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ーーー食事の最中、ガツガツと食べている者もいれば、静かに口に運ぶ者もいる。そんな一行。いつも通りと言ってしまえば、それまでな光景。
『で、ココっていつ出発(で)ンのー?』
「明日の朝には出発(で)る。」
嵐詩に答えたのは三蔵でぐいっとビールを呑む。そんな三蔵に抗議の声をあげる悟空や那都や悟浄。それを三蔵は
「先を急いでるんだ。長居は無用だ。」
と一蹴。まだブーブー文句を言う3人を余所に、冬夜はあのーと申し訳なさそうに言った。吸っていた煙草を一旦、灰皿へ置いて冬夜は三蔵の顔を見る。
『それはわかってるんですが、せめて明後日にしてもらえませんか?……少しやりたいこともあるので……』
この冬夜の申し出に三蔵だけでなく、一行全員が驚いた。
「何をだ。」
『買い物と、那都にちょっと魔術のことでやりたいことがありまして』
「……明日、それが終わってから出ればいい。」
『……まー、それもそうなんですけど、一日時間が欲しいんです。』
お願いします、と頭を下げた冬夜を見て三蔵は居心地悪そうに顔をしかめ、「わかった」と一言。
それを黙って聞いていた他のメンバーは、少なからず、冬夜が頭を下げているのも三蔵が承諾したことにも驚いていた。
『えー……ってことは?』
「明後日、出発だ。」
ーーーーーーー
宿へ着き、各自 部屋に散る。
今回は四人部屋を2つなので、男女で別れた。モコナは女部屋のほうに来て、お腹一杯になった那都と一緒にすでにベッドで寝ている。
『……で、冬魔術のことってなんだ』
椿姫はベッドに座り、向かいに座っている冬夜を見つめる。その冬夜の横のベッドでは、横になりながら嵐詩が同じ様に冬夜を見ていた。冬夜は髪をほどくと対角線にいる気持ち良さそうに寝息をたてている那都を見て笑う。
『いえ、ね。那都に魔術を教えることになりまして。』
『まーた、コイツに覚えさせんの?』
物好きだな、と嵐詩は苦笑いし、それに冬夜も苦笑いで返す。だが、椿姫は眉間に皺を寄せた。
『……キオク関係に影響はないのか?』
『無い、とは言い切れませんね。元々覚えていた事ですから。でも、オレも教えるのに気を付けますし…それにーーーー那都が自分から頼んで来たんです、無下に出来ないでしょ?』
寺院で冬夜が那都に言った言葉。
『那都は……まぁ、練習次第でなんとか…できるかもしれませんねェ』それをしっかり覚えていた那都は、この町までの道中で冬夜に教えを乞うたのだ。
一度言ってしまった手前、冬夜も断れない。思わず言ってしまった言葉、嘘でもなく後悔をしているわけでもないが、まさかこうなるとは思っていなかった。
『そいで、早速明日からすんの?』
『んー……とりあえず、今の那都に向いているかどうかだけでもね……魔力(チカラ)があるのはわかってるけど、キオクないからなぁ。それに野宿のときよりゆっくり休めるときのほうがいいし……』
ふむ、と考え込む仕草をしながら冬夜返答した。そこまで聞いたとこで椿姫は眉間のシワが無くなる。
『お前がいいと思うならいい、任せる。』
『それはまた、責任重大ですねぇ』
冬夜はヘニャッと笑うと髪を掬う。
『ま、なるとかなるでしょう。』
『お前のそれ、心配になるわー』
『失礼しだなー』
『ねる』
『はい、おやすみなさい、椿姫』
『あぁ、おやすみ』
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