▼ 荒神ロウガ@(1/2)
大公爵アスタロトをバディにしているファイターがいる。
そんな噂を聞いた際、アスタロトは一体どんな猛々しいやつをバディに選んだのか、と気になっていた。
しかし、これは完全に予想外だ。
群衆に囲まれているアスタロト。
それを背にする形でベンチに腰を下ろしている女がバディだと直感した。
携帯端末を使っているその女の目からはまるで闘志というものを感じられない。
期待外れ。
俺の頭にはそんな言葉が浮かんだ。
「……貴様がアスタロトのバディか」
声を掛けられた女は手を止め、俺を見上げる。
そして眠たげだった目を少し見開いた。
「君は確か……相棒学園中等部二年トップの荒神ロウガくん、だよね」
「ふん、俺の名を知っているのか」
「母校の後輩でランキング入りするくらい強い子はだいたい把握してるよ」
「……貴様、相棒学園の卒業生か」
「まあね」
つまり、少なくとも年上ということになる。が、あまり年が離れているわけではなさそうだ。
周囲の学校事情に詳しくないものの、制服を着ているということは高校生なのだろう。
女は俺が敬語を使っていないことを気にする素振りも見せず、言葉を続ける。
「ところで私に何か用かな、荒神くん」
「アスタロトのバディがどんなやつか見に来ただけだ。……まさか、こんな見るからに弱そうなやつだったとはな」
挑発の意を込めて言葉を投げ掛ける。
今まで戦ってきたファイターは腹を立てて勝負を仕掛けてきたが、今回ばかりは違った。
目の前にいる女は、ただ苦笑いを浮かべた。
「それは、期待させてごめんね。まあ、弱そうに見えても仕方ないかな」
「……何?」
女は気にするようにアスタロトの方をちらりと見る。そしてすぐさまこちらへ視線を戻した。
「バディがいると言っても、いまいち戦う気が起きなくてね。最近は未来のバディファイターを育てるくらいしかやることがない、腑抜けたファイターというわけだよ」
悪びれる様子もなく、開き直ったかのように、女は言う。
弱そうという言葉を肯定し、腑抜けたファイターであることを自称した。
仮にも大公爵アスタロトに認められた人間とは思えない言葉に、怒りにも似た感情が沸き始める。
「……見逃してやるつもりだったが、貴様を見ていて気が変わった。行くぞ」
「え、どこに?」
女の手首を掴み、無理矢理立ち上がらせる。女は目を丸くしたが、大人しくついてきた。
「ファイト出来る場所へだ。そこで完膚なきまでに、貴様を叩きのめしてやる」
低く唸るように告げると、女は意外そうにこちらを見つめた。その視線から逃れるように俺は前を向き、デュエルフィールドのあるカードショップへと向かう。
「ふうん。それは……楽しみだね」
頭に血がのぼっていたせいなのだろう。
この時、俺は女が呟いた言葉が楽しげだったことに気付くことは出来なかった。
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