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夢に溺れたまま眠らせて


「ねぇ、翔〜」
「…なんだよ。」
「音也ってなんであんなに天然なのよ…」

…知るか。
幼なじみである春歌は人の気も知らずに平然と音也がどうだと聞いてくる。
だいたい音也とお前は付き合ってるんだから俺じゃなくて本人に聞けばいいだろう。

「そんなの音也に聞けばいいだろ」
「音也はまず自分が天然だってことわかってないよ…」
「…だいたいなんでお前は俺の部屋に居るんだよ」

時は夕暮れ、この時間なら音也は必ず部屋にいる。
春歌と同じ部屋に居ると自分の不機嫌さと幼さにイライラしてくる。

「いーじゃん、幼なじみでしょー?」
「…音也がいるだろ」
「トキヤんに今日は来るなって言われたんだよー、課題終わってないからって」

ならば自分の部屋に戻ればいい。
こうして春歌と2人でいると恋人という錯覚に毎回陥りかける。

「…あっそ」
「ねぇ、翔。怒ってる?」
「別に怒ってねぇよ」

春歌はこうして俺の部屋に来たからといって何をするわけでもない。
ただごろごろと漫画を読み雑誌を広げ時間を潰して帰って行く。

「嘘だよ、絶対怒ってる。」
「怒ってねぇ」
「嘘、なんで怒って…」
「怒ってねぇって言ってんだろ!」

…言ってしまった。
俺ながらこんなに声を上げたのは那月以外で久しぶりだ。
実際問題、春歌に対しては何も怒ってなどいない。腹を立てているのはこんなことで機嫌を悪くする自分に、だ。

「…ごめん…」
「…別に大丈夫…。あ、翔…」
「お前はいつもみたいに漫画でも読んでろ」

そう言い残した俺は二階にある自分の寝室に向かった。
今は春歌と同じ部屋に居たい気分じゃ……ない。

「はぁ…」

寝室に着いた俺は自分のベッドに飛び込んだ。
そしてこんな自分に腹を立てつつ、目を閉じた。

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