皆の先輩シリーズ | ナノ


▼ 氷竜キリ(1/2)

「おや、邪魔したかな」

僕が中学生の不良グループに殴られそうになった瞬間、その女の人と男の人は唐突に現れた。
僕の目が確かなら、その二人は上から降りてきたように見えたのだが、そこを見上げても窓が閉め切られたビルがあるだけだ。つまり、ビルの屋上から地上に降り立ったことに他ならない。
その瞬間を目撃したのは背を向ける形にならなかった僕だけだ。不良グループは二人がこの路地裏に歩いてきたと勘違いをした上に、カツアゲの現場を見られたとあからさまに狼狽え始めた。

「あっ、えーと……別に俺たちはカツアゲなんかやってないッスよ!」
「そ、そうッスよ!」
「つ、つーか、いきなりなんスか、アンタら!?」
「いやあ、別に。ただ人気(ひとけ)のない場所に向かって逃げてきたのだけれど……しかし、まさか人がいたとはね」
「どうする気だ、カガリ。このままだと巻き込むぞ」

男の人が自身の額に手をあてながら深い溜め息を漏らす一方で、女の人は相変わらずにこやかに笑っていた。
笑って、そして大通りへと続く道を指さした。

「とりあえず、きみ達。今すぐここから逃げた方がいいよ」
「は」

その呟きを発したのは不良グループの誰かまでは分からなかった。
直後に女の人と男の人の後ろに、なにかが落下してきたからだ。女の人と男の人はほとんど同時に振り返り、そのなにかと対峙する。
砂埃が舞い上がり、奥で黒い影が揺らめいている。影の方から唸り声と共に強烈な獣臭さが広がり、僕は思わず両手で鼻を押さえた。
不良グループも同じく感じたらしく、彼らも制服の袖を使って自身の鼻を覆っている。
漂っていた砂埃が晴れ始め、その先に居たものを視認した。

「ひっ……!」

途端、僕の頬は恐怖のあまり引きつった。
そこにいたのは涎を垂らし、虚ろな目でこちらを睨む、黒い狼のようなイリーガルモンスターだった。名前は分からないが、僅かに体が透けていることを考えると恐らく髑髏武者だ。
しかし、これを本当に髑髏『武者』と呼んでいいのだろうか。
少なくとも、僕には理性もなく人を襲う獰猛な獣にしか見えなかった。

「いっ、イリーガルモンスターだっ!」
「お助けー!」
「お、おい! 俺を置いてくなって!」

不良グループが一目散に逃げ出した一方で、僕は完全に萎縮していた。
本能が逃げろと警鐘が鳴らしているが、上手く身体が動いてくれず、その場にへたり込む。
確か、獣は弱っている相手から襲うと、テレビで見た気がする。あの時はリビングのソファーの上だったため実感がなかったが、こうやって実際に向き合ってみると嫌でも分かってしまう。
獣は、女の人でも男の人でもなく、僕のことを見ていた。
真っ先に、僕が喰い殺される。
思わず顔を伏せ、かたく目を閉じた、まさにその時だった。

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