皆の先輩シリーズ | ナノ


▼ イカヅチ(1/4)

太陽のものとは違う白い光が窓の外から差し込んでいた。部屋には机と椅子が規則的に並べられ、正面には黒板が備えられている。見渡すと中央に座っている俺以外、人の姿はない。
いつの間にこんな場所に来たのだろう。ここに至る経緯を思い出そうとするが、自分が眠ろうとしていたことくらいしか思い出せない。
ならば、これは夢なのだろうか。
そんなことを考えながら周りを見渡し終え、改めて前を向いた時だった。

「おや、まさかこんなところで知らない子と会うとはね」

黒板の前にある、ほかのものとは少し形状が異なる机。その上に、いつの間にか女が座っていた。
金色の髪に、緑色の目。年齢は俺よりも少し上といったところだろう。
見たことがない服に身を包み、スカートから伸びる足に日焼けはない。少なくとも、暑さが厳しいこの土地の人間ではなさそうだ。

「……誰だ、てめェ」
「初めまして、少年くん。私は黒岳カガリという」
「別に名前なんて訊いてねェよ」
「釣れないなあ。せっかく自己紹介をしたというのに」

まあ、いいけれど、と。
そう呟いて黒岳カガリと名乗った女は肩をすくめた。
一体どこから現れたのだろう。先ほど、扉が開くような音はしなかったが。
ちらり、と部屋の外へ繋がるであろう扉の方を見る。当然、そこは閉まったままだった。

「ところで、きみはなぜこんなところに? 迷子?」

正面から投げ掛けられた言葉に、思わず顔をしかめる。
気付いたらここにいたのであって自分は迷子になったわけではない。そう伝えようと思ったが、そのまま自分の置かれた状況を伝えた場合、迷子になった言い訳に聞こえてもおかしくはない。

「……俺が知るかよ」
「なるほど、迷子か」
「違ェよ!」
「じゃあ、ここがどこか分かるかい?」
「それは……」

女は興味津々といった顔で俺を見つめている。
咄嗟に否定してしまったため、引くに引けなくなってしまった。
……もはやヤケだ。腹をくくるしかない。

「夢の中、だろ」

正直、自信はなかった。
けれど、眠ろうとしていたという情報しかない以上、これが夢だと信じるしかない。
例え椅子に座っている感触があろうが、かすかに埃独特の匂いがしようが、これは夢だ。
すると女はこちらを見つめたまま少し黙り込み、やがて微笑んだ。

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