孤独な華。 | ナノ

2/4


 悟浄は、先程までの旬麗との話と嵐詩との話も思い出し、目を伏せた。どのくらい経っただろうか。すぐだったかもしれない。


『こーんなところでひとりでたそがれて、何してるんです?』
 

 その声にハッと振り返るといつからいたのかすぐ後ろのすぐそばに冬夜がいた。
 

「びっっっくりしたぁ…」
『あれ、すみません』

 はははと笑う冬夜に「気配消して近づいてくンなよ…冬夜チャン…」と苦い顔。冬夜はそれに対して悪びれもなく隣に並んだ。


『そうそう、聞いちゃいました。八戒さんから、悟浄さんのこと。……というか、爾燕さんのこと。』

 さらっと告白する冬夜に、悟浄は二度見する。そして目が合うと冬夜は、すみませんと申し訳なさそうにした。悟浄は、あーーと頭をかいて、反対に視線を逸らす。



「別に謝んなよ。言うなとも言ってねぇし、聞くなとも言ってなかったしな」
『あ、そう言って貰えるとこっちも気が楽ですー』
「……軽くね?」
『重い女の方がお好みで?』
「それはまた話が違うっしょー」

 軽い冗談を飛ばしあい、悟浄が笑ったのを見て、冬夜は微笑んだ。聞かなかったことには出来ないうえで、冬夜なりに考えた行動だったのだろう。安堵した様だ。

『冗談は置いといて……勝手に聞き出したことは申し訳ないと思ってるのは本当です』

 冬夜は、旬麗の家に来た頃から先程までは吸っていなかったこともあって、煙草の匂いに負けたのか煙草に火をつける。


『それで……まあ、ここで1つ話を聞いて貰えたらなっていうものがありまして…』

 フーと一息ついてから、冬夜はそう切り出した。丁度いいですし、と。
 そうして話し出したのは ひとりの少女の話として語られた。

――とある所で生まれた少女は、人工受精で生まれた そんな始まりから、静かに優しい語り口で。悟浄は黙って最後まで聞いた。ふたりの煙草はどんどん短くなって灰が増える。



「……それ、嵐詩のことだろ」
『あ、わかります?』


 にっこりと笑顔で冬夜は悟浄の言葉に返事をして、からから笑った。いやあ実は と続ける。
 

『この話、悟空くんたちにはしたんで、仲間外れは可哀想かなと思いまして。知らなくてもいいですけどね。……あ、一応これ、嵐詩に口止めもされてませんから、大丈夫ですよ?』


 とこの話をした裏話をして、また煙を吐く。悟浄はそれに何を言うわけでもなく さいでと頷いた。変にマメなのか律儀なやつなのか、そして自分と同じようにこうして話されている嵐詩に少なからず同情もした。自分と同じで、わざわざ話すことでもなければ、口止めするようなとこでもないと思っているんだろう。と、さっきまで目の前にいた少女の姿を思い浮かべる。
――…らしいわ
 と小さく笑いを溢すとこれを目敏く見つける冬夜。


『思い出し笑いですかー?助平』

 とからかい楽しげに笑うので、悟浄は似たような笑みを浮かべて

「何だと思う?」

 と冗談めかす。冬夜はうーーんと唸って少し考えるような素振りをしていたがすぐにちらっと悟浄のことを見ると


『嵐詩のことかな』

 と、どう?と言わんばかりのどや顔をした。悟浄はすぐに嫌そうな顔になる。



「心 読めんの?」
『いや、今の流れなら、大体そうだと思いますよ』

 オレじゃなくてもと言って『当たってたんですねー』とふふっと微笑み、

『悟浄さんって こう……わかりやすい時ありますよね』

 と片手に持っている新しく火をつけた煙草をふらふらと遊ばせながら呟く。それを聞くより早く先程よりも顔を険しくさせた悟浄が冬夜のことを見る。冬夜はそれを受けた瞬間苦笑した。


