夏<緑間の場合> Homework



夏休み最終日。
珍しく部活が休みだった。
今日くらいは新学期に向けて準備をしろという主将のお達しだ。

おは朝で″今日は家にいるといいことがある″と言っていたこともあるし、今日はのんびり本でも読もうかとオレは本棚を物色していた。


すると、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
宅配か何かだろうか、と玄関に向かい、ドアを開けた瞬間、オレはドアを開けたことを激しく後悔した。


「真ちゃあん………」


ぐずぐずと泣きながら、胸に抱えた問題集を差し出してくる幼なじみ。
すぐさまドアを閉めて鍵をかける。


「真ちゃん!! ひどい、何でぇ!!」

ドアの向こうで泣きわめく声が響く。


「うるさいのだよ! 帰れ!」

オレも負けじと怒鳴り返すと、ますます泣き声が大きくなった。
このままだと近所迷惑だと判断したオレは仕方なくドアを開けてやる。


「真ちゃん……………」

すると、ぐずぐずと泣きながらまた問題集を差し出してくる。
デジャヴだ。


「…………とにかく中に入るのだよ」

オレはため息をついてそいつを中に招き入れた。
そいつも勝手知ったる様子で靴を脱ぎ、オレの部屋へと進んでいく。


高校生にもなって男の部屋に勝手に入り込むのは如何なものか、と今日何度目かのため息をつきながら、オレはキッチンで淹れた麦茶を2つ持って部屋に戻った。



「宿題か」

開口一番にそう言ってやると、そいつは涙で濡れた瞳を見開いた。

「なっ何で分かったの!」
「誰でも分かるのだよ!」

オレは背の低いテーブルに乱暴にグラスを置いて腰を下ろす。


「ぜっ……全然終わんなくて、っもう時間なくて………っ」

「人事を尽くさないからそんな羽目になるのだよ」


ぐずぐずと相変わらず泣きじゃくる幼なじみにティッシュを差し出しながらため息をつく。


「大体お前は誠凛の生徒だろう。黒子のところへ行けばいいのだよ」

「だ、だって…………っ」


鼻をかみながらそいつは色気も素っ気もなくサラリと言い放った。


「真ちゃんの方が好きなんだもんっ」

「なっ…………………」


深い意味がないことくらい分かってる。
こいつはそういうヤツだ。

いつも無防備で、危なっかしくて、面倒をみさせられるオレの気持ちなど考えもしない。
昔からだ。


「真ちゃんいっつも優しいから絶対助けてくれると思って」


そんなことを言っても、宿題は自力でやらないと意味がないし、甘やかしてはいけない。
そんなことは重々承知しているのだが。


「──────どれをやればいいのだよ」
「えっ?」

オレの言葉に、真っ赤に腫れて少し痛々しい目をぱちくりさせる。


「手伝ってやると言っているのだよ。だからお前はその目を何とかしてこい」

「真ちゃん………!」


またじわりと滲んだ涙にギョッとする。


「うわぁん!! 真ちゃん大好きぃー!!」

「うわっ、抱きつくな泣くな離れるのだよ!」


バッと飛びかかられて、いきなりのことに対処しきれずオレは背中から床に倒れ込んでしまう。


「真ちゃん好きっ、ホントに大好きーっ!」
「っ…………分かったからそこを退け!」


押し倒されて上で泣かれるというのは男として非常によろしくない体勢だ。
しかし、オレの胸に額を押し当ててまたぐずぐずと泣きじゃくる幼なじみはしばらく降りてくれそうにない。

今日何回ついたか分からないため息を吐きながら、案外占いは当たっていたのかもしれない、とオレはそいつの頭を撫でてやった。



(…………おい、何だこの白さは)
(えーと…………………ごめんなさい)
(謝るくらいなら人事を尽くせといつも言っているだろう!)


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