孤独な華。 | ナノ

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魔術講座A





 嵐詩は無くなったタバコを買い出しに、椿姫は宿についている共同風呂に入りに行ってしまい、今は部屋には冬夜と那都の2人だけ。那都は冬夜に言葉の意味を聞いたり、読み方を聞きながら本を読み、冬夜は教えつつ自分もこの世界の本を読んでいた。テーブルの上には、あったかいお茶。
 お風呂にもすでに入りゆったりと過ごしていた2人の空間に扉を叩くドンドンっという大きい音が鳴る。2人は本から目をあげてお互いに顔を合わせた。

『誰かな』
『さて……これは…』
 
「冬夜ー!」


 扉を見ながら2人が話してすぐに悟空の声がする。那都は本をすぐに閉じると扉を開けるために駆け寄り、名前を呼ばれた冬夜も同じように扉へ近寄った。扉を開けた先には、声の主である悟空と隣に八戒がいた。


「今、いいー?」

『ええ、大丈夫ですが……どうしました?』

「聞きたいことあって!」


 悟空のニコニコした笑顔に冬夜はついつい押されぎみになり答えと助けを求めるように八戒のほうをみると、


「僕じゃあ、悟空の質問に答えられなくて…魔術のことなんです」


 すみません、と苦笑しながら悟空に付け足して答えた。冬夜はそこまで聞いて、ああと納得した顔をしてわかりましたと言うと、那都は待ってましたと言わんばかりに悟空と八戒の手をひき、『じゃあ!入って中で話そー!』と部屋に連れ込む。

『とりあえず、オレはふたりのお茶いれてきますね』




――――――
 
『それで、何が聞きたいんですか?』

「えっとー……魔法と?魔術の違いとー、あとなんか言ってたコウシキ?ってドユコト?」


 悟空は手探りに質問を思い出すように言い、那都もこれ幸いと言わんばかりに聞く気満々で、八戒もなぜか聞くつもりのようだ。


『んーー。魔術は、自分の中で作り出したチカラを使って、公式をもとに結果を求め、魔法は他のモノからチカラを借りて結果を求める、ってところですかね』

 冬夜はどうして持っているのかというか何処にしまっていたのかわからないが懐からすっと白紙の紙切れと黒いペンをとりだし、絵を描き出す。


『オレたちの世界、多分こちらにもいるんですが…えーとそうだな、俗にいう妖精や精霊や妖、そういう人ではないモノのチカラを借りられるのが魔法使いです。基本的に、魔法使いはそういうモノに好かれ、魔術師は嫌われます。』

『えっ そうなの?』

 しょんぼりした顔をする那都に冬夜は『勿論、お互いの性格とか関係性にもよりますよ。そもそも人間嫌いが多いですし』と笑って、こっちが魔法使いでこっちは魔術師と説明をしながら絵を描いた。


『例えば、妖精の扉があって鍵がかかっているそこをどうしても開けなきゃいけないとします。』

 紙には魔法使いと魔術師の間に妖精と鍵のしまった扉が追加される。


『魔術師ならば、この扉を開けたいとき 自分のチカラや物対価に鍵を作る、もしくはまあ、壊して開けます。』

 その様子をまた喋りながら絵にする。

『そして魔法使いなら、妖精に対価を払って鍵を借りるなどして開けるか、妖精に開けてもらいます。あとはまあ、別の妖精からチカラ借りて壊すとか……それが違いかな。』

 またその様子を喋りながら追加し、わかるかな?と3人の顔を伺うと

「冬夜 絵うまっ!」
『うん!上手…!!』
『ありがとうございます。陣をかくのと同じようなものですけどねぇ』
「そういう感じなんですねぇ」

 わかりやすくするためにと描いていたものに思ったより食い付かれたのではにかみながら、それでわかりました?と聞く。那都は、うんうんと頷く。


『これだとさ、魔法使いの方がいい人って思う』
「わかる!」
『ですねー』
「だから嫌われやすいんですか」
『ですです。あっち側から見たら、魔術師は自分達の技を無理くり人間の知識や化学と交えて魔改造して魔法もどき使ってるみたいな感じらしいですね……これもオレが知ってるやつがそう言ってただけなんですけど』


