皆の先輩シリーズ | ナノ


▼ 未門陽太@(1/3)

初めてその女の子を見つけたのは、俺がまだ病院内を自由に歩けていた頃だった。
今日は母さんも父さんも忙しい、という話をされていたが、そんな時に限って弟のために描き始めた『太陽番長』も手詰まり状態だった。いわゆるスランプというやつかもしれない。
そういう時は描きたくなるまで別のことをするといい、と聞いた気がする。ならばなにか本を借りて読もうと思い立ち、早速本棚のある一角を目指した。
平日の昼間の病棟はすれ違う人もまばらだ。途中、顔見知りの看護師さんと出くわし、挨拶と共に体の調子を確認された。特に異常はないので大丈夫です、と告げると看護師さんは良かった、と言って微笑んだ。
その看護師さんと別れ、ほんの少しだけ歩いた時だった。
本棚のある一角の手前、廊下に並べられた長椅子の上に目が止まった。
金髪の女の子が一人、薄手の布団にくるまりながら眠っている。
思わず足を止めて辺りを見渡すが、保護者の姿はない。誰かに聞こうと思ったが、いつの間にか廊下にひと気がなくなっていた。

「……おーい」

少し迷いながらも声をかける。
どうやら深く眠っているわけではないらしく、女の子の肩が僅かに動いた。

「おーい、こんなところで本気で寝ると風邪引くぞー」
「うーん……?」

肩を揺すると、眠たげな声と共に女の子の目がうっすら開いた。
深い緑色の瞳が、俺を捉えた。

「あと……」
「あと?」
「あと六時間……」

明らかに本気の睡眠時間だ。

「おーい、起きろー。先生に呼ばれるの待ってるんじゃないのかー?」

病院の、それも廊下にある椅子に寝ているということは入院している知り合いのお見舞いか、診察待ちないし診察の結果待ちのどちらかだ。
まず、入院している知り合いのお見舞いという線だが、保護者が近くに居ない上に明らかに家から持ってきたであろう薄手の布団にくるまっていることを考えると必然的にそれは除外される。
つまり、この子は十中八九診察待ちか診察の結果待ちだ。
どうやらその予想は当たったらしく、女の子は少しだけ首を起こした。

「そうだった……ありがとう、見知らぬ人……そしておやすみ……」
「結局寝るのか……」

女の子は再び椅子に頭を預け、眠り始めた。すうすうという穏やかな寝息まで聞こえてくる始末。
なんとかして起こすべきだろうか、と悩んでいるうち、不意に椅子の隣にある扉が開けられ、ぎくりとした。
恐る恐る顔を上げると、そこには若いお兄さんが立っていた。一瞬医者の先生かと思ったが、白い服ではなく私服を着ているということは病院の利用者だろう。
お兄さんは診察室の方を見て一礼し、扉を閉める。憂鬱そうに溜め息を一つ漏らしたあと、椅子で眠っている女の子に視線を落とした。

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