュッと目を瞑ってしまう。


黒子くんの汗の匂いがする。
まるで抱きしめられてるような錯覚に陥り、頭がくらくらする。
耳にふっと彼の吐息がかかり、背筋がぞくりとした次の瞬間。


「ボクは、みょうじさんが好きです」


内緒話のように、耳元でそっと囁かれる。


「……………………え?」

内容を理解するのに数拍かかった。

好き?
誰が?黒子くんが?
誰を?私を?

好き?


「え………………ええっ……!?」

理解した途端、全身の熱が顔に集まったような気がした。
たぶん今の私の顔は茹で蛸みたいになってるだろう。
慌てて両手で頬を押さえて熱を隠す。

「みょうじさん、真っ赤です」
「え、だって、あの」

視界が潤む。
顔の熱のせいだ。


黒子くんはクスリと笑って、私の髪を一房すくった。

「あなたが誰に告白しようとしていたのかは分かりませんが、ボクにしておきませんか?
告白しなくてもOKなお手頃物件です」

大切にしますよ、と言われ、私は覚悟を決めた。


黒子くんの首に腕を回し、ギュッと抱きつく。

「えっ、あの」

今度は黒子くんが慌てだす。
私はそれに構わず、黒子くんの耳に唇を寄せて、こそりと囁いた。


「好きです、黒子くん」


彼の驚いた気配が伝わってきた。
しかし私はこれだけ言うのが精一杯で、黒子くんの首筋に顔を埋める。

「……もしかして、ボクに告白してくれようとしてました?」
「そうなんです……あなたに告白しようとしてました」

恥ずかしくて何となく私も敬語になってしまう。


すると、躊躇するように宙に浮いていた黒子くんの手が、おそるおそるといった風に私の背中に回された。
やがて力をいれて私を抱きしめてくれる。

その優しい強さに思わず笑みがこぼれた。
同時に、一筋、涙が頬を伝った。
何でか分からないけど、泣きたくて仕方がなかった。


「どうして泣くんですか」
「分かんない………」

言いながら、私はさらに強く黒子くんに抱きついた。


「私、黒子くんのこと見つけられなくて、彼女の資格ないかもだけど、彼女になってもいい……っ?」


涙声になりながら私は問う。
私は桃ちゃんみたいに黒子くんに自分から駆け寄ることができない。

それでも。


「喜んで。
あなたがボクを見つけられなくても、ボクがあなたを見つけますから」

第一ずっと一緒にいれば見つける必要なんかありません、と抱きしめる腕に力を込める彼に、私は嬉しくてまた涙が伝った。



(黒子、そろそろいいかい?)
(………!!)(あ、赤司くん!?)
(休憩時間はとっくに終わったよ、黒子。練習をサボって女子を口説いてるなんて、いい身分だね)


*好きな子に好きな人がいると知って慌てて告白する黒子くん。


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