 これが共通認識かは怪しいかな、と考える素振りをみせた冬夜はペンの蓋をしめてからコツコツとテーブルを叩いた。



「じゃあさ!コウシキ?は」
 
『んー、それはですねぇ…公式は、言葉の意味だと法則をあらわしたもの、とかそんな意味なんですが』

 フムと顎に手をそえていた冬夜はさっき使った紙の魔法使いと魔術師の絵を指差す。

 

『この人たち、公式は同じだと思います?』


『え?ちがう?』
「違うんじゃねぇの?」
 

『答えは〜 どっちの可能性もある でした〜』


「『?!』」


 冬夜は良いリアクションで驚いてくれる悟空と那都にあははと笑った。そして、一旦お茶を飲んでから八戒へ話を振る。


『答えが5になる計算って、何がありますか?』

「え、と……10−5ですかね」

『ですねェ、はい那都他には?』

『え?!えーー………2+3!』

『ハイ、正解です。次は悟空くん』

「1+4!」

『そうそう、他にも 1×5でも1+1+1+1+1でも、10÷2でも答えは5になりますよね』

「ですねぇ、まだまだありますね」


 冬夜は今あがった計算式を指折り数えてそのまま御供のことを見た。


『5になるという結果は同じでもそこまでの出し方、求め方が違うことってこれくらいあるんですね。勿論 求め方がちがえば、出てくる答えの意味は少し変わってくることもありますが……魔術師であろうと魔法使いであろうと、求める答えが同じでもたどり着くまで用いた式が違うことも同じこともあるんです』


 だから魔法使いと魔術師であろうと同じ可能性もあるんですよねーと紙の2人の間に?を書き込んで、わかりましたかー?と聞きに来た張本人である悟空に聞くと、悟空は大きく頷く。


「こうしてると冬夜 先生みてー!」

『そうですか?照れますねぇ』

 と笑いあい、八戒は「ありがとうございました。お疲れ様です」と軽く頭を下げた。

『いやいやーオレでよければ このくらいなんてことないですよー。……にしても、悟空くんは意外と知的好奇心も旺盛なんですねぇ』

「あはは、みたいです」
「え?」

 悟空はきょとんとしているが、それをみてまた冬夜は微笑む。

『那都はともかく、お二人には使い道がない……あんまり必要もない話なんですが…満足していただけたならよかったです』

「俺もできねぇーかなー!かっこいいやつ!!」

「諦めてなかったんですね」

『う……うーん?どう?ですかねぇ…?』

 やる気は充分な悟空に冬夜は、いやあと苦笑いをして誤魔化す。できるできないもあるが、この旅をしながら教える子が増えるのはそもそも自分的にも無理だな、なんて考えながら。そんな雑談をしている横で那都は冬夜の描いた紙を持ち顔を近づけてまじまじと眺めていた。

 

『那都?』
『絵も上手になるかなあ…?』
『た、多分…練習次第で』

 真剣な顔の那都に戸惑いつつ、冬夜は大抵の物事そうだという返答をする。絵の上手い下手は魔術にあまり関係ない気もするが陣が綺麗に素早くかけるのとそうではないのは差がでるのでまあまあ大事なことだろう。
 那都はよしー!と気合いをいれていた。
 そうしてなんちゃって即興授業も終わり雰囲気も変わったところで、あのーと八戒が手をあげる。まだなにか質問があったんだろうかと、冬夜は はい?と答えた。



「ずっと気になってたんですが、なんで冬夜さん髪そんなに濡れたままなんですか?」


『え……あっ、これ?え、と お風呂に入ってそのままで…』

「駄目ですよ 乾かさないと。髪にも良くないですし、風邪ひきますよ?」


 お説教モードの八戒にたじたじな冬夜は『自然にでも時間はかかりますが乾くには乾きますし……それにオレ、長いから……ちょっと面倒というか、その…』と言い訳にもならないことを言う。そんな2人を那都も悟空は珍しいものを見る目で見守る。


「………あぁ、なら、僕が今乾かしたら、それって今回の授業の対価になりません?」

『え………えっ?』

「あっそっか!なら俺はお茶おかわりいれる!」
『ならうちはお茶請け用意するー!』

『ちょ、い、いや!いいです、大丈夫ですから!!』

「はい、良いんですね。じゃあやります。」

『あーー、そっちで受けとりますかー』




講座のお礼

(…え、何してんの?お前ら……つか、冬夜)
(……助ケテクダサイ…)


 
End...?

190301

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