秋<黄瀬の場合> Autumn color



「涼太って秋っぽいよね」


彼女から唐突に告げられた言葉にオレはポカンと口を開けた。


「え、オレ夏っぽいって言われることが多いんスけど」

名前も涼太だし、と言うと、彼女は首を傾げる。


「そうかな。だって"涼しい"んでしょ? それなら秋じゃない」


そう言われれば……いや、どうなんだろう。
うっかり納得しそうになったことに焦る。



「てか、急になんスか」
「ん? いや、大したことじゃないの。ふと思っただけ」


そう言って携帯に視線を戻す彼女に、少しイラっとくる。
話を振るだけ振っておいて、投げっぱなしかよ。


オレは彼女の後ろからそっと近づいて、首筋に指を伸ばした。


「ひゃあっ!」


耳の裏から肩にかかるラインをそっと爪でなぞると、彼女はびくりと肩を震わせる。
それを見てオレはくすくす笑った。

知ってるスよ、ここが弱いこと。


「そういう態度ってよくないっスよ。何でオレって秋っぽいんスか?」

「っ…………知らない」


あらら、拗ねちゃった。
怒らせるつもりはなかったんだけど、怒っちゃったなら仕方ない。

オレはその首筋に唇を寄せて、同じラインを今度は舌でなぞった。



「ひっ……………」

「ねえ、何で? 気になるじゃないスか。教えてよ」

「や、やめっ…………」



唾液で濡れたそのラインに息を吹きかけると、ひやりとしたのか彼女は身を竦ませる。
そんな可愛い顔して、それで睨んでるつもりなんですかね。


「言ってくれたらやめるよ」

「分かった、言う……言うから…………っ」


なんだ、言っちゃうんだ。
このまま遊ぶのも楽しいんだけど。

でもまぁこれ以上拗ねさせても後が面倒だから、とりあえずオレは彼女の首筋から唇を離した。



「あのね、大した意味はないの。本当にふと思っただけで」

困ったように眉尻を下げながら俯く彼女に、オレは軽く手を振る。


「前置きはいいスよ。で、何でオレ秋なんスか?」

「えっとね…………」


彼女が、ちらりとオレを見上げた。
一呼吸分おいて、言う。



「涼太の髪が…………秋の葉っぱの色だな、って思って」



その言葉に、オレは返答に困る。
何だそれ。紅葉ってこと?


「オレ年中この色スけど」

「そうだけど……だから大した話じゃないって言ったのに」


彼女は口をとがらせる。
そういう表情をすると実年齢より幼く見えて、胸の奥がうずいた。



「涼太の髪はヒマワリみたいって言う人が多いけど、私には秋の葉っぱに見える。だってヒマワリを見るためには、夏の暑い太陽の下に出ていかなきゃいけないでしょ? 涼太はそうじゃなくて、秋の少し優しくなった太陽の方が似合う。それだったらゆっくり楽しめるし」



ぶつぶつと言い訳をするように言う彼女の言葉は、正直意味が分からないものだった。


でも、彼女の言葉が何故か愉快に感じて、オレは唇の端を持ち上げる。



「――――オレと、楽しみたいんスか?」

「ひゃっ!?」


今度は彼女の鎖骨をそっと撫でてみると、彼女は面白いくらい予想通りの反応をしてくれた。
鎖骨からそっと手を下に滑らせると、さすがに彼女も焦ったように身じろぎする。

それを腕で抑え込んで、オレは彼女の耳に唇を押し当てて囁いた。


「あんたの言いたいこと、少しだけ分かったス。あんた、夏みたいに激しいオレじゃなくて、秋みたいに優しいオレが好きなんでしょ?」


それなら、目いっぱい優しくしてあげる。

そう囁くと、彼女は顔を真っ赤にして大人しく俯いた。




(いろんな色を持つ貴方の顔は、まるで四季の移り変わり)


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