黒子のバスケ | ナノ

うろ覚えだったあの日



はっきりと覚えていたくなかったのかもしれない。
彼女が遠い、京都に行くと、言った日のことを。

――――――――――――――――――

「誕生日おめでとう、テツくん」
「ありがとうございます」

東京と京都、遠く離れた空の下。
電話越しに祝福の言葉を告げる名前の声は、少し寂しそうだった。
現在午後7時、寮の規則で0時ぴったりに電話は出来なかったが、それでも電話の向こうの黒子はなんだか嬉しそうだった。

WCも無事終わり、洛山は優勝した。
決勝戦で1歩届かなかった誠凛は準優勝という結果で幕を閉じた。

「テツくん」
「なんですか?」

雪がチラチラと降る外を見ながら名前は問う。

「まだ怒ってる?私が洛山に行ったこと」
「・・・もう怒ってませんよ。名前さんが決めた道なら、僕は止めません」


――――――――――――――――――ー

はっきり言ってしまえば、覚えていない。
彼女が洛山に行くといった日、ちょうど一年前の今日だった。 
いきなり京都に行く、赤司くんについていくと言い出すから。
何を言っているのか最初は解らなかった、でも。
中学を卒業して、赤司くんと一緒に京都に行った彼女を見て、
やっと理解できたんじゃないかと思う。
彼女は隣にいない、ただそれだけなのに、胸にぽっかり穴が空いたみたいだった。

――――――――――――――――――

コンコンとドアを叩く音がした。
電話の黒子に少し待ってと声をかけた名前はドアを開ける。

「赤司くん?」
「明日の練習の話をしようと思ったんだが・・・テツヤか?」
「あ、うん・・・」

その反応を見て微かに微笑んだ赤司は名前に電話を貸してくれと言った。
赤司くんに代わるね、と言う暇もなく赤司の手に渡る携帯電話。

「・・・赤司くん・・・ですか?」
「あぁそうだ、久しぶりだなテツヤ」
「お久しぶりです、WC以来ですね」

少し嬉しそうな顔で黒子と会話をする赤司。
たまに名前へ視線を送るから長くなりすぎないように、とでも気をつけているのだろうか。

「テツヤ、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
「春休みにでもこっちにみんなで来ればいい」
「みんな・・・ですか?」

きっと赤司の言うみんな、とは世間からキセキの世代と呼ばれているメンバーのことを指すのだろう。
みんなが遊びに来る未来図を予想したのか、赤司はまた微かに笑っていた。

「わかりました、考えてみます」
「あぁ、じゃあまた」

また来るよと言い残し部屋を出ていった赤司。
名前の手に戻った携帯を再び耳に当てる。

「次会えるのは3月かな」
「かもしれませんね、楽しみです」

やはり少し嬉しいのか声が少し高くなっていた。
もうすぐ電話をし始めて1時間、そろそろ切らないと寮の時間が危ない。

「じゃあね、テツくん」
「あ、待ってください名前さん」

電話越しに少し慌てる黒子の声、何を言うのかと思ったら小さな声でぽそりと。

「愛してますよ、名前さん」
「っ、それは、反則だよテツくん・・・わたしも」

そうして電話を切った名前の顔は赤く染まっていた。

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今日が付き合って1年目の記念日だった。
京都に行くと言って、好きだよと言われて。
僕の頭の中は何がなんだかわからなかったけど、
そんな中でも彼女のことが好きなことだけは変わらなかった。


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