花宵 | ナノ
朝から穏やかな天気で、なんだか私の気分もウキウキ。
桔梗先生が育てているお花も、太陽の光を浴びて、なんだか嬉しそう。
窓から桔梗先生によって綺麗に整備された花壇が見える廊下を歩いていると、後ろから突然抱きつかれた。
「わっ…あ、綾芽くん!」
振り返ってみると、初めて会ったときよりずっと大人っぽくなった綾芽くんが、悪戯をした子供のように笑っていた。
「相変わらず、色気がないな」
「むっ…余計なお世話ですっ!」
「膨れっ面のアンタも可愛いよ」
クスクス笑う綾芽くん。
貶されてるのか誉められてるのか、わからなくなってくる。
「というか!学校で抱きつかないでよ」
そう。ここは学校の廊下。
いつ誰がきてもおかしくない。
幸い、まだ登校している生徒は少ないが。
教師と生徒が恋人同士、なんて、許されないのだから、いつも慎重に行動しなければいけないのに…わかってるのかな、綾芽くん。
「ほんとは嬉しいくせに。…じゃあ、キスしてくれたら俺教室に戻るよ」
「えぇ!?」
「だめ?」
「だめです!」
と言ったものの、綾芽くんに後ろからがっちり抱き締められている今、逃れるにはキスするしかないのだろうな…。
「キスしてくれないんなら、このままずっと離さないよ?先生」
ほらね。
この子は、いつのまにか葵理事に似てきたんではないだろうか。
私は小さくため息をついた。
―誰にも見られてませんように。
そう願って、綾芽くんと向き合うと、背伸びをして、唇にチュッとキスをした。
「ほら、これでいい?」
「…まあ、ギリギリ合格ってとこかな」
この坊っちゃんが。
でも、私の体にまわされていた腕は解かれて、やっと解放された。
とりあえず、一安心かな。
「ほら、キスしてあげたんだから、教室に戻りなよ。私は仕事しなきゃならないし」
「ああ、名残惜しいけど、そうする。じゃあ、またあとで、先生」
そして、最後に綾芽くんは
私の耳元に口を寄せて、こう囁いた。
「今度はもっと深いキスしてよ、珠美」
綾芽くんの口調って、これであってます?
そこ不安だし、さらに無理やりな展開かな…?(´ω`)
10.04.06