「――なんだ。」
博士の口から飛び出したのは、思いもしない言葉。
「藍はロボットなんだ。」
藍先輩はいなくなったのは3日前、なんの連絡もなしに突然―。
博士はよく事務所まで遊びに来ていた、
藍先輩を心配しては帰れと言われるのがいつもの光景で、
なのに、その先輩が、藍先輩が―。
「…ロボットってどういうことですか?」
「どうもこうもなにもないよ、藍はロボット、それだけだ。」
目の前にいる先輩は目を閉じて眠ったまま、
藍先輩って呼んだら起きてくれそうなのに。
「とりあえず今はシャットダウンしてるから起きないよ。
……君にね、大事なお願いがあるんだ。」
「…なんですか?」
博士は長い前髪をいじつつパソコンに向かう。
キーボードを軽快なリズムで叩きながら博士は話し始めた。
「藍にとっての最優先事項は"ロボットだとバレないこと"。
幸い来栖くんや四ノ宮くんにはバレていないようだけどね。
このことを知っているのは僕と君、そしてシャイニーさんだけなんだよ。」
藍先輩はアイドルで、歌も歌うしテレビにだってたまにだけど出る。
お芝居だってお喋りするのに…。
「…あ、れ…なんで…泣いてるの…っ」
なぜか目から流れ出す涙は止まらなくて、それでも博士は話を続けた。
「藍がロボだとバレた時には記憶を消したり、アイドル活動をやめさせるはず…
だったんだけど。…どう春歌ちゃん、ここで取引をしないかい?」
「取…引ですか?」
博士はキーボードを打つ手を止めると、少し明るい声で話し始めた。
「僕はね、人間の心が知りたいんだ。好きとか嫌いとか、嬉しいとか悲しいとか。
そういう感情はどこからきてどこへ行くのか。
藍は最初「はい」と「いいえ」しかわからないような子だったんだ。
でも事務所のみんなといるうちに感情のレパートリーは増えていろんな表情を見せるようになった。
といっても「はい」と「いいえ」に「わからない」が追加されたくらいなんだけどね。
…でも君と出会って藍は「恋」をした。恋っていうのは「好き」っていう感情でしょ?
それを藍は学んだ、君のお陰で」
「藍先輩が…」
私と藍先輩は付き合ってる、でも私が一方的に告白したようなもので、
「僕は好きって気持ちがわからない。だから君を好きかもわからない」
そう言っていた、その時はなぜそんなことを言うのか不思議に思っていたけど
今ならそう言っていた藍先輩の気持ちがわかる…ような気がする、でも…。
「藍先輩は本当に「好き」っていう感情を知ったんですか?」
「うん、データ上ではね。似たような感情が記録されている。
でもその気持ちこそが「好き」という感情であることを藍は理解してない。
要するに恋愛感情として捉えていないんだ、よくわからないもやもやした感情…
ぐらいにしか思っていないはず、だ。」
「そう…ですか…」
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