「どーゆー意味ヨ」
『悪い意味じゃないですよ?そーじゃなくって』
 
 悟浄からジトーとした目線を送られて冬夜は困ったとうーんと首を捻る。その続きを言おうとはしているのだが、なかなか言い出さずに、さらに困った表情になった。


『何て言えばいいんですかね……こう…オレにとってはわかりやすいタイプ…?というか…』

 言葉を選んでいるのか、ゆっくりと単語を繋げていく。悟浄はそこまで聞いても説明になっておらず要領を得ないので眉をひそめて「というか?」と被せて聞く。


 
『んー…生きてきた今までの中での経験でわかるタイプ?』


 首を傾げて、不思議そうというか本当に自分でもわかりきってない顔をして悟浄を見、しかも疑問形で返事をした冬夜に悟浄は呆れた。

 
「俺に聞かれてもわっかんねって」
『そりゃ、そーですよねぇ。すみません。しっくりくる答え出てこなくて』


 あははと笑って流す気の冬夜。悟浄もこれは答え出なそうだわと同じように流すことにした。2つの煙草の煙が闇に消えていく。
 冬夜はちらりと盗み見するように悟浄のことを見る。煙草を吸ってはぷかーと煙を吐き出すその人を見て、なぜか 不思議と気楽に話せてしまうことに気づいて、ふとこの場にいない相棒のことを思い浮かべた。
 そう、答えは単純なものだ。

――あぁ…嵐詩に似てるのか、この人
 思い付いてしまえば、えらく馬鹿らしいことだった。さっきまで自分が答えに近づこうとしながら言っていたことは確かに正解だった。完璧に似ている人間なんて(例外はあれど)そういないだろうが、そう気づいてしまったらおかしくておかしくて笑ってしまう。
 このふたりの奇妙な偶然に気づいてから、本人たちすら似ていると思うともうこれは笑うしかない。
 
――きっと、似てるなんて言ったら、どちらも複雑そうな、嫌そうな顔をするんだろうなぁ
 その表情をするふたりを容易に想像できた。同じように顔をしかめて『こいつとぉ?!』などと言うだろう。やめてくれ、も言うかもしれない。


『ふふ』

 思わず笑い声が零れた。
 

「なに、思い出し笑い?スケベ」

 悟浄がにやっと笑って、冬夜の肩を抱くようにして さっきの冬夜が言ったものを同じように返される。冬夜はそれすらおかしくてもう一度声を出して笑ってから

 

『ンな訳ないでしょー、悟浄と一緒にしないで下さい』


 とその肩に置かれた手をペシンとはたく。悟浄はその言葉にきょとんとした後にへぇと

 
「さん付けはヤメ?」

 からかう口ぶりで、でも優しげな目をして聞く。


『わざわざ付け続ける必要もないかと思いまして。長い付き合いになりそうですしねぇ』
「……冬夜と長い付き合いは別にいーケド、これ長く続くのはカンベン」

 ハァァと この旅が長く続くことを想像したのか深く長いため息を吐いて、冬夜はまあまあと宥めた。そして何度目なの短くなった煙草を灰皿へ押し付ける。そして、あっと声をあげた。



「どした?」
『そうだ、オレ 嵐詩のこと探しに来たんですよ、知りません?』

 目的をすっかり忘れていた と冬夜は出していた煙草とライターを懐へ仕舞って聞くと、悟浄はあぁと外を指差す。


「散歩するとか言って、あっちのほう行ったぜ」
『え、今?』
「そう、さっき。体が鈍るとかって言って、女は筋肉の維持すんのも大変なんだとかなんとか言ってたな」
『それでなんで散歩……』
「知らねぇよ、そこはおたくの管轄デショ」


――さては、嘘が下手だな?
 と、まあ恐らくはここから離れたかったんだろうと推理して、冬夜は玄関先へ向かう。


『ありがとうございました。とりあえず、もういい加減に迎えに行ってきます』
「おー 気ィつけて」
『どうも』

 ヒラヒラ手を振って見送る悟浄を置いて冬夜は足早にすでに暗い村を進んだ。
 

|



back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -