秋<緑間の場合> Athletic festival



「高尾ー学ラン貸して!」


私が声をかけると、真太郎の前の席に腰かけて駄弁っていた高尾は不思議そうな顔で振り返る。


「学ラン? いいけど、なんでさ」
「んー、えっとね、体育祭の応援団」


簡潔な私の言葉でも、高尾は、ああ、と合点がいったように頷いてくれた。


「そっかぁ、応援団学ラン着るもんね。てかオレのでいいの?」

高尾に促されるようにして、真太郎に視線を向ける。


わあ、迫力美人。
……じゃなくて。

限界まで寄せられた眉根に、固く結ばれた唇。
誰が見ても、不機嫌なのが明らかだ。



でもわりとこの不機嫌モードに慣れている私は、高尾に視線を戻して頷く。


「いいの。だって高尾しか頼める人いないんだもん」

「――――オレには頼めないというのか」


地を這うような低い声に、私はその声の方を向いた。
凄味のある表情で私を睨む彼に、私は呆れてしまう。


「頼めるわけないじゃん」
「何故だ」
「だって、真太郎の学ラン大きすぎるんだもん」


私の言葉に、高尾がぶはっと吹き出した。
どこが笑いどころなのかは分からないが、とりあえず高尾は置いといて真太郎の鼻先に指を突きつける。


「あんた自分が何センチあると思ってるの? 私との身長差30センチ以上あるんだよ。そんな学ラン着れるわけないでしょ」


私が詰め寄ると、さすがの真太郎も苦々しい顔をする。
それでも引き下がれないのか、真太郎は突きつけられた私の指を掴んで言った。


「っそれでも、とりあえず最初は声をかけるのが筋じゃないのか」
「何の筋よ。着れないのに声かける方がおかしいじゃない」
「おかしくないのだよ」


真太郎は不機嫌全開の顔で私をギロリと睨む。


「お前はオレの彼女なのだろう。それなのに何故オレの前で堂々と他の男の服など着ようとするのだよ!」

「は…………」


私はぽかんと口を開けた。
隣で高尾が爆笑している。うるさい。


「え、な………何それ……」


つまり彼は私が真太郎に頼まなかったことじゃなく、私が他の男の服を着ようとしていることを怒っているわけで。
それはつまり。


「真太郎、それ……嫉妬、的な?」


私が尋ねると、バッと真太郎が顔を赤くした。
それを取り繕うかのようにますます鋭い目つきで私を睨んでくる。


「…………悪いか」


珍しく、素直に認めた真太郎に絶句する。
だってまさか、彼がそんなことで嫉妬するなんて。


「……オレにも独占欲はあるのだよ。お前に他の男の匂いのついた服など着せてたまるか」


ふいと目を逸らしながら言う真太郎に、私はますます言葉を失ってしまう。
彼の熱が映ったのか、私まで顔に熱が上ってしまって、どうしていいのか分からない。


普段は面倒なくらいのツンなくせに、何でこんなときに限ってデレるのか。
ツンにしか耐性のない私が、実はデレにめちゃくちゃ弱いということを知っての狼藉だろうか。
それだったら許さない。絶対。


真っ赤な顔で口をぱくぱくさせる私と、その指を掴んだまま同じく真っ赤な顔で必死に視線を逸らしている真太郎。
そして笑いすぎて呼吸困難になっている高尾。
とりあえず高尾を黙らせたくて、私はその背中をばしっとひっぱたいた。



(し、真太郎……着てみたけどやっぱ大きすぎるよ、学ラン……)
(っ……………!!)
(分かるよー真ちゃん。この袖と裾はクるよなぁ?)
(だ、黙るのだよ高尾!)
(ぶっ、はははは! やべーオレ真ちゃんのこともっと好きになれそー!)


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