エバーグリーンの訪問者

 次の練習日。5人が体育館に行くと、見慣れない姿があった。

「お前、相変わらずへったくそだなぁ」
「うるさいです。同じ空気を吸ってるだけで不快なので、せめて黙っててもらえませんか」
「ふはっ、先輩に対する口のきき方がなってねーんじゃねぇの? こっちは呼ばれて来てやってんだから、もっと敬えよバァカ」

 黒子と言い争っている、初めて見る男。練習着なのか、ラフなTシャツの背中には「霧崎第一」と書かれていた。


「あっ、来たね! こんにちは」
 戸惑った5人が入り口で立ち尽くしていると、それに気づいた直晴が駆け寄ってくる。

「稲葉さん。入部届けを持ってきました」

 赤司が5枚をまとめて直晴に差し出すと、直晴はハッと息を呑んで、そして震える手でそれを受け取った。受け取った入部届けをじっと見つめて、そしてふわりと笑う。
 それらを丁寧な手つきでファイルに綴じると、直晴は声を張り上げた。

「集合!」

 その言葉に、黒子と5人が直晴の前に並ぶ。その後ろに並んだ見知らぬ男に、緑間と黄瀬はあからさまに胡散臭げな視線を向け、黒子は相変わらず射殺しそうな視線で彼を睨んでいた。それを見て直晴は苦笑する。

「今日から、新入部員が入部したということで。練習前に、改めて自己紹介してもらいたいと思います。じゃあ、黒子くんから順番に」

 指名されて黒子は視線を戻して5人の方に身体を向ける。

「1年A組、黒子テツヤです。キミたち新入部員の教育係に任命されました。よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げた黒子に対してぱらぱらと拍手が起きる。その後は黒子に近い方から順に、自己紹介していった。

「1B、黄瀬涼太っス。189センチ、77キロ、趣味はカラオケっス。本業はモデルなんで被ったらそっち優先します。よろしく」
「1年C組、緑間真太郎なのだよ。バスケは小さい頃に少しだけやっていた。当時のポジションはセンターだったが、このメンバーだとセンターをやる必要はなさそうだと思っている。吹奏楽部との掛け持ちだ。よろしくお願いするのだよ」
「1C、青峰大輝。野球部の3番ファースト。掛け持ちだ。あと、えー……あー、終わり」
「1Aの紫原敦。赤ちんに誘われたから来た。一応、料理研との掛け持ちー。んー、あとー、あ、オレでかいから、たぶんすぐバスケ上手くなるんじゃねー? んーと、終わり」
「1年C組の赤司征十郎だ。以前は合氣道部に所属していた。バスケに関しては初心者だ。よろしく頼む」


 5人の自己紹介を終えると、直晴がニッコリと笑って口を開いた。

「主将で、3年B組の稲葉直晴です。ポジションはシューティングガード。頼りない主将ですけど、よろしくお願いします。あと……」


 直晴が、ちらりと男に視線をやった。すると男は、意を得たりと口を開く。

「てめーら、こっち向け」

 そう言って1年生たちを振り返らせると、男は彼らを見回した。

「帝光高校バスケ部OBの花宮真だ。今は霧崎第一大でバスケをしている。ポジションはポイントガードだ。これから、お前たち新入部員の指導に来るからてめーら覚悟しとけよ」

「え、OB……?」
 紫原があからさまに嫌な顔をした。それを花宮はじろりと睨みつける。

「文句があるならそこの稲葉に言えよ。オレは稲葉に呼ばれて来てんだ」

「呼ばなくても来るくせに……」
「ふはっ、後輩思いのいい先輩だろうが。なんか文句あんのか黒子」
「はい、あります」

「ちょっ、黒子くんストップ!」

 隙あらば花宮と険悪なムードになる黒子を、直晴は慌てて止める。何故か黒子は花宮を毛嫌いしていて、何かと突っかかっていくのだ。

「えーと、とにかく今言ったとおりです! 花宮先輩の都合がいい日にはコーチとして来てもらうことになりました。今後の練習メニューは黒子くんと花宮先輩に決めてもらいます。しばらくは基礎の練習が続くから面白くないかもしれないけど、頑張ってね。何か質問のある人」

 その問いに、5人は首を横に振る。直晴は満足げに頷いて、言った。

「じゃあ、練習をはじめましょう!」
 直晴の楽しそうなその声に、黒子は目を細めてこっそり笑った。



(準備運動したら、全員外周走ってこい。新入部員10周、黒子は12周、稲葉は7周)
(何ですかそれ、新手のイジメですか)
(ふはっ、よく分かってんじゃねぇか)



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