梅雨<黒子の場合> The beginning of love



「あ」

コンクリートに、灰色の水玉がついた。
この時期の空は基本的にご機嫌斜めだ。
すぐに泣きだしてしまう。


「困ったなあ」

突然降り出した雨に、私は学校の玄関で立ち尽くす。
今日は朝降っていなかったから、つい油断して傘を忘れてしまった。
この季節にあるまじき失態だ。言い訳のしようもない。


しかもこの雨、携帯の天気情報によると明日の朝まで降るらしい。
まさかここで夜明けを待つわけにはいかない。

「仕方ない」

濡れて帰るか、と鞄に胸に抱え込んだ、そのとき。


「すみません」
どこからか声が聞こえた。
辺りを見回すが誰もいない。


幻聴? それともまさかお化け?

うっかりそんなことを考えてしまうと、もう背後が見れない。
ゾクゾクする背筋を必死に真っ直ぐに保つ。


「気のせいだ、よし帰ろう!」

独り言で自分を奮い立たせて、いざ雨の中へ。
……参ろうとしたとき、今度は肩に手をおかれた。

「すみません」
「うっ…………いやあああぁぁっ!!!!」

幻聴じゃない、今度のは本物だ!
反射的に腕を払いのけ、バッと振り向く。
そこには。


「あの、何だかすみません」
「ひ……人?」
「人です」

何だか覇気のない、ついでに影も薄い男子生徒が立ってた。
いまいち事態についていききれないでいると、彼がズイと何かを差し出してきた。
反射的に受け取ってしまう。
一体何だろうかと慌てて手元を見ると。


「傘……?」
「よかったらどうぞ」
「えっ?」
「僕、二本持ってるんです」


それでは、と彼は会釈して立ち去る。
私は何が起きたのか分からずに、呆然とその背中を見送ってしまった。
はっと我に返ったときにはもう彼の背中は遠くなっていて追いかけようもない。


「何だったの、今の……」
なんだか狐につままれたような気分で、だけどあの印象的な目が頭から離れなかった。



(あっ傘に記名してある……って同じクラス!? 黒子くんなんていたっけ!?)





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