番外編 | ナノ

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  残暑厳しい秋。今日も今日とてオレたちは西へ向かう。正直、旅に出ていると野宿も多いわけで、日時の感覚なんかはなくなってしまう。それもどうかと思うから、一応は気にしているようにしています。だいたいの範囲ですが。


『今日も野宿かよ…』
『仕方ないですよー』


オレだって嫌だ。でも、仕方ないのだ。誰が悪いとかではなく。まぁ、強いて言えば 変な実験をしている奴らさえいなければこうはならなかったんだろうけど。
そろそろ話のネタも遊びのネタも尽きはじめ、嵐詩はどんどん傾く日をみてため息。
椿姫は昼寝、那都とモコナと悟空はお喋りをし、悟浄は煙草をふかして、八戒は三蔵と何やら相談しながら運転している。こう考えるとジープは働き者だなぁ…



「でもさー、もう2日だぜ……キツー」
『体かっゆいしね』


悟空と那都は、オレたちの会話を聞いていたらしい。オレは苦笑い。嵐詩はそんな2人に同感なのか『なー』と一言発しただけ。


「文句言っても宿はありませんからねー」


八戒の笑い声。前の2人にも会話は聞かれていたみたい。
でも、この笑い声、本当には笑っていない。多分。八戒もだいぶ不快指数はあがっているハズだから。
三蔵なんかも凄くイライラが募ってきているし――あぁ、きっと今回も三日目過ぎれば道を逸れてでも宿を探すことになるんだろうなぁ……

オレは、もう空になってしまいそうな煙草を見て、また1本火をつけた。



――夜。日が暮れるのも早くなり、それでも暗い中、西へ進んだけど、今日は木々に囲まれた森の中で野宿することになりました。
適当に缶詰めで夕飯を済ませ、残り僅かな食料をみて八戒と苦笑い。やっぱり、このメンバーは普通よりもどうも減りが早い。
それを少し言い合ってから、ジープで皆で就寝。
後ろは特に窮屈で、最近オレは足を抱えるように体育座りのような格好で寝るようになった。――狭いことに文句を言っても仕方ないんですけどね。普通よりは広いわけですし。
因みに モコナは今日は椿姫の膝で寝ている。


んー…――オレは出来るだけ静かにジープを降りた。



『ドコ行くんだ?』
『ちょっと散歩。ここらへん見てくるだけですよ。』
『フーン』


起きてるのは嵐詩だけじゃないと思う。悟空や那都は鼾かいてますけどねーいつもながらぐっすりだなぁ
オレはプラプラと木々の間をすり抜けて歩く。今日は月が明るいから充分よく見える。



『んー…どーしようかなぁ。』


オレの声―独り言なわけだから小さめのつもりだったけど、辺りが静かだからか予想より大きく聞こえた。

もう9月だ。――というか、もう20日も終わる。つまり、21日……明日は八戒の誕生日。……那都の誕生日は祝っておいて、八戒たちを祝わないというのも……。何より、八戒にも世話になってるわけだし。オレは1本の大きい木に寄りかかり、そのまま足を抱えるようにしゃがみ込む。
生まれた日は、祝われるものだ。祝って祝われて そして感謝もするんだろう。誰にも祝われないというのは、それは少し、寂しい。だけど、これはオレの我が儘だし……――それに人に物をあげる、となると…対価が頭を過ぎってしまうのは魔術師の悪い所だ。

ハァとため息を吐く。
幸せが逃げたとこで、追っかけるつもりもないので問題ない。



『何がいいですかねぇ』



オレは、別に何かを貰わなくてもいいと思う派だから、思いつかない。それに、八戒のほしい物って……あるんだろうか。
煙草を取り出すと、残り3本。だいぶ我慢していたけど、明日は空だろうなぁ……あ、ダメだ。考えると尚更煙草ほしい……
オレは膝に頭を押し付けた。……もう、何1人で悩んでんだろ。



――――――

夢を見た。

小さい頃の夢だ。

雪が大抵降っているオレの―いや、オレ達の誕生日。
オレは体調を崩していて、ずっと部屋で寝ていた。
それから夜中の0時を過ぎてすぐ、オレの部屋の障子が開いた。


「よォー」
『おっすー』


雪夜と嵐詩が ずかずかと部屋に入ってきて、オレは笑う。あまりにも突飛な姿をしていたからだ。
三角帽子にキラキラした飾りを体に巻きつけて、嵐詩はヒゲ付のメガネまでしていて――それで2人は声を揃えて言うのだ。



「『誕生日おめでとーう!』」


……そう、わざわざ夜中に祝いに来てくれたんだった。オレは嬉しくて、ケーキもプレゼントも何も無かったけれど、楽しかった。



『2人も、おめでとう。』


何度も、何度もこうやって祝いあえたら……そう思っていたのに。

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