秋<青峰の場合> Autumn flavor



「芋だっつってんだろ!」
「カボチャ! 絶対カボチャ!」


この分からず屋、と私は唸る。


「秋って言ったらハロウィンじゃん! カボチャのお菓子が美味しくなる季節じゃん!」

「日本人がハロウィンなんてやってんじゃねーよ! 日本人なら焼き芋食え!」

「今どき″日本人なら″とかバカじゃないの!? そんなだから英語もダメなんだよ!」

「うっせぇよ! 成績は関係ねぇだろうが!」


図星をさされて大輝が眉をひそめたのを見て私はほくそ笑んだ。
日本から出なけりゃ英語なんていらねぇ、って英語の授業の度に言ってるの、知ってるんだから。


だいたい何で大輝がそんなにカボチャ否定するのかが分かんない。
あの美味しさが分かんないとか舌終わってると思う。
そりゃ焼き芋だって美味しいけど、この季節の味覚って言ったら絶対カボチャのお菓子でしょ。
そのカボチャを全否定とか、有り得ない。


「お芋だって美味しいけど、やっぱり一番はカボチャ。これだけは譲れないから!」

「んだとぉ………?」


大輝が顔をひきつらせた。怒ってる。
でも私だって、譲れないもんは譲れない。
カボチャの魅力を分かってもらうまでは絶対譲らない。



「てめぇそこ動くんじゃねぇぞ」

「えっ? あ、ちょっ!!」


唐突に、大輝が踵を返して走り去ってしまった。
ひとり残された私はぽかんと口を開ける。
今から戦争ムードだったのに、何だか拍子抜け。

……と思っているうちに、なんかすごい速さで戻ってきた。
何人か殺してきたんじゃないのってくらいの形相。怖い。



「食え」

とんでもないスピードで走っていたにも関わらず、息も乱していない彼はずいと私の口元に何か突きつけた。
ふわりと漂う香りに、私は呟く。


「……お芋?」

「おう。食え。食ったら絶対芋が一番に決まってらぁ」


なんと彼はこれを買うために走ったらしい。
何でこの行動力を普段から見せてくれないのかと呆れる。


「ん」

ずいと私の口に押し付けられるお芋。
でも何となく、それを口にするのは憚られた。
だって大輝は未だカボチャ全否定派だから。
そんな奴の言いなりになってたまるか。

その一心で私はギュッと唇を結ぶ。
大輝を睨みあげると、彼はまた顔をひきつらせた。


「食えよ」
「んー」

嫌、と音だけで表現する。

「食えっつってんだろ」
「んー」
「口開けろ」
「んー」


ギュッと固く結んだ唇に、お芋が押し付けられる。
私の唇にべったりとお芋がついてしまった。
リップ塗ったばっかりだっていうのに、何すんだこの野郎。


「食え」
「んー」
「てめぇ…………」


びきっと何かが切れるような音がした気がした。
その次の瞬間、私は顎をガッと大輝に掴まれる。
指で圧迫されて痛い。


それでもここまで来たら意地でも口を開けたくなくて、私は必死に歯を食いしばった。
大輝を睨みあげると、彼はおもむろに手に持った芋をかじる。
結局自分で食べるんかい、と思ったそのとき、大輝がにやりと笑った。


「んっ……!?」


次の瞬間、私は大輝に口づけられていた。
がぶりと私にかじりつくような獰猛なキス。
私の固く結ばれた唇を、無理やり舌でこじあけてくる。

そして、そのまま口内に芋を押し込まれた。
柔らかいその身を私の舌に押し付けてつぶし、唾液を絡めてどろどろに溶かしてしまう。


「っは…………」

思わず漏れた吐息に、大輝は満足そうににやりと笑って唇を離した。
最後に、私の唇に残った芋をぺろりと奪い去っていく。


「ほらな、うめぇだろうがよ」


舌なめずりをしながらそんなことを言う男の腹に、悔しさを込めたパンチを一発くらわせてやった。


(こんな場所でキスする奴があるかアホ峰! 罰としてカボチャも食べろ!)
(お前の口移しなら食ってやるよ。それ以外は食わねぇ)
(っこのエロ峰!!)


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