冬<黒子の場合> New Year's card



「テツヤは青峰くんとかに書く?」
「はい、そのつもりですけど」 


唐突な会話。
主語は目の前に積まれている。
これは比喩表現でもなんでもなく。


「そっかぁ、私もやっぱり書いた方がいいかな、年賀状」


目の前に積まれた、白いはがき。
裏も表も真っ白。


「終わりますか?」
「わかんない」

首を振ると、テツヤは苦笑した。
私とは違いテツヤはコツコツ真面目にやってたから、もうとっくに年賀状など書き終わってしまって今は読書中だ。



「余裕がないなら青峰くんたちは出さなくてもいいんじゃないですか? ボクが出しますし」

「えーでも年賀状って新年の挨拶だから。そういうとこで手ぬいちゃダメじゃない?」

「でも青峰くんたちですよ?」

「だからこそでしょ、特に青峰くんはテツヤの相棒なんだし」


私が言うと、テツヤは目をぱちくりさせた。
そんなに驚くことかな、と私は苦笑する。


「これからもテツヤをよろしくね、って。テツヤの大事な相棒なんだから」

ちょっと出しゃばりすぎかもしれないけど、と続く言葉は語尾が小さくなってしまった。


彼女面しすぎかな。いや、間違いなく彼女ではあるんだけど。
でもちょっとウザかったかも、と直前の言葉を後悔しはじめたそのときだった。



「じゃあこうしましょう」


テツヤがスッと私の前にはがきを差し出してきた。
それは青峰くん宛の、テツヤの年賀状。


「ボクと連名で出したらいいじゃないですか。そしたらキミも挨拶したことになります。はがきも時間も節約できて、いいことづくめです」

「! なるほど!」


その名案すぎるくらいの名案に、私は感動する。
それだったらキセキの世代の人たちのはがきを書く分の時間がまるまる浮いてしまう。
今日中に年賀状を書き終わってしまいたい私にとっては渡りに船だ。


「え、ホントにいいの!?」
「もちろんです。どうぞ」


促されて、私はテツヤの癖のない字の隣に並べて自分の名前を書く。

完成したはがきを満足しながら改めて眺めると、ふと気づいてしまった。
気づいてしまったら、自分のしたことが急に恥ずかしくなってくる。


「どうしましたか? 顔が赤くなっていますよ」
「えっ、ウソ!」

テツヤに指摘されて、パッと両頬を押さえた。
しかしそんなことでは熱は引いてくれない。

テツヤはそんな私を見てクスクスと笑う。


「何を考えたんですか?」

そう言って意地悪な顔で笑うテツヤ。
むくれながら彼を睨んだけど、全く効果はなさそうだ。

諦めて、私は目を逸らしながらぽそぽそと呟く。



「あの……こういう風に名前を並べてはがき書くと、なんだか……あの、結婚したみたいだなぁって……」



声に出すとますます恥ずかしくなってくる。
そして、私が恥ずかしがっているのを分かっているくせに、それを楽しんでいるテツヤが恨めしい。



「…………テツヤのいじわる」

私が彼をねめつけながらそう言うと、テツヤは楽しそうに笑いながら机の上に身を乗り出してきた。



「すみません、キミがあまりにも可愛いものですから」



そう言って、ちゅっと額に押し付けられる唇。

私は額を押さえながら、来年も彼には敵わないな、としみじみと思った。



(そのうち、名字も一緒にして連名で年賀状出しましょうね)
(え、あっ、その、えっと)
(返事は"はい"でお願いしますね)


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