花宵 | ナノ





この月華修学院にきてからというもの、
宝生家との絡みがあったり、仕事が山積みだったり、不慣れだったりで、
なかなか自分の時間が取れなかったのだけど、
だんだんと落ち着いてきて、余裕が持てるようになったので、
また本を読み始めようと思った。
だって国語教師だし。

だから空き時間に、この古い図書館に来ているのだけど
人はぽつぽつといるけど、とても静か。
なんだか、空気が重い。
そして、ページをめくる音がやけに響く。

最初はこの空気に緊張してたけど、慣れてくると、とても集中できる。
学生が勉強するには、とてもいい場所だ。
私は物語の世界に入り込んでいった。






「何を読んでいるんですか」

「わっ」

どのくらい時間がたったのだろう。
読書に没頭していると、突然、真後ろから声がした。
小さく、穏やかな声だったけど、この静かな空間になれてしまった私を驚かせるには十分だった。

「き、桔梗先生」

「すみません、驚かせてしまいましたか?」

顔を上げると、そこにはとても国語教師とは思えない外見を持った(人を見かけで判断してはいけないけれど)、
上司の桔梗先生がすまなそうな顔で立っていた。

「ごめんなさい、全然気がつきませんでした」

足音がすれば気付いたかもしれないけど、この人は誰にも気付かれずに移動するのは得意だから。
うわさでは、忍者なんだとか。
桔梗先生は、となりのイスをひいて、スッと座ると、またいつものように微笑んだ。

「とても集中して読んでいましたね」

「はい、のめりこんでしまって・・・」

気づけば、めくったページは全体の半分を超えている。
しおりを挟んでパタンと閉じた本の表紙を見て、桔梗先生はクスッと笑った。

「おや、この本はわたしも好きでよく読みますよ」

「そうなんですか」

「ええ、とても勉強になりますし」

桔梗先生と一緒の本を読んでいたというだけで、なんだかうれしい。

「桐原先生は、読書が好きなんですか?」

「はい、最近までは忙しくてなかなか時間がなかったんですけど、またちょっとずつ、読もうと思っているんですよ」

「そうだったんですか。・・・なら、わたしの本を貸してあげますよ」

と言って、桔梗先生が取り出したのは、今、私が読んでいた本の作者の別のシリーズ。
私が読みたかったやつだ。

「いいんですか?」

「ええ。きっと気に入りますよ」

「ありがとうございます」

ニッコリ笑って、お礼を言うと、桔梗先生もうれしそうに微笑んだ。

「では、わたしは先に戻りますね」

ごきげんよう、と言って、桔梗先生は図書館を出て行った。

「うれしいな」

憧れの人の本。
たった一冊の本で、こんなに私を幸せな気分にするなんて。

「あれ?」

表紙を開くと、そこに1枚の紙がはさんであって
見覚えのある、きれいできちんとした字で何か書いてあった。



―今日の午後8時、教員寮の前で。








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いつもながら、変換少ないです
ごめんなさい





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