妖狐×僕SS | ナノ

そっと唇に触れて


ある日の昼下がり。

「…渡狸」
「ん、なんだカルタ」

鈴カステラをもふもふ食べながらカルタは渡狸にあることを問いかけた。

「…キスってどんな味がするの?」
「ぶっ、げほっげほっ…。な、なにをいきなり…!」
「ちよちゃんがこの前御神狐とキスしたって言ってた」

無事恋人になった御神狐双熾と白鬼院凛々蝶、つい最近やっとファーストキスを経験したらしい。

「ちよちゃんがキスは甘い…って」
「へ、へぇ…、だ、だったら甘いんじゃねぇの…?」
「でも唇は甘くない…。渡狸、なんで?」
「いや、俺に聞かれても…」

突拍子もないカルタの質問にしどろもどろになりながら答える渡狸。
彼の顔は少なからず赤くなっている。

「…なんで甘いって言われてもなぁ…。確かめる方法がないs」
「だったらホントにしてみればいいんじゃないかなー☆」
「って遮るなぁ!…っうええええ!?」

渡狸の話を遮ってやってきたのは残夏。
いつもとは違う私服でうさ耳はない。
残夏は渡狸に唐突な提案を出し始めた。

「だってそうでしょ?カルタたんがわからないって言うなら渡狸が教えてあげればいいじゃなーい☆」
「いや待て!仮にもキ、キ、キス…だぞ!そういうのを簡単にするのは…」
「不良じゃないって?」
「あぁ、そうだって違う!不良とかって問題じゃねぇだろ!」
「じゃぁなんでー?」

いつもとように笑顔で問いかけてくる残夏。
何故という質問に答えられない渡狸。
なにかを言おうとしている渡狸をカルタはもみじまんじゅう片手に見つめていた。

「渡狸…だめなの?」
「だ、だめって…。お前は、いいのかよ…」
「渡狸なら…いいよ」

桃カステラを食べながらあっさりと答えるカルタ。
残夏が無理に言った提案が簡単に通ると思っていなかった渡狸は面食らっていた。

「ほらほら〜、カルタたんもいいって言ってるんだから〜☆」
「え、あ、その…。本当にいいのか…?」
「うん」
「わ・た・ぬ・き☆ さぁ愛のキッスだよ〜。」
「お、おう…」

顔を燃え上がりそうなくらい真っ赤にしてカルタに近づく渡狸。
後少しで唇が触れる、念願の初キッス…!と思った刹那。

ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー

「ん…カルタ…」
「渡狸ー、起きないと遅刻だよー、渡狸ー」
「ん…あぁ………ってぅぇえ!?」

時計の針は7時30分を指している、そろそろ妖館をでなければ確実に遅刻だ。
渡狸は何を慌てているのか、おこしに来た残夏とカルタを交互に見ては目をぱちくりさせている。

「え…あ、あ…なんで…」
「渡狸、どうしたの?変な夢でも見た?」
「いや、変て言うかお前……」
「…わたし?」
「はいはーい、ほらはやく着替えて!遅刻するよー!」

朝からカルタを見て真っ赤になっている渡狸を急がせる残夏。
未だに渡狸は今の状況が理解できていないようである。
仕方ないだろう、一連の出来事はすべて夢であったのだから

凛々蝶と双熾がキスをしたというのは紛れもない事実であるが、そのあとは全くの夢物語、渡狸の脳内での出来事にすぎなかったのである。

「じゃあボクとカルタたんは先に車に行ってるから早く来てねー」
「あぁ…わーったよ…」

朝の支度をしながら一連の出来事の真相にやっと気がついたのか、渡狸は非常に不服そうである。
夢とは思えないくらい鮮明に残っているのに全部まやかしであるというのは辛い事実である。

準備を終え車に乗り込み急ぎ足で学校へ向かう。
車内はいつもより静かで、誰もなにも話さない。

「じゃあいってらっしゃーい、帰りもいつもと同じ時間にくるねー☆」
「あぁ、じゃあな」
「…渡狸。」

車を降りて校門に向かおうとしたその時、カルタが渡狸を呼び止めた。

「どーした、カルタ」
「耳、貸して」
「耳?別に良いけど…」
「…………。ね?」
「お、お前…!なんでそれ…!」

顔を真っ赤ににしてカルタに問う渡狸。
何を言われたのか、誰も聞こえないほどの声でカルタは何を言ったのか。

「…秘密。」
「って、おい待てよ、カルター!」

そう一言残しカルタは学校へ向かい歩き出す。
そんなカルタを真っ赤な顔のまま追いかける渡狸。




2人の日常は、いつもと変わらない。








「渡狸なら…いいよ」

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