皆の先輩シリーズ | ナノ


▼ 魔王アスモダイ@(1/2)

人間の中で最も関わりたくない。そう思った相手のもとを訪ねることになった。なんとも皮肉な話である。
少々心苦しい気もするのだが、確かめなければならないのは事実だ。

「こんにちは、アスモダイ。君が私のところに来るなんて珍しいね」

視線の先にいる黒岳カガリはこちらを見るや否や、俺のバディと同じ色の瞳を細めてうっそりと微笑んだ。
ようやく来たか、と言いたげな表情を見た途端、背中に嫌な寒気が走った。
目の前にいるのは、間違いなく人間だ。しかし、カガリは悪魔と同じくらいに人を食ったような性格をしている。
やはり、来るんじゃなかった。
そんな後悔に襲われるが、時既に遅し。さあ話したまえ、とばかりにカガリは二本持っていた缶コーヒーのうちの一本を俺へ手渡した。
相変わらず、正確過ぎる読みだ。

「……カガリ、お前のバディはどうした?」

夕日に染まる放課後の教室に、大公爵アスタロトの姿はない。事実上、俺とカガリの二人きりだ。
もしもこの場にアスタロトが現れたら非常に不味い。冗談抜きに俺の命に関わるだろう。
なにより、カガリはわざとアスタロトが嫉妬するように仕向けることがある。
まさかここで俺を消す算段では、という考えが頭をよぎるが、そんな俺の心配を察したらしいカガリは苦笑いを浮かべ、小さく肩を竦めた。

「アスタロトは今別の仕事を任せているから不在だよ」
「今度はなに企んでるんだ?」
「企んでるなんて心外だな。あまり聴かれたくない話だと思ったから外したまでだよ」
「そういう配慮が逆に恐ろしいんだよ」
「私としては君とアスタロトが修羅場になっても構わないけれどね。面白そうだし」
「……良い趣味してんな」
「それほどでも」

笑顔でさらりと嫌みを聞き流す辺り、相変わらず肝が据わっている。
魔王の命の危機を面白そうだと言い切った人間は後にも先にもこいつだけだろう。自然と頬が引きつった。

「さて、前置きはここまでにして、苦手な私に話すほどの案件とは一体なにかな? 君の顔を見た限り、それなりに深刻な問題とお見受けするけれど」
「……あらかじめ調べたんじゃないのか?」
「常に予想はしているけれど、常に予知はしているわけではないよ。流石の私も誰彼構わずプライバシーを知ろうとは思わないさ」

カガリはふいと窓の外に視線を向けたあと、プルタブを開けてコーヒーを一口飲んだ。どうやらこちらの顔を見ないでやるからとっとと話せ、ということらしい。